ばなー2

あやかし・妖怪・もののけ の違い ~創作のためのオカルトロジック~

 初めまして。

    柴犬とオカルトと三度の飯をこよなく愛するオカルト小説書き、岡本七緒(おかもとななお)と申します。

 突然ですが皆さんはオカルトお好きですか?

 私は好きです。三度の飯や柴犬と同じくらい好きです。

 趣味と性癖が高じて宝島社さんから青春ホラー小説を出版させていただいた程度にはオカルトとか怪異とか怪談とか妖怪とかそっち方面が大好きです。

 余談ですがその小説というのは、人には見えないものが見える遺品整理士たちがいわくつきの遺品整理に挑み、様々な出会いや別れを経て主人公が成長してゆくお仕事×オカルト×青春の少し切ない怪異譚です(宣伝)

 タイトルは日殁堂霊怪日録(にちぼつどうれいかいにちろく) 遺品整理屋はいわくつき

 しのとうこ先生の素敵な美麗イラストが目印となっております。

 我ながら面白い小説なのでぜひご一読ください。

 …………とまあ宣伝もそこそこに本題に入りましょう。

 noteでは私が小説を執筆する上で調べたオカルトの疑問やお役立ち情報を「創作のためのオカルトロジック」という記事にしてアップします。

 オカルトについて調べてゆく中で気になったこと、驚いたこと、興奮したこと、創作に使えそうと思ったことなどなど。

 それらを私自身の防備録であるとともに、記事を読んだ方がちょっと「おっ」となるような、少しでもオカルトに興味をもってくれるような。

 ホラーやオカルト、ファンタジー小説を書いている人の執筆の参考に、あるいは読んでる人の読書の予備知識になれるような、そんなコラムにまとめてゆきたいと思います。

 そんなオカルトロジックの記念すべき第一回はオカルトにおける基礎中の基、初歩中の初歩ともいえる「あやかし・妖怪・もののけ」の違いについて探ってゆきましょう。はい拍手うううううう!!(強制)

 初歩中の初歩じゃんと思うかもしれませんがこの3つの単語、何を指す言葉かなんとなーく分かっていても、言葉の意味を正確に定義し分類できる方ってあまり多くないんじゃないでしょうか。

 かくいう私も『日殁堂霊怪日録 遺品整理屋はいわくつき』を出版した時、帯のキャッチコピーを見た親に「幽霊・あやかし・神様の依頼だってこなします……って書いてあるけど、この”あやかし”って何?」と何気なく尋ねられ、返答に困った経験があります。

私「あやかしっていうのはほら、妖怪みたいな」

親「なら妖怪でええやん」

私「そこはほら、字面とか言葉の響きとか……文字数とか(錯乱)」

親「文字数ってなんやねん」

 妖怪もあやかしも聞いたことはありますし、なんとなく「こんな意味じゃないかな」的な漠然とした区別はできる……と思います。

 水木しげる先生や京極夏彦の作品は「妖怪もの」ですが、コバルト文庫や富士見L文庫など少女小説で描かれる少女×人外の和風ファンタジーは「あやかしもの」みたいな。

 でも両者の定義や違い、何故作品によって「妖怪」と「あやかし」という言葉を使い分けるのかを、私は全く説明できませんでした。

 手っ取り早くコトバンクで検索すると、「あやかし」という言葉の定義として以下の5つが該当しました。【※コトバンク「あやかし」参照

1.船が難破する時に海上に現れるという化け物
2.不思議なこと。また、そのもの。妖怪
3.コバンザメの別名
4.能面の一。男の怨霊を表す面
5.愚か者 (小学館 デジタル大辞泉)

  私が知っていたのは1番目の「船が難破する時に現れる化け物」と2番目の「不思議なこと。また、そのもの。妖怪」のみで、能面の一種だったり愚か者を意味する言葉でもあったとは初知りでした。

 ちなみに3番目のコバンザメの別名をあやかしと呼ぶ由来は1番目の「船が難破する時に現れる化け物」に近く、昔はコバンザメに限らずサメやイルカ、大ダコといった、船に害を成す海洋生物を「あやかし」と称していたそうです。(※①)

 しかし「あやかし」を漢字として見た時、そこにはもう一つ、別の意味が浮かび上がってきます。

 怪かし、又は妖かし。後者の「妖」は「あやしいこと・ばけもの」と同時に「なまめかしいこと・異様にうつくしいこと」を意味する漢字でもあるのです。妖艶とか妖麗って言いますもんね。(※『広辞苑』岩波書店 参考)

 妖という字は怪異と同時に「艶めかしさ・美しさ」を表現する言葉でもある。少女小説の和風ファンタジーを「妖怪」ではなく「あやかし」というジャンルに位置づけるのは、このあたりに由来がありそうですね。

 続いて「妖怪」はどうでしょう。【※コトバンク「妖怪」参照

化け物、変化とも呼ばれ、普通には人知の及ばない、畏怖感をそそるような現象、または異様な物体をいう。民俗学では、これを信仰が衰えて零落した神の姿とみている。 (※ブリタニカ国際大百科事典)

