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ビジネスにおける「勝ち筋」を考えてみた! ②

事業において「勝ち筋を見極める」ことは(言うまでもなく)非常に重要です。以前にも同じテーマでブログを書きましたが、もうひとつやや異なる確度から「勝ち筋を見極める」ことについて考えてみたいと思います。

先に、言いたいことのポイントを

先に、ポイントになる点を挙げておきます。

それは、「一般的であったり、業界で常識になっていたりする市場や競争に対する見方を意識して変えてみる」という点です。

それにより、「新しい市場や競争の構造が浮かび上がり、その中に勝ち筋が見えることがある」と。それは、みんなが見えていなかった構図なので、手つかずの領域がある可能性がある。

言い換えれば、”一般的”な競争の構図ばかり見ていると、チャンスを見逃す可能性があるとも。

事例を使って考えてみる

では、事例を使って具体的に考えてみたいと思います。

仮に、「従業員100名の鞄メーカー(A社)が、ランドセル事業に新規参入する」というケースを考えてみます。

どのような商品コンセプトで、どのような販売戦略を設計するのが良いのでしょうか?

言い換えれば、事業を成功させるためにどのような「勝ち筋」を設計しますか?

<補足>
ランドセルは、子ども達にとって重くて負担が大きいこと、非常に高額であることなどから「ランドセルを見直しては?」という気運があがっています。また、そもそも子どもの数が減っていることから「縮小するビジネス」でもあります。ランドセル事業にとってはこれらの問題の方が圧倒的に大きな課題なのですが、ここでは(この議論は横に置いて)ランドセル事業の勝ち筋を考えることに集中したいと思います。

ランドセル市場の現状

まず、ランドセル・ビジネスの現状を確認します。

以下は、東京都において小学生の子どもを持つ親を対象に行ったアンケート調査の結果です。質問は、「どのメーカーのランドセルを購入したか?」

どのメーカーのランドセルを購入したか?

ランドセル・メーカーは、全国に約60社あります。大手メーカーとは、名前の通り業界大手のメーカーさんで、全国区の知名度を持ち、大手量販店を中心に大量販売(&大量生産)をされている企業です。特に大きなメーカーさんが5社あります。

工房系メーカーとは、比較的小さなメーカーさんで「手作り」「高度な職人技」「特別感」といった特長を持ち、それぞれに「こだわりポイント」があるメーカーさんです。上記の円グラフでは23.20%という数字になっていますが、これは東京都特有の数字だろうと思います。全国的なシェアで見ると、10~15%です。

スーパー・オリジナルとは、イオンなどの大手スーパーのプライベート・ブランドのことです。大手スーパーが企画・開発し、下請けメーカーが生産するという連携です。

ファッション&スポーツ・ブランドとは、文字通りファッションやスポーツのブランドとコラボしたランドセルになります。例えば、ラルフローレン・ポロやナイキなどとのコラボ・ランドセルです。

デパート・オリジナルは、(スーパー・オリジナルと同じ)デパートによるプライベート・ブランドです。

ランドセルは多くの場合、「価格」「デザイン&機能性」によって各メーカーの特長が分かれます。

各メーカーの特長の分布

工房系メーカーと百貨店オリジナルは高い価格帯で、上品・上質な商品を提案しているのに対して、大手メーカーは低価格~中価格帯にかけて幅広く生産し、デザインや機能性に富んだランドセルを生産している傾向にあります。

一方、販売チャネルで見ると、以下のような感じになります。

各メーカーと販売チャネルのつながり

大手メーカーは数をさばくことができる量販店、大手スーパー、百貨店、(問屋経由で)全国の鞄専門店などが中心的な販売チャネルになるのに対して、工房系メーカーはD2C的に独自の販売チャネル経由で販売を行っています。

また、(上記したように)ランドセルは全国区のメーカーから、地元に特化したメーカーまであります。以下は、テレビCMの打ち方の特長です。

メーカーのテレビCMの打ち方

たくさん書きましたが、これらがよく挙がってくる「現状認識」になります。何か、勝ち筋につながるヒントを見つけることは可能でしょうか?

私には、かなり難しく感じます。

表層的な「現状」の切り分けを扱っているだけで、これではどこから参入していいのか皆目見当がつきません。

勝ち筋を考えてみる

では、どうするか?

