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子供のウエイトリフティング選手における障害予防の考え方:04-1 [腰痛対策]

アスレティックトレーナーのあおしまです。03に続き、小中学の成長期にあたるウエイトリフティング選手や、初心者を対象とした怪我予防のポイントについて考えていきます。

今回は特に声の多い「腰痛」に注目してご紹介します。



1.身体的要因とトレーニング要因

ウエイトリフターの怪我に関する調査では、腰痛に対するコメントが実に多く見受けられます。中には、一定期間の練習中止を余儀なくされるほどに発展するケースもあります。

これは成人だけでなく、成長期の選手にとっても骨の成長に直接関係する問題として軽視できません。

腰部の不具合は、選手個人が抱えている身体的な要因と、練習内容と技術(筋力)のミスマッチが継続してしまうトレーニング要因の2つの視点が特徴です。

選手の身体的な要因は、姿勢に代表される骨配列(アライメント)の偏りや、関節可動域の不足・不均衡そして、筋力不足が大きなポイントになります。

筋力の向上は、二次性徴の発現に大きく影響されるため、本人の期待は募るものの、全員が同じ時期に、同じ分だけ向上するわけではない事を理解しましょう。

加えて、骨格の成長タイミングも個人によって異なり、骨の剛性が低いうちに無理な負荷で挙上を繰り返す事は、怪我のリスクを上げてしまいます。

姿勢・アライメントについては、今後の回で詳しくお伝えしたいと思います。

トレーニング要因について考えるべきは、腰痛発生につながりやすい種目(技術)の選別と理解が重要です。

スナッチやクリーン動作では、床からの引き始めに注意が必要で、続いてキャッチ時の姿勢保持でも位置やタイミングの確認が大切になります。

また、似た動作ですがデッドリフト系の種目は、扱う重量も大きくなるので丁寧に技術を習う必要があります。

これらの練習をする際には、取り扱う重量と、守るべき動作フォームを維持した中で、実施・継続していくことが不可欠です。

ウエイトリフティングの良い所は、個人の身体(筋力)状況に合わせてシャフトやプレート(重量)が選べる点です。

1番軽いシャフトは、3キロのシャフトもあるため、小学生でも反復して技術練習をする事ができます。専門的でなくとも、木製のバーや塩ビパイプなどの身近にある軽い素材で動作確認を行うことも有効な方法です。

エデュケーションバー 3.2kg(ウエサカ社)などを効果的に活用する

自分の筋力や技術に見合ったバーベル設定に気を配り、動作の不良を確認し修正エクササイズを優先する事が、結果的に安全に記録を伸ばす秘訣となります。


2.腰痛につながる動作不良と修正ポイント


次に、腰痛を予防するためにおさえておくべき動作のポイントを整理しましょう。私は、スキルコーチではないため、技術の個別性については詳細を話すことは控えますが、あくまでアスレティックトレーナーの視点から腰部を守るための、腰痛を予防するための動作フォームについてお話しします。

本来、腰痛の原因は多岐にわたるのですが、ウエイトリフティングでは、特定の類似した動作に寄せて考えることができるため、エラーと修正が比較的わかりやすいように思います。

腰部の怪我が発生しやすい場面を引きの場面(PULL局面)と、キャッチの場面(圧縮局面)で考えてみましょう。

ウエイトリフティングでは、スタート姿勢を取り、床からバーベルを引き上げる動作(1st Pull)で力発揮が開始されます。

厳密にいうと、バーベルを握って、スタート姿勢を整えた瞬間には、力が発動しているのですが、そこから続いて、関節運動が始まる1st Pull動作は注目すべき局面です。このPull局面では、バーベルの位置に対して腰部の緊張感を保ち、バーベルを体に沿わせながら丁寧に持ち上げていきます。

