相羽亜季実

2024年1月に、note2年目に突入しました。 今年もいい作品を創っていけるように頑…

相羽亜季実

2024年1月に、note2年目に突入しました。 今年もいい作品を創っていけるように頑張ります(*•̀ㅂ•́)و✧ 2020年に千葉文学賞を受賞し、作品は無料公開されています。よろしければ♡ https://www.chibanippo.co.jp/novel/745075

マガジン

  • 【短編小説】望月のころ(全11話)+あとがき

    透、武、さくら、環は高校の同級生。卒業してから10年、武とさくらが結婚し子供が生まれてからも四人組は親しくしていたが……西行法師の詩から始まる、一途で切ない恋愛小説。

  • 【短編小説】ニシヘヒガシヘ(全7話)+あとがき

    2024年3月に行われた豆島さんの企画『夜行バスに乗って』への参加作品。「帳面町からバスタ新宿まで」の夜行バスに乗った怪しい人物は誰だ!? そして、主人公の抱える事情とは。

  • 【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~(全9話)+あとがき

    「犯人はあなただ!」「さあ、聖杯を取り出せ」「紫式部になりたい!」限界まで潜ったその先にある、指先に触れたものをつかみ取れ。あなたは書くために生まれてきたのだから。

  • 【朗読劇】内股膏薬(全5話)+あとがき

    「祐輔さん! 奥さまよりも愛してるって言ってくれましたよね?」 「胡桃ちゃん! ち、違うんだ!」  一人の男をめぐって繰り広げられる女同士のバトル! 顛末やいかに!?

  • 【短編小説】コトノハのこと(全15話)+あとがき

    「あなたが一日でしゃべった回数、たったの五回」呆れる妻に指摘されてから、本当に一日五回しか話せなくなった!? 昭和気質の無口なおじいさんは、孫を救うことができるのか!?

記事一覧

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【小説】烏有へお還り 第1話

   第1話  生暖かく湿った風がアスファルトの敷地を這うように近寄ってきて、屋台のテントや幟をはためかせた。結わえた髪がほつれる。  蛍光色のスタッフジャンパ…

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10日前
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【小説】烏有へお還り 第11話