有力な方法は、「異なる判断基準」によって、「市場の構造」や「競争の状況」を捉え直してみるということです。すると、新しい市場構造や競争の状況が浮かび上がり、その中に勝ち筋につながるヒントが見えてくることがあります。

そして、「異なる判断基準」とは、多くの場合「お客様の目線、特性、都合」といった点になります。

例えば、当社でランドセルについてリサーチをした時に、おもしろい発見がありました。「ママさん達は、ランドセルをどのように選んでいるのだろうか?」を知るために約50人のママさん達にインタビューをしたのですが、すると「ママさんによってランドセルに対する『こだわり』が異なる。すごくこだわるママさんと、あまりこだわらないママさんに結構くっきりと分かれる」という発見です(こだわり派 vs. こだわらない派)

そして、その2派は購入プロセスと購入の際の判断基準もまったく異なるという点と。

こだわり派とこだわらない派の比較

こだわり派は、「わが子には特別なランドセルを持たせてやりたい!」といった気持ちが強く、早い段階からランドセル探しを始められます。所謂、「ラン活」です。

典型的なパターンは、子どもが小学校に上がる15~16か月前の12月か1月くらいから本格的に動き出します。まず、先輩ママやママ友から情報収集。そして、インターネットでランドセル・メーカーの情報収集。気になるメーカーを発見したらパンフレットを請求したり、そのメーカーが開催する展示会や直営店に子どもと一緒に足を運んだりします。

加えて、メーカーの工房や工場へも足を運ばれる方々もたくさんいらっしゃいます(メーカー側も工房見学を大切な顧客体験だと考えているので、そのための設備や準備を整えています)。そうして複数のメーカーのランドセル、アフターサービス、会社そのものなどを比較・検討し、最終的に子どもの希望や家族の話し合いの結果、購入するランドセルを決められます。実際の購入は、そうしたプロセスの最後にメーカーのECサイトから行うといったイメージです。そして、始動から購入が完了するまで3~6か月かかります。

一方、こだわらない派は「ランドセルはちゃんとした商品であれば、それでいい。あとは、子どもが気に入ったのを選べばいい」といった感じです。購入場所も、近くのイオンやショッピングモール内の量販店といったイメージ。そのため、購入は(多くの場合)1日で完了します。

以下の図は、こだわり派とこだわらない派の購買プロセスです。

こだわり派とこだわらない派の典型的な購買プロセス

この「ランドセルにこだわりがある・ない」が重要なのは、この要素がそれぞれのお客様の購買行動や購入の際の意思決定を大きく支配しているためです。そのため、勝ち筋を見極める重要なヒントになります。

こだわり派・こだわらない派のそれぞれの購買行動や購入する際の判断基準において、自社にとって「勝ちやすい領域」が見つかれば、そこを軸にして事業を設計することが勝ち筋になります。

例えば、こだわり派のお客様はそれぞれの「こだわりポイント(=欲求)」に従って積極的に探索・調査を行う人達です。もし、こだわり派のお客様が抱いているこだわりポイントの中で、他のメーカーが提示していない価値観を見つけることができれば、自社の独占市場になります。しかも、お客様は自ら探索・調査をする人達なので、販売の仕組みも作りやすい。

有力な「勝ち筋」の可能性があります。

一方、こだわらない派のお客様だと、①大手量販店との取引開拓(=法人営業の強化)、②量販店の売り場においてお客様に認知されるための「何か」。例えば、知名度(=テレビCMなどの広告投資)、斬新なデザイン、特別な機能性などが必要になります。それらを構築するには資金と時間がかかります。しかし、資金と時間をかけても、思うような①と②は構築できないかもしれません。成熟した市場において先行する大手企業を追いかけるためには「競争する軸を変える」ことが基本ですが、①と②はそれがやりづらい要素です。

よって、後発の中小メーカーにとっては「勝ち目の薄い戦い」になる可能性が高いと考えます。

結論として、「こだわり派のお客様をターゲットする」ことが有力な方向性です。

そして、肝になるのが(繰り返しになりますが)「こだわり派のお客様が抱いている欲求で、まだ他のメーカーによって提示されていない価値観(=欲求を満たす価値観)を見つけることができるかどうか」です。

ここができれば、「勝ち筋」として成立すると考えます。

そこで、例えば「わが子には、世界へ羽ばたいてほしい!」といったご両親の想いをターゲットにするのはどうでしょうか?