しかし、腰部の緊張感が保てず、脊柱の丸みが生まれるような姿勢になってしまうと、深層にある関節や結合組織の怪我を生み出す原因となるのです。

とは言え、一概に緊張感といっても力の入れどころが掴みにくい姿勢でもあります。骨盤と股関節の位置関係と動かし方は、別の回で考えていきたいと思います。

腰部-骨盤帯の緊張が保てないと脊柱や深層組織の怪我の危険が高まる

続いて、キャッチの場面に代表される圧縮局面です。ウエイトリフティングでは、頭上や胸元へと一気にバーベルを上昇させるため、錘が空中に跳ね上がります。その後わずかな瞬間で速度が無くなり、鉛直下方向に落下を始めるのです。

上昇速度が0になった瞬間に、手を差し伸べてキャッチ姿勢を取るのが理想なのですが、このタイミングがわずかでも遅れると、基の重さに重力の加速度が加えられて、落下に勢いがつきます。この勢いの加わったバーベルをキャッチするには、身体に大きなブレーキ力が必要になります。

また、その力は鉛直下向きに関与するため、バーベルの真下でなくては支えることができず、姿勢を保持する脊柱(腰椎)や肩・鎖骨部、手首に強い圧縮力がかかることになります。

バーベルは速度が0になると落ち始める。キャッチ動作では、その瞬間に下支えする事が大切


3.重量と関節の位置関係

この競技は、主となる動作として重量を操作するため、力の加わえ方、支え方には力学の仕組みが大きく影響します。「テコの原理」を小学生の頃に習いますが、力を発揮する力点とそれを支える支点、その結果、動きとなって作用する作用点について思い出してください。

筋肉骨格系は複数種類の「テコの原理」が活用されて動いている


ウエイトを持ち上げる際には、筋肉が力を発揮し、関節がこれを支える形で耐えた先でバーベルに動きが生まれます。

人の体は、複数の関節がお互いを補いながらバーベルを保持しているので、単純な1種類のテコではありませんが、「バーベルを挙上する」という単純な動作に限定されるため、各関節の動きや負担の割合は見やすい競技です。

重力線と各関節まで距離の違いによって関節の負担割合が変わる(上昇動作)

上の写真のように、バーベルが床から浮き、上方へ移動を始めると、その動きを支えるのは足、膝、股関節、そして脊柱の関節が連動します。

ここで、バーベルが引かれるであろう垂線と各関節の距離を見てこの距離が長いほど、力発揮が不利な位置ある関節だということになります。

上の写真だと、股関節ならびに腰椎部で距離が長く、筋力が出しづらい位置関係にあることがわかります。

こうした力の発揮状況は、筋肉に大きな負担を強いることになり、まさにトレーニング効果をねらう部位であるのですが、同時に、怪我が発生するリスクにも注意を払う部位だと理解しましょう。

では、この仕組みの上でどのようにして疲労・怪我を防いでいけば良いでしょうか? 

そのヒントの一つは、関節が正しい位置(角度)に置かれる事です。

筋肉は、あるべき長さを保つことで(関節角度を保つことで)、力を正しく発揮できます。これが、短すぎても、長すぎても必要な力を生み出せないのです。

次回は、
▽腰椎と骨盤帯のはたらきについてご紹介します。


(参考文献)
・公社)日本ウエイトリフティング協会指導教本2022
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
Olympic Weightlifting: A Complete Guide for Athletes & Coaches (English Edition):英語版/Greg Everett
・NASM ESSENTIALS OF SPORTS PERFORMANCE TRAINING 2nd edition
・NASM Essentials of Corrective Exercise Training: First Edition .2013
・ゆ~っくり座って健康に! 60歳からはじめるエキセントリック体操 2022 :
野坂 和則 (著), 稲見 崇孝 (著), 桂 良寛 (著), 野坂和則 (監修)
・エキセントリック運動の理論と実践:エキセントリック運動の特徴と効果:JATI東北支部WS野坂氏提供資料:2023

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