 「妖怪とは信仰が衰えて零落した神の姿」という創作の上で非常に魅力的な解釈はさておき、妖怪の言葉の意味も「化け物、人知の及ばない現象、異様な物体」という定義は「あやかし」と完全に意味がかぶってきます。

 また興味深いのは綜合図書の『大人のための妖怪と鬼の昔ばなし』(※②)という解説本で言及された、妖怪の成り立ちについて。

 妖怪とは元々何らかの怪異に名をつけたもので、たとえばどこかで不思議な音がすれば、それは「小豆洗い」という妖怪が豆を洗っているのだと説明(納得)した。こうして日本の妖怪はどんどん数を増やしていったのである。         (『大人のための妖怪と鬼の昔ばなし』綜合図書)

 妖怪とは怪異をキャラクター化したものという解釈は、私にとって非常にしっくり来るものでした。

 不可解な現象を説明し「納得」するために作られた存在。

 人間が恐怖を克服するため、レッテルを貼り付けた存在。

 つまり妖怪とは怪奇現象を把握し、可視化するためのキャラクターなのです。

 では「妖怪」と「あやかし」の違いとは何か。

 怪異という現象やそれが与える影響に焦点を絞り、キャラクター化したものが「妖怪」。

 対して怪異が持ちうる美しさや妖艶さ、幻想的な雰囲気に焦点を当てた作品は「あやかし」に分類されるのではないでしょうか。

 最後に「もののけ」。言葉のおどろおどろしさでは三者の中でナンバーワンだと個人的に思いますがどうでしょう。

 『世界大百科事典・第2版』(平凡社)によると

物の怪のモノは広義にはマナに近い自然的または超自然的な霊のことで、この正体不明の霊的存在が人に憑依して病気にしたり命を奪ったりすると考えられる現象を「物の怪」という。物の怪は平安時代の文献に頻出し、邪悪な霊の発現をいうことが多い。その正体はたいてい嫉妬や怨恨をもった生霊や死霊であるがのちには鬼の形でイメージされることもあった。


 と定義されています。【※コトバンク「もののけ」参照】

 更に『日本大百科全書』(小学館)では更に限定的なものとなってゆきます。

 生霊、死霊などの類をいい、人に取り憑いて病気にしたり、死に至らせたりする憑き物をいう。 

 かのスタジオジブリ代表作『もののけ姫』では、エボシ様がサンを「もののけの姫」と侮蔑を込めて呼びます。

 『源氏物語』でも嫉妬に狂い、葵の上に取り憑いて苦しめた六条御息所の生き霊を「物怪(もののけ)」と表現する箇所が散見されます。

 怪異、妖怪は必ずしも人に危害を加える存在とは限りません。

 不可解ですが無害なものや、稀に人を助けたり、時と場合によっては福や富をもたらす妖怪もいます。酒をくれた人間の仕事を手伝ってくれる「山童」や「三吉鬼」、山道を歩くとき食べ物を供えると、危険から守ってくれる「送り狼(犬)」など。

 しかしもののけという言葉には「正体不明の霊的存在が人に憑依して病気にしたり命を奪ったりすると考えられる現象」かつ「生霊、死霊などの類をいい、人に取り憑いて病気にしたり、死に至らせたりする憑き物」とあるように、人を害する霊的存在というニュアンスが強いようです。

 以上をまとめると、三者の違いは

あやかし……美しく妖艶、幻想的な怪異
妖怪……怪異のキャラクター化
もののけ……人に害を成す霊的な存在

 こんな感じに区別できそうです。

 いかがでしたでしょうか、「あやかし・妖怪・もののけ」の違い。

 創作のためのオカルトロジックでは「怪異を書く、読む、愛でる」をモットーに、様々なオカルトに関する疑問やお役たち情報をまとめてゆきます。

 オカルトが好きなそこのあなたも、ファンタジーやホラーが好きなそこのあなたも、ネタに悩む物書きさんも、お気軽にのぞいていってください。

 そしてこの記事が少しでも役に立ったとか面白いと思ったら是非、岡本七緒を応援してやってください。

 具体的には『日殁堂霊怪日録日録 遺品整理屋はいわくつき』をAmazonなり書店なりでポチってやってください(土下座)

 それかチャット小説アプリDMM TELLER公式連載『呪いの沙汰も金次第』を読んでやってください。苦労人の女の子が守銭奴の祓い屋に振り回される呪術奇譚です。

  六七質先生の素敵なイラストが目印!(宣伝)

※無料アプリのダウンロードと、全話読むには有料会員登録が必要です。(2020年8月現在)

 

  まあこの記事は初回ということもあり無料ですが、今後は内容によってはちょっと濃い有料記事もアップしてゆく予定です。

 乞うご期待&応援待ってるぜ!!!!!


【参考文献】

①『江戸幻獣博物誌 妖怪と未確認動物のはざまで』 伊藤龍平 青弓社 2010

②『大人のための妖怪と鬼の昔ばなし』綜合図書 2014

※あくまで岡本七緒個人の調査結果と私見です。正確なデータの引用は参考文献の参照をおすすめします。

【お知らせ】

小説家になろうに連載中の『奇書館黄昏堂の魔女  ~名もなき手記と追憶の栞~』が第八回ネット小説大賞を受賞しました。

宝島社様より書籍化予定です。

乞うご期待!



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