まず、こうした想いをお持ちのパパ・ママは一定割合おられます(10%前後か?)。特に、ご両親に留学経験(短期の語学留学~本格的な大学院留学)や海外経験がある場合、この想いはとても強くなるのが特長です。

そのとても強い想いとランドセルを結び付けるストーリーを考えることで、ご両親の想いを投影したランドセル・ブランドとして特別な意味を持つようになるのではないかと考えます。

また、こだわり派のお客様の多くが支持する工房系メーカーは、その多くが「手作り」「職人の技術」「上質」「品格」「格式」といった点をウリにして競い合っています。いずれも、「このランドセルは素晴らしい。特別なランドセルです」という主張です。それが、「大切なわが子には、特別なランドセルを背負わせてあげたい!」という親心と結びついているわけですが、いずれも「ランドセルを、その品質で評価している」という軸の上で争っています。

一方、「わが子には、こうなってほしい!」「わが子には、こんな6年間を過ごしてほしい!」といった「親の抱く子どもへの想い」という軸では、どのメーカーからも主張がありません。

ここにチャンスがあるのではないかと考えます。

特に、そこに対するメーカーの主張がお客様の想いと重なった場合、それは「共感」としてお客様の心を動かすのではないかと考えます。

言い換えれば、「ランドセルの品質」にはもう入り込む余地はないが、「親の抱く子どもへの想い」に対してメーカーが姿勢を示すことで新たなポジションを築くことができるのではないか、と。

そして、これが勝ち筋になるのではないか、と。

加えて、少し論点が広がってしまいますが、お客様を自社の工房・工場に誘致し、工房・工場見学をしていただく仕組みが出来上がれば、それはランドセル以外でも機能する仕組みになります。

多くの人は、実際に足を運んで、直に見たり、話を聞いたりすると、その会社や商品に少なからず親近感を覚えます。その工場見学の体験がすごく良かった場合、それは「特別な感情」になることもあります。その会社や商品が来場者にとって「特別な存在」や「特別な意味を持ったもの」になるということは、「(そのお客様にとって)ブランドになる」「購入する有力な理由ができる」ということです。他の商品ではなく、「この会社の商品が欲しい」という対象です。そして将来、〇〇を買わなきゃいけないとなった時、「真っ先に頭に浮かんでくる会社になる」ということです。

また、多くの人はものづくりの現場を見るのが好きです。観光の目的地のひとつとしても機能しますし、休日のお出かけ先としても機能します。なので、工場見学というイベントは比較的「集客しやすい」取り組みになります。

すると、工場見学という取り組みによって集客し、来場者の方々を「(貴社に対して)特別な感情を抱く人達」に変える仕組みとなり得ます。

まとめ

ポイント

市場や競争状況を「一般的な見方」や「業界の常識」に基づいて見ていると、大切なものを見逃すことがある上に、勝ち筋は見えてこない場合がほとんどだと考えます。

特に、既存のライバル企業の多くは「一般的な見方」や「業界の常識」に基づいて戦略を立てている場合が多いので、既に”大混雑している市場”になっている可能性が高いです。

そこで、「これまでとは異なる”視点”によって市場や競争状況を再定義してみる」という方法がとても有効だと考えます。

その際、視点として効果的なのは「お客様の購買行動や購買の意思決定を司る要因」です。例えば、お客様の嗜好、特性、事情、都合、深層心理の中にある前提やバイアスといった要因です。

その事業、商品、お客様、競争状況などによって「重要な要因」は変わってくるので、いろいろな角度から「何が、お客様の行動や意思決定を支配しているのか?」を考え、的確な要素を見つけていく試行錯誤的なプロセスが必要になると思います。

ランドセルのケースでは、「ママさん達には、わが子に持たせるランドセルにこだわる人とこだわらない人がいる」という要因でした。そして、その要因はそれぞれのママさんの購買行動を司る要因にもなっていました。

こうした要因を見つけることができれば、市場とそこでの競争状況を新しい角度から捉えることが可能になります。

市場と競争状況に関するまったく新しい定義の仕方が見つかれば、それはその市場を攻略する地図を手に入れたことになります。その地図の中に勝ち筋が見つかる可能性がある、と。

加えて、その地図の中に「お客様が抱えている欲求のうち、競合他社が提案していない価値観」があれば、そこが重要なターゲット・ニーズになります。

注意点

新しい定義や勝ち筋は、あくまでも「仮説」です。よって、テスト・プロジェクトによって、それが事前の想定通りにお客様の興味を喚起するのか? 勝ち筋として機能するのか? を検証する必要があります。

但し、「想定とは違った」ことがあった場合でも、仮説として活用することで「どこが違うのか?」を発見しやすくなります。想定との違いが発見できれば、それが新しい(そして重要な)発見となり、より強固な勝ち筋へ近づくことになります。ここ、とても大切です。

以上が、勝ち筋についての考察です。

長い文章になりましたが、ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。もし「参考になった!」といった感想を持っていただけたら、ぜひ「スキ」ボタンを押していただければ嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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