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ビジネスにおける「勝ち筋」を考えてみた!①

ビジネスをうまく進める上で「勝ち筋」は非常に重要になります。しかし同時に、「勝ち筋を見極める」というのは今ひとつ分かりにくい取り組みでもあります。

そこで、「勝ち筋の見極め方」について考えてみたいと思います。

ただ、勝ち筋の見極め方はたくさんあると思いますし、どんな場面でも機能する「普遍の方程式」のようなものはないとも思っています。なので、ここでは私が経験した事例を使いながら「こんな風に勝ち筋を見極めました」というケースをご紹介したいと思います。不十分な内容もあるかもしれませんが、少しでもビジネスの参考にしていただければ幸いです。

勝ち筋とは何か?

そもそも「勝ち筋って何?」という声があるかもしれませんので、まず私なりの「勝ち筋」を定義したいと思います。

勝ち筋とは、「市場構造の中にある自社が攻めやすい部分」のことだと考えています。そこを発見し、有利に戦いを進められる仕組みを見つける(& 組み立てる)ことが「勝ち筋を見極める」ことだと考えています。

特に、市場構造を解き明かす中で、まだ誰も気が付いていない市場の分類であったり、まだ誰もいないニッチな市場などを見つけることができ、その市場を獲得するための商品開発を行い、確実にその市場を獲るための販売の仕組みを組み立てることが、「勝ち筋をつくる」ということだろうと考えます。

定義はしてみましたが、抽象的で分かりづらいと思いますので、以下で具体例を使いながら「勝ち筋を見極める」ことについて考えてみたいと思います。

ある工務店のケース

ある工務店(A社)さんのケースを使って考えてみたいと思います。

A社さんは、売上げ低迷に悩んでおられました。原因は「競争の激化」。価格、デザイン、機能性、暮らしやすさなどいろいろな付加価値を提案する競合他社が増えたことで競争が激しくなり、A社さんは(お客様から)なかなか選んでもらえなくなっていました。

その時点におけるA社さんのウリは、「技術力の高さ」と「アフターサービスの良さ」だったのですが、これらはお客様に刺さらなくなっていました。

技術力はほとんどのハウスメーカーや工務店において十分な水準に達しており、そこでの差別化は難しくなっていました。アフターサービスについても同じです。なので、A社さんは、どのような方向に進むべきなのか悩んでおられました。

そんなタイミングで、当社にご相談をいただいたケースです。「売上げを回復する方法を一緒に考えてほしい」と。

そこで、まず基本的な作業として市場、競合、お客様、A社さんについてそれぞれ理解するための調査からスタートしました。

このケースの出発点として、当時「A社さんは、市場をどう見ていたか?」をご紹介しておきます。以下の図です。

A社さん(および、多くの競合他社)は、市場を「価格帯」「機能性 vs. デザイン性」という軸で見ておられ、この見方に沿って事業戦略を立てておられました。

まず、「価格帯」。例えば、高価な注文住宅を得意とし、富裕層のお客様から支持を得る企業から、低価格の企画住宅を大量に、そして効率的に販売する工務店まで多義に渡ります。

もうひとつの軸は「機能性 vs. デザイン性」。機能性は、例えば「家事が楽な家」という売り文句で、機能性の高いキッチン、収納、間取りなどを共働き世帯に提案するハウスメーカーや工務店などがその典型です。

デザイン性は、都会的でオシャレな外観やリビングなどにより「憧れの暮らし」を訴求するハウスメーカーや工務店などといった具合です。

ほとんどの企業が、この「価格帯」と「機能性 vs. デザイン性」という軸の中で考え、自らの強みを発揮しようとしておられました。

A社さんは、「中価格帯」に位置し、「高い技術力で、お客様のご要望に応える」「高い技術力で、高い機能性を実現する」といった方針で、競合他社と競っておられました。

勝ち筋を見極める

そうした中、当社は「お客様は、どういう基準で依頼するハウスメーカーや工務店を選ぶのだろうか?」という点から市場を解き明かしていきました。

言うまでもなく、家(=戸建て住宅)は高額な買い物。多くの人にとって人生最大の買い物で、最初で最後の買い物である可能性が高い。そのため、それぞれのお客様の要望が強く反映され、個別性が高くなるのが現実。よって、十人十色・千差万別な理由や事情でお客様はハウスメーカーや工務店を選んでおられます。

