#20 かつて四国への窓口だった街 ―岡山県玉野市の産業と街のありかた―
はじめに
『J NOTE』第20回は、岡山県玉野市を取り上げます。
玉野市は、岡山県南部に位置する人口約5.4万人の市です。瀬戸内海に面する港町で、明治時代には市内の宇野港から香川県の高松港まで宇高連絡船と呼ばれるフェリーが就航するなど、玉野市は本州と四国を結ぶ交通の要所として近代以降に大きく発展してきました。
しかし2023年現在、宇野港から四国本土行きの定期船は運行されておらず、代わりに瀬戸大橋が通る隣町の倉敷市児島地区が「四国への窓口」という重要な役割を担っています。
また、玉野市の人口は1975年以降一貫として減少傾向となっており、街の過疎化が大きく進んでいるものと思われます。
このように、高速道路や新幹線など新たな交通ルートの整備によって交通の要所としての役割を失った街は、玉野市に限らず全国各地に存在しています。
そこで今回の『J NOTE』では、瀬戸大橋開通から30年が経った玉野市がどのように産業を発展させているのかについて見ていきたいと思います。
玉野市の産業
玉野市はかねてから造船業が盛んな街です。三井造船(現在の三井E&S)の発祥の地として知られており、いわゆる企業城下町として発展してきました。現在では、同社の造船部門を継承した三菱重工マリタイムシステムズが市内で操業しています。また、継承元の三井E&Sは市内で船舶のエンジン製造業を続けており、玉野市の地域経済を支え続けています。
しかし、国内の造船業は需要減少や他国との競争激化によって減益が続いており、業界の見通しが明るいとは言えないのが現状です。そのため、玉野市でも造船業に次ぐ産業を育てる必要性が出てきました。
そんな中で、玉野市では風光明媚な瀬戸内の景色や立地を生かして、観光事業や宇野港の活性化事業に取り組んでいます。
①宇野港再整備事業
宇野港では1995年から順次再整備事業を行っています。2006年に大型専用の岸壁である「クルーズポート・ウノ」が供用開始されると、毎年10隻前後のクルーズ船が宇野港へ来航するようになりました。
大型クルーズ船の来航による経済効果は、国土交通省の試算によると乗客1人あたりおおよそ3~4万円とされています、そのため、宇野港にクルーズ船が来航することで、玉野市内や近隣の岡山市、倉敷市などに大きな消費をもたらしているものといえます。
また、玉野市ではトラックを船に積み込んで運ぶことができる「RORO船(ローローせん)」航路の充実を推し進めています。東京と香川に拠点を持つ大王海運は、瀬戸内の港と関東・関西方面を結ぶRORO船を運航しており、宇野港を瀬戸内側の拠点の一つとしています。
玉野市は高速道路のインターチェンジまでやや距離があるため、海運に活路を見出そうとしています。そのため、宇野港を陸海の物流拠点として整備して海運業者を呼び込むことで、玉野市の経済発展と交流人口の増加に取り組んでいます。
②「瀬戸内国際芸術祭」の開催
玉野市内では、3年に1回「瀬戸内国際芸術祭」が開催されています。
瀬戸内国際芸術祭は2010年に始まったイベントで、玉野市内では2013年から会場が設置されています。宇野駅東側の「駅東創庫」や宇野港を会場として、現代アートの展示やワークショップが開催されています。
また、芸術祭が開催されていない時期でも、市内には多数の芸術作品が街中に展示されています。宇野駅や宇野港付近に多くのモニュメントが設置されていたり、JR宇野線の4駅の駅舎がそのまま芸術作品になっていたりするなど、市民生活と芸術とが一体となった風景を楽しむことができます。
さらに、宇野港からはアートの島で有名な香川県の直島や豊島へ定期船でアクセスすることができるため、玉野市は芸術観光の拠点としての役割も果たしています。
加えて、宇野地区では「瀬戸内温泉たまの湯」や「UNO HOTEL」などの温泉施設やホテルが開業しており、多くの観光客が玉野市を訪れるようになっています。
おわりに
ここまで、岡山県玉野市の産業についてみてきました。
玉野市では、交通の要所としての役割を失った瀬戸大橋開通以降、宇野港の再整備や観光事業の推進によって、様々な地域振興の取り組みを行ってきたことがわかりました。
これらの取り組みによって、人口減少や地域経済の衰退に対して完全に歯止めをかけることはできていないものの、「街の価値」は大きく向上しているのではないかと私は思いました。
関連文献
新仁司「地域公共交通の見直しと利用促進政策及び今後の展開について―玉野市における取組―」『臨床法務研究』第14号(岡山大学大学院法務研究科、2015年)
中嶋英生、小笠原隆文、山平智宏「玉野市の行財政改革と地方創生の取組―瀬戸内海の玄関口(ゲートウェイ)・玉野の復権を目指して―」『地方財政』第56号第10巻(地方財務協会、2017年10月)
成田海波「文化交流拠点の創造プロセスにみる新たな市民社会の形成に関する研究―岡山県玉野市宇野築港地区を事例に―」『都市計画論文集』第54号第3巻(公益社団法人日本都市計画学会、2019年)
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