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「僕の彼女」



 彼女と初めて出会ったのは、まだ流れゆく風に夏の名残を含んだ秋の日だった。
 一人で海を眺める彼女は透き通るように清らかで、夏の終わりと秋の訪れのその狭間を漂ってるように儚く見えた。
 僕は清々しい朝日を目の当たりにするように、沈みゆく夕日に胸を締め付けられるように、彼女の前から動けなかった。彼女は僕に気づくと弱い笑みを浮かべ、一時間ほどそのまま二人で海を眺めた。
 その後は海岸を歩き、彼女がたまに後ろを振り返ると、僕は照れて下を向いた。
 彼女を家まで送り届けた頃にはすっかり夜になっていたが、僕はまるで早朝の道を歩いてるような気分だった。

 彼女はホームセンターの中にある花屋で週5日働いており、二人が会えるのは彼女が休みの木曜日か日曜日が多かった。彼女は散歩が好きで、面白そうな路地を発見すると目を輝かせずんずんと進んで行ってしまう。僕は彼女を見失いそうになって困りながら、そんな彼女を愛おしく思った。
 彼女はとてもアクティブで、映画に行ったり、買い物に行ったり、お洒落なカフェでケーキを食べたり、それらに付き合う僕は、いつだってヘトヘトになるのだった。

 今日は初めて二人で迎える彼女の誕生日だったけど、あいにく彼女は仕事の休みが取れなかった。せめて誕生日パーティーだけでも開いてあげようと、僕は彼女の部屋で一人帰りを待つことにした。
 あと一時間もすれば彼女が帰ってくるので、急いで準備をしなければならない。部屋に入るとすぐに彼女の欲しがっていた化粧品の入ったリュックをカーペットに下ろし、ベランダで脱いだ靴を拾い上げると、僕は窓をそっと閉めた。


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