   第11話  玄関のベルが鳴り、柚果は本から顔を上げた。 「すみません、わざわざご足労いただいて」 「いえ、こちらこそ申し訳ありません。お忙しいお時間にお邪魔…

相羽亜季実
3時間前
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【小説】烏有へお還り 第10話

   第10話  下駄箱の前で上履きに足を入れたところで予鈴が鳴った。  重い脚を引きずるようにして教室へ向かっていると、遅刻ぎりぎりでやってきた生徒が次々と柚果…

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【小説】烏有へお還り 第9話

   第9話  改札を出て、正面の壁にかかっていた街の案内図を見る。昨夜のうちにスマホで調べておいた生涯学習会館を地図の中に見つけ、案内に従って南口へ向かった。…

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【小説】烏有へお還り 第8話

   第8話 『生理用品はちゃんと汚物入れに』  トイレの個室の鍵を閉めると、扉の裏側に貼られている紙が目に入った。  普段から何度も見ているはずの文字が、弱っ…

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【小説】烏有へお還り 第7話

   第7話 「次の信号を、左折して下さい」  カーナビの音声が静かな車の中に響いた。車は緩やかな坂を登っている。窓の外に目をやると、紅葉を終えた葉がはらはらと…

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【小説】烏有へお還り 第6話

   第6話 「はい、みんな注目」  体育教師が両手をパンと打ち合わせた。女生徒たちがひそやかなおしゃべりをやめ、顔を向ける。 「これからマットを使って倒立前転…

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【小説】烏有へお還り 第5話

   第5話  ガレージに車がないのは、母がまだパート先から戻っていないことを示している。ドアの前で足を止めると、柚果は背負っていた通学鞄を下ろすために、手にし…

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【小説】烏有へお還り 第4話

   第4話 「え、ヤバっ! マジでヤバ!」  甲高い声が教室に響いた。すぐ近くに座っていた柚果の鼓膜が震え、肩がびくりと上がる。手にしていたノートが、バサっと…

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【小説】烏有へお還り 第3話

   第3話  ずいぶん遅くなってしまった。ひょっとしたら置いて行かれたのではないかという悪い想像が頭をかすめたが、さっきと同じ場所にダークグリーンの車体を見つ…

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【小説】烏有へお還り 第2話

   第2話  張り出した屋根の下で待っていると、目の前にダークグリーンの車が停まった。運転席の吉川が手で合図をする。  後部座席には女の子が二人乗っていた。髪…

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【短編小説】望月のころ あとがきのようなもの+おしゃべり

 このたびは短編小説『望月のころ』をお読みいただき、まことにありがとうございます<m(_ _)m>  こちらの作品は、2008年に書いたものを大幅に加筆修正したものです。 …

相羽亜季実
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【短編小説】望月のころ 第11話(最終回)

   第11話  マンションのエントランスで、僕はポケットからハガキを取り出した。部屋番号を確認してからボタンを押す。 「はーい」  その声が、三十年という長い時…

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【短編小説】望月のころ 第10話

   第10話  そこで目が覚めた。  詰めていた息を吐いた。横隔膜が震える。  片方の手で顔を半分覆った。暗闇の中に、愛しい人の姿が浮かんでくる。 「さくら」 …

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【短編小説】望月のころ 第9話

   第9話  遠くでざわめきが聞こえる。  廊下に誰もいないことを確かめると、僕はそっと図書室の扉を開け、身体を滑り込ませた。  夏休み前の短縮期間は、給食を…

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【短編小説】望月のころ 第8話

   第8話  短いメッセージがさくらから届いたのは、夜半のことだった。  返信しようと、何度も文字を入力しかけては消す。どんな言葉も、相応しいとは思えない。 …

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【小説】烏有へお還り 第1話

   第1話  生暖かく湿った風がアスファルトの敷地を這うように近寄ってきて、屋台のテントや幟をはためかせた。結わえた髪がほつれる。  蛍光色のスタッフジャンパーに身を包んだ恰幅のいい女性と共に、さな恵は幟の刺さっていたスタンドに手をかけた。 「せーの」  声をかけ合い、重量のあるそれらを台車の上に並べる。うまくタイミングさえ合わせることができれば、驚くほど重さを感じない。  すべてのスタンドを台車に並べ終えると、さな恵は軍手をはめた両手をはたいた。砂ぼこりが舞う。乱

【小説】烏有へお還り 第11話

   第11話  玄関のベルが鳴り、柚果は本から顔を上げた。 「すみません、わざわざご足労いただいて」 「いえ、こちらこそ申し訳ありません。お忙しいお時間にお邪魔して」  ドアの向こうに耳をそばだてていると、玄関から、母と誰かが挨拶する声が響いてくる。  足音と声は廊下を進んでいった。リビングの扉が閉まる音がして、静かになる。部屋のドアを細く開けて階下の様子を窺うと、パタパタと足音が近づいてきた。慌ててドアを閉じ、飛ぶように勉強机に戻る。  しかし足音は柚果の部屋では

【小説】烏有へお還り 第10話

   第10話  下駄箱の前で上履きに足を入れたところで予鈴が鳴った。  重い脚を引きずるようにして教室へ向かっていると、遅刻ぎりぎりでやってきた生徒が次々と柚果を追い抜いていった。  今朝は食欲が湧かなかった。柚果の調子が悪いと気づいた母がピリピリした空気を出すので、余計に気が滅入った。  母が目を吊り上げて怒り出しても、本当は学校を休みたかった。いったいどんな顔で伊佐治たちと顔を合わせたらいいのか。  玄関でのろのろと靴を履いていると、隅に置かれている弟のスニー

