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#14 京都市における歴史文化に頼りすぎない「観光」づくり

はじめに

『J NOTE』第14回は、京都府京都市の観光について取り上げます。

京都市は京都府南部に位置する、人口およそ144.8万人の市です。京都市は中世から近世にかけて1000年以上もの間、都が置かれていた日本随一の歴史を持つ街です。市内には清水寺や嵐山、伏見稲荷大社などの観光地が点在し、風光明媚な街並みと伝統文化が色濃く残っています。

また、京都市は外国人観光客からも人気の観光地であり、コロナ禍前年の2019年には延べ886万人が京都市を訪れるなど、日本を代表する国際観光都市として全世界にも知られています。

しかしその反面、京都観光はそういった「歴史」や「伝統文化」ばかりにスポットが当たってしまっているともいえます。

京都市産業観光局が2019年に行った『京都観光総合調査』によると、京都市を訪れた観光客の66.5%が神社仏閣の見物を訪問理由に挙げています(表1)。

表1:京都を観光しようと思った理由
※複数回答のため、合計が100%にはなりません。
(京都市産業観光局『京都観光総合調査 令和元年(2019年)1月~12月』P48より抜粋し、筆者が改めて表にしたもの。)

そのため、現状では東山や嵐山周辺などの名刹の多い地区に観光客が集中してしまっています。また、京都市ではコロナ禍以前は混雑やホテルの乱開発などの「オーバーツーリズム」、コロナ禍以降は観光産業の衰退や雇用問題など、観光に関する問題を常に抱えている状態です。

そこで、私は今後の京都観光を考える上で、歴史文化に頼りすぎない観光を目指す必要性があるのではないかと考えています。

今回の『J NOTE』では、京都市における歴史文化以外の観光資源とはなにかを探っていきたいと思います。そして、京都観光の新たな観光について考えていきます。

京都が目指すべき新たな観光とは

まず、そもそも観光とはなにかについて見ていきます。

観光という言葉は、小学館『日本国語大辞典』によると「他国、他郷の景色、史跡、風物などを遊覧すること」と定義されてます。

この定義のように、一般的には「観光=旅行」という認識があるのではないかと思われます。そして、京都観光においてもやはり「京都の風光明媚な神社仏閣を旅行する」というパブリックイメージが強いものだと推測されます。

しかし、観光庁が統計調査を行う上で定義した「観光」は以下の通りです。

観光・・・本基準では、余暇、ビジネス、その他の目的のため、日常生活圏を離れ、継続して1年を超えない期間の旅行をし、また滞在する人々の諸活動とします。

観光庁『観光入込客統計に関する共通基準』(2013)P3より抜粋

つまり、訪れる理由はどうであれ、自分の生活している地域から別の地域に行くことがすなわち「観光」であると定義されています。

そのため、プロスポーツの試合観戦やサービスエリアでの休憩、ショッピングモールへ買い物に出かけることや仕事の出張なども全て観光客に含まれます。要するに、著名な神社やお寺を訪れる人も、ビジネス目的で訪れる人も同じ1人の観光客ということになります。

よって、観光客を増やすということは「他地域との交流人口を増やしていくこと」と同じ意味になります。

そういったことから、私は寺社参詣のようないわゆる一般的な京都旅行だけではなく、仕事や趣味などで京都と関わりを持ち、そして実際に訪れる人を増やしていくことが、今後の京都が目指すべき「観光」なのではないかと考えています。

では、京都の街に人を集める可能性を持つ新たな観光資源には、一体どんなものがあるのかについて見ていきたいと思います。

京都の街が持つ新たな「観光資源」

①若者×観光

京都市は、市の人口当たりに占める大学生・短大生の割合が10%を超えており、福岡や東京などを抑えて全国一です。また、大学院や研究機関なども多数所在していることから大学院生や教員・研究員なども数多く住んでおり、京都は学生の街、学問の街であるといえます。

そのため、「大学コンソーシアム京都」をはじめ各大学間の結びつきも強く、学生間の交流も盛んに行われています。

京都市内の各大学では、学生ベンチャー事業や産学官連携に力を入れており、京都の若者から新たなビジネスを創出しようという動きが高まっています。

例えば、京都大学では2014年に「京都大学イノベーションキャピタル」という子会社を立ち上げて、若手研究者と経営者を結びつけるプラットフォームの整備や、会社設立・運営の技術支援などを行っています。また、龍谷大学では学生の企業を支援する「インキュベート施設」を無料で貸し出し、学生ベンチャーの活性化に取り組んでいます。