しかし、調査をする中で2つの点においてとても重要な発見がありました。

ひとつは、「お客様は、家をどのような視点で見ているのか?」という点。お客様は深層心理のレベルで2つのタイプに分かれるようです。

ひとつは「家 = あくまでもハードとしての存在」と見ているお客様。もうひとつは「家 = ソフト的な側面も含めた存在」として見ているお客様。前者は、デザイン、間取り、機能性、耐震性といった目に見える部分が判断の重要な基準になっていますが、後者は「こんな家族でありたい」や「子ども達とこんな風に暮らしていきたい」といった考えがあり、それを実現する重要な存在として「家」を見ているというイメージです。

もうひとつの発見は、「それぞれのお客様は、何に満足を感じるのか?」という点。

こちらも(大きく分けると)2つになり、ひとつは「実用的な側面に満足を感じるお客様」で、もうひとつは「精神的な側面(=心)に満足を感じるお客様」。前者は、価格、デザイン、機能性、利便性、暮らしやすさといったことに満足を感じ、後者は、例えば「夢の北欧住宅に住みたい!」とか、「ずっと憧れていたログハウス調の家に住みたい!」。あるいは、「設計は、有名な〇〇先生にお願いしたい!」といった感覚です。

そこで、これら2つの点を判断基準にしてお客様を分類してみると、今まで考えなかった競争の構図が浮かび上がってきました。それを図にすると以下になります。

図の中の4つのカテゴリーを簡単に説明しておきます。

  • Aは、「家をみる視点 = ソフト的な側面を重視」と「満足する源泉 = 心の満足」というカテゴリー。例えば、「有名な〇〇先生の設計だ!」や「総檜造りの家だ!」といったところに満足を感じるお客様です。高額な注文住宅に多いケースです。

  • Bは、「家を見る視点 = 家をハードとして見る」と「満足する源泉 = 心の満足」というカテゴリー。「憧れの北欧住宅!」や「夢のログハウス!」といった感覚をお持ちのお客様で、ハードとしての家のカタチがお客様のこわだりであるタイプです。

  • Cは、「家を見る視点 = 家をハードとして見る」と「満足する源泉 = 実用的な満足」というカテゴリー。価格、デザイン、機能性、利便性、耐震性などを重視するお客様で、最も割合(=数)の多いお客様のカテゴリーです。

  • Dは、「家を見る視点 = ソフト的な側面を重視」と「満足する源泉 = 実用的な満足」というカテゴリー。「家族が一緒にいる時間を大切にしたい」といった気持ちを、家のデザインや間取りに反映したいと考えているようなお客様です。

そして、重要な点は競合するライバル企業の立ち位置が以下のようになっていることです。

ボリュームゾーンは「C」のカテゴリーで、多くのハウスメーカーや工務店がここで競い合っています。「技術力」と「アスターサービス」のA社さんも「C」の中にいます。

もちろん、このカテゴリー内で価格、デザイン性、機能性などによってさらに細かいカテゴリー(市場セグメント)に分かれるのですが、このカテゴリーに多くの企業が集中していることで「戸建て住宅とはこういうものだ!」というお客様側の認識に大きな影響を与えているようです。

また、ここに多くの企業がいることが、価格競争を誘発する原因にもなっているようです。

「A」と「B」はいずれもニッチな市場です。それぞれに特化した戸建て住宅を提案する企業がこれらのカテゴリーにいます。

そして、「D」には工務店というカタチでは競合がいないことが分かりました。これは、工務店の企業文化に影響されている側面が大きいようなのですが、工務店は「職人気質」が強く、「技術」が重視されます。そのため、「家 = 自社の技術の集大成」といった考え方になりやすく、「家をハードとして捉えがち」という傾向が生まれるようです。

言い換えると、お客様の深層心理の中にある「家の捉え方」と、工務店が提案している価値の間にギャップがあり、その歪が「Dに誰もいない」という状況をつくり出しているイメージです。

「軸」を変えて市場を見直してみると、まったく別の市場構造が見えたということでもあります。

いずれにしても、「D」のカテゴリーが空白地帯になっており、(インタビューやアンケート調査の結果)15~20%のシェアがあると推計しました。A社さんにとっては十分な大きさです。しかも、このカテゴリーには「高学歴・高所得の共働きご夫婦」の多くが入る可能性が高いことも分かりました。とても有力な市場です。

ここに「勝ち筋」を見出すことはできないでしょうか?