【小説】烏有へお還り 第9話

   第9話  改札を出て、正面の壁にかかっていた街の案内図を見る。昨夜のうちにスマホで調べておいた生涯学習会館を地図の中に見つけ、案内に従って南口へ向かった。  誰の力も借りず、一人だけで電車に乗ったのは初めてだった。柚果の住む地域は駅まで遠く、バスの本数も少ない。両親とも車を所有しており、どこに行くにもたいていは車を使う。  保護者なしで電車に乗ったのは、去年が初めてだった。栞と優愛と共にショッピングモールのある大きな駅に行った。その時も感じたが、少しだけ大人になっ

【小説】烏有へお還り 第8話

   第8話 『生理用品はちゃんと汚物入れに』  トイレの個室の鍵を閉めると、扉の裏側に貼られている紙が目に入った。  普段から何度も見ているはずの文字が、弱っている心にはまるで責められているように感じられる。こらえていた涙が柚果の目にじわりと浮かんだ。  鼻をすする音が、存外大きく響く。息を止めて外の様子に耳を傾けると、遠くから誰かの笑い声が聞こえた。  トイレの床の冷たさが、上履きを通して身体に沁み込んでくる気がする。瞬きをくり返し、浮かんでいた涙を呑み込む。

【小説】烏有へお還り 第7話

   第7話 「次の信号を、左折して下さい」  カーナビの音声が静かな車の中に響いた。車は緩やかな坂を登っている。窓の外に目をやると、紅葉を終えた葉がはらはらと舞っているのが見えた。 「なんとか間に合いそうだな。道が空いててよかったよ」  運転席の父の言葉に、母は時計を睨み、 「だから、もっと早く出ようって言ったのに」  と不機嫌を露わにする。 「いいじゃないか、間に合ったんだから」  のんびりと父が言った。なにか文句を言いたそうに息を吸った母は、しかしそれを飲み込ん

【小説】烏有へお還り 第6話

   第6話 「はい、みんな注目」  体育教師が両手をパンと打ち合わせた。女生徒たちがひそやかなおしゃべりをやめ、顔を向ける。 「これからマットを使って倒立前転をしていきたいんだけど、今日はその前に、まず倒立の練習をします。この中で、壁倒立ならできるよって人、手を挙げて」  体育座りの女生徒のうち、全体の四分の一くらいの手がパラパラと上がった。続けて、肘を曲げたままの自信なさげな手がいくつか後に続く。 「いいじゃん、思ってたより多い」  教師がくだけた口調で言った。緊

【小説】烏有へお還り 第5話

   第5話  ガレージに車がないのは、母がまだパート先から戻っていないことを示している。ドアの前で足を止めると、柚果は背負っていた通学鞄を下ろすために、手にしていたサブバックを両足の間に挟んだ。  教科書とノートがパンパンに入った通学鞄は重く、滑り落ちそうになるそれを片手で抑えながら、もう片方の手で留め具を外す。水筒が入っているサブバックもずっしりと重い。  ようやく取り出した鍵を差し込み、開錠してドアを開いた。そのとたん、玄関の隅にきちんと揃えられたスニーカーが目に

【小説】烏有へお還り 第4話

   第4話 「え、ヤバっ! マジでヤバ!」  甲高い声が教室に響いた。すぐ近くに座っていた柚果の鼓膜が震え、肩がびくりと上がる。手にしていたノートが、バサっと大袈裟な音を立てた。  柚果の席から狭い通路を挟んだ斜め前の席で、めいっぱい足を投げ出して座っているのは亜美だ。会話の相手はすぐ目の前におり、そこまで大きな声を出す必要はない。  わざとだと、柚果にはわかっていた。昼休みにたった一人で過ごしている柚果に対して、マウントを取っている。  自分は一軍で、スクールカー