このように、若い力で新たな産業を生み出す取り組みは、学生や大学機関が多い京都にぴったりであるといえます。そして、将来的に仕事で「京都を訪れる人」や「京都に住み続ける人」を増加することに繋がるのではないかと私は考えています。

②スポーツ×観光

京都市では、全国高校駅伝(通称:都大路)や全国女子駅伝、京都マラソンなど、陸上スポーツの大会が毎年数多く開催されています。また、「京都サンガF.C.」(サッカー)や「京都ハンナリーズ」(バスケットボール)など、多くのプロスポーツチームが京都市をホームタウンとして活動しています。

市内各地には体育館や運動公園が整備されており、市民がスポーツを楽しむ場所は数多くあります。

しかしながら、大規模なスポーツ施設は市内中心部には存在せず、また京都市体育館や京都府立体育館は築50年以上が経過しているなど、施設の老朽化も目立ち始めてきています。

また、京都サンガのホームスタジアムは隣の亀岡市に所在しているため、京都市内ではプロ野球やJリーグの公式戦が行われることは通常ありません。そのため、スポーツを見やすい環境が整っていないのが現状です。

そのため、市内北部の下鴨地区には、プロスポーツと近隣大学の利用を見越した新体育館の建設が予定されています。しかしながら、新体育館の整備計画には様々な意見が噴出しており、実際に竣工するまでには時間を要すことが見込まれています。

このように、京都市内でプロスポーツを用いて集客するには様々な壁がありますが、学生アスリートや実業団チームが数多くある京都では今後の整備次第でスポーツツーリズムが盛んになる可能性も高いのではないかと私は考えています。

③芸術×観光

京都市には、音楽や美術、ポップカルチャーなどの芸術系の学部を持つ大学が数多く立地しています。また、京都国立博物館や京都国立近代美術館、京セラ美術館などが市内に立地するなど、市民が芸術に触れる機会が多い街でもあります。

そんな、京都市の芸術について大きなトピックスは、京都市立芸術大学のキャンパス移転です。

京都市立芸術大学は、今年10月に洛西から京都駅周辺へキャンパス移転が決まっています。京都芸大では、建物の「テラス」のような外に開かれた大学づくりを目指して、文化芸術の拠点や芸術を通したコミュニケーションの場を生み出すことに取り組んでいきます。

また京都駅に近い立地から、市民や京都を訪れた人々が芸術に触れやすい環境づくりキャンパスづくりを行っており、京都から世界に芸術を届けるという重要な役割を担うことが期待されています。

また、京都市の中心部である烏丸御池には、「京都国際マンガミュージアム」が開館しています。京都国際マンガミュージアムは、京都市と京都精華大学の共同事業で運営されており、2006年の開館以降国内外から多くの観光客を集めています。

さらに、市内では2012年から「京都国際マンガ・アニメフェスタ」が毎年開催されており、こちらも国内外から多くの来場者を集める人気イベントとなっています。

このように、京都では音楽や美術、ポップカルチャーなど様々な芸術が盛んであり、それらを生かして新たな交流やイベント振興を多数行っています。

京都市の財政難問題とこれから

さて、ここまで京都市が持つ新たな観光資源についてみてきましたが、これらに常に付きまとう問題としては、やはり京都市の深刻な財政難が挙げられます。

京都市の財政状況は他都市と比較すると突出して悪く、借金が8000億円以上ある慢性的な赤字状態です。市でも財政問題は大きな課題として位置付けており、2021年には「はばたけ未来へ!京(みやこ)プラン2025」を策定して、行政と財政の抜本的な改革を図っています。

そのため、京都市は赤字財政を改善するための改革を行いつつも、京都を何らかの形で訪れる観光客や、新たな住民・産業を増やすための政策も同時に進める必要もあるため、非常に難しい行政運営を迫られているのが実情です。

以上のことから、新たな観光資源を発掘して「他地域との交流人口を増やしていくこと」は行政だけでなく、産学官民問わずに求められている「京都の共通目標」なのではないかと私は考えています。

関連文献

  • 白須正「京都市の観光政策を振り返る」『地域産業政策研究』第7号(龍谷大学京都産業学センター・地域産業政策研究プロジェクト、2022年)

  • 中山淳雄「アニメブームを捉えた産公連携イベント『京まふ』の起源と発展 ―京都市の観光客・在住者・企業誘致におけるマンガ・アニメ・ゲームを用いた地域活性化政策の取り組み―」『立命館映像学』第15号(立命館大学映像学会、2021年)

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