例えば、「家族の時間を大切にする空間」や「子ども達の好奇心を育む工夫」といった発想が、「D」のカテゴリーのお客様の興味を喚起するのではないか?

その上、A社さんが「D」のカテゴリーに移動すれば、空白地帯を独り占めすることができます。

また、A社さんはそもそも「家 = 家族が住まう大切な場所」という視点を持っておられたので、そこをさらに進化・深化させる方向に進めば、上記の発想との相性もいいはず。

そこで、テスト・プロジェクトとして簡単なパンフレットを作り、来店されるお客様に上記の発想を提案してみたところ反応が非常にいい。一定期間のテストを経て、正式にA社の新しい方向性として定め、設計部門がそこを深掘りするとともに、HPやパンフレットを刷新し、改めて販売促進を行いました。

すると、結果はすぐに出ました。

モデルハウスに来店されるお客様の中で受注に至るお客様の割合が約30%増加。売上げは、約35%増加です。

次の目標は、モデルハウスに来店されるお客様を増やすこと。増加した受注率を維持することができれば、「集客数の増加 × 受注率の増加」の2段階で売上げアップにつながります。

ポイント

やや繰り返しになりますが、上記の「勝ち筋を見極める」ポイントを、工務店以外にも当てはまるように一般化してみたいと思います。

① 勝ち筋を見極めるステップ

まず、「現状、市場をどのように見ているか?」の見方を変えることで、今まで気づかなかった市場構造が浮かび上がることがあります。

ポイントは、お客様目線に立って「お客様が、その商品を選ぶ際の判断基準(=決め手)」を深掘りしてみること。特に、お客様の深層心理の中にある前提、既成概念、バイアスといったところまで降りて行くと、新しい発見がある可能性があります。上記のA社さんの事例だと、「お客様は、家をどのような視点で見ているのか?」と「お客様は、何に満足を感じるのか?」という点です。

そして、分類された市場の中に「競合がいない(少ない)カテゴリー」があれば、そこが有力なターゲット市場の候補となります。

特に、多くのライバル企業が「事業者目線」で商品開発や提供価値づくりを行っている場合、お客様との間にギャップが生まれ、そこが空白地帯となっている可能性があります。

もし、空白地帯を見つけることができれば、そこに入るお客様が抱いている「欲求」を掘り下げてみる。欲求が見つかれば、それがターゲットすべきニーズになります。そのターゲット・ニーズに対して、自社の特長や強みがうまくフィットすれば非常に有力な勝ち筋になると考えます。

次は、そのターゲット・ニーズに刺さる価値観を深く考え、その価値観に基づく商品づくりをしていくのがステップだろうと考えます。

同時に、その価値観をしっかりお客様に伝えられる販売の仕組みも設計していきます。特に、販売の仕組みはお客様の購買行動とうまくシンクロすることが肝心。ターゲット顧客の購買行動を把握し、それに沿って販売の仕組みを組み立てることで「勝ち筋をつくる」といったことにつながると考えます。

② コツ

(繰り返しになりますが)このケースでは、「従来の市場の見方」を離れ、「新しい視点から市場を分類した」ことがポイントです。特に、「お客様の深層心理(=お客様自身も自覚していない領域)の中にあるお客様の家に対する捉え方」を発見したことが大きなターニング・ポイントでした。

お客様自身が自覚していないので、インタビューやアンケート調査をしても浮かび上がってきませんが、お客様の意思決定を確実に支配しています。

言わば、お客様の心の中にある隠れたインサイトなのですが、多くの商品やサービスにおいて同じようにお客様は隠れたインサイトを持ち、それがお客様の意思決定を支配していると考えています。

これを見つけることができれば、「勝ち筋」にも辿り着きやすくなると考えます。

工務店A社さんのケースを題材に、「勝ち筋を見極める」ことについて考えてみましたが、いかがだったでしょうか?

長い文章を読んでいただき誠にありがとうございます。

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