【小説】烏有へお還り 第3話

   第3話  ずいぶん遅くなってしまった。ひょっとしたら置いて行かれたのではないかという悪い想像が頭をかすめたが、さっきと同じ場所にダークグリーンの車体を見つけた。安堵して走り寄る。 「えっ、どうして」  車中には人の姿がなかった。運転席のシートが外灯に照らされている。もちろん後部座席にも誰も乗っていない。  車を間違えたのかと、辺りを見回した。けれども、さっき車を停めた場所で間違いない。念のため、車の中を覗き込んだ。バックミラーにぶら下げられたお守りのようなものにも

【小説】烏有へお還り 第2話

   第2話  張り出した屋根の下で待っていると、目の前にダークグリーンの車が停まった。運転席の吉川が手で合図をする。  後部座席には女の子が二人乗っていた。髪の長い方の子には見覚えがある。確か、ドリンク売り場にいた子だ。 「すみません、ありがとうございます」  助手席に乗り込み、雨が振り込まないように慌ててドアを閉めた。後部座席の二人にも「こんにちは」と挨拶をすると、 「こんにちはー。てか、お疲れさまでーす」  長い髪の女の子がそう言って、指を使ってなにかのポーズをし

【短編小説】望月のころ あとがきのようなもの+おしゃべり

 このたびは短編小説『望月のころ』をお読みいただき、まことにありがとうございます<m(_ _)m>  こちらの作品は、2008年に書いたものを大幅に加筆修正したものです。  わりとお気に入りの作品で、当時通っていた文章サークルの同人誌にも掲載しました。  さてさて、今月はわたし、ある件で忙殺されておりました。  実はかつて通っていた文章サークルの講師が、2年前の2022年にお亡くなりになってしまったのです。享年八十六歳でした。  先生のお母さまは百歳まで生きておられ

【短編小説】望月のころ 第11話(最終回)

   第11話  マンションのエントランスで、僕はポケットからハガキを取り出した。部屋番号を確認してからボタンを押す。 「はーい」  その声が、三十年という長い時間を一瞬で溶かした。僕が名乗ると、「どうぞ」という声と共にオートロックが開く。  エレベーターの中で、僕は背面の鏡に映る自分の姿に目をやった。  生え際にぽつぽつと白いものが混じる。特にサイドのあたりは多く、固まりになっていた。  輪郭がたるんでいるのがわかる。目頭から伸びる皺は頬を斜めに縦断しているし、心な

【短編小説】望月のころ 第10話

   第10話  そこで目が覚めた。  詰めていた息を吐いた。横隔膜が震える。  片方の手で顔を半分覆った。暗闇の中に、愛しい人の姿が浮かんでくる。 「さくら」  名を呼んだ。とたんに、涙があふれる。  すべて終わったはずだった。  それなのに、炎はまだここにある。  激しく燃え盛るのではなく、静かに、けれどもしたたかに、僕の心を震わせている。  行き先を失った僕の心を灯している。  存在したがっている。  生きたがっている。  ああ、と声が漏れた。温か

【短編小説】望月のころ 第9話

   第9話  遠くでざわめきが聞こえる。  廊下に誰もいないことを確かめると、僕はそっと図書室の扉を開け、身体を滑り込ませた。  夏休み前の短縮期間は、給食を食べたらすぐに下校だ。昼休みがなく、放課後も図書室は解放されない。  けれども、鍵がかかっていないのは知っていた。だからこうして、読み終えた本を返して新しい本を借りるために、忍び込むことは初めてではなかった。  図書室は普段と違って薄暗く、空気が重い気がした。吸い込むと、みぞおちがぐっと押し込まれるような感覚

【短編小説】望月のころ 第8話

   第8話  短いメッセージがさくらから届いたのは、夜半のことだった。  返信しようと、何度も文字を入力しかけては消す。どんな言葉も、相応しいとは思えない。  もう一度彼女のメッセージを読み返した。 『こんなに反省している武を見るのは初めてで、驚いています。まだ複雑な気持ちだけど、操のためにも家族としてやり直さないとね。如月くんには迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないです』  友としての親しみが込められている。けれどもそれはすなわち、僕と彼女との間に横たわるはっき