間 学

アルツハイマーが加速度的に悪化する父タカオさんとの奇妙で緊張感溢れる共同生活。 漫画に…

間 学

アルツハイマーが加速度的に悪化する父タカオさんとの奇妙で緊張感溢れる共同生活。 漫画にしたらタカオさんが笑った。https://instagram.com/drk.publishers/

最近の記事

いつか見た風景 101

「フレームの中の私」  聞こえているか私の声が、見えているか私の姿が、届いているか私の思いが、気づいているか私の本心が。ならばここで質問だ。私は一体何者なんだ?                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  目に涙が浮かび、心臓がキュンとなった。  去年の暮れに私の松果体が覚醒して直ぐに気づいた事がある。ニック・ボストロムのシュミレーション仮説はほぼほぼ正しかったという事だ。高次元の何者かの悪意に満ちた悪戯によって構築された何らかの日常、つまり人工

    • いつか見た風景 100

      「束の間の幸福論」  私は深夜の冷蔵庫の統治者である。深夜のリビング帝国の王位もまだ失ってはいない。帝国は無意識の回廊を通じて隣国のベッドルーム共和国へと繋がっている。かつてそこには愛しき妻がいて「いい加減もう寝なさいよ」と私を心の平安へと導いた。今そこは宇宙の神秘へと繋がる魂の発射基地になっている。そうだ忘れてはなるまい。日に幾度も祈りを捧げるトイレット礼拝堂の事を。私自身と私が生息するこの星の全ての生き物たちの平和と安全を、私はいつも魂を絞り出すように願っているのだから

      • いつか見た風景 99

        「ヒップでホップな松果体」 「ワタクシゴトの、ワタクシゴトによる、ワタクシゴトのための」シンクタンクでも作ろうかって思っているんだよ。過激な好奇心を振りかざす痴呆老人主催の秘密結社だと揶揄されてもいいからさ。この世から消える前に、もう少しこの世の事を理解して、出来ればこの世に爪痕を残したいじゃやいか。ほら、子供の頃の柱のキズと同じだよ。私はここまで成長しましたよってね。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  シンクタンクの名前は決まってるよ。

        • いつか見た風景 98

          「深夜の冷蔵庫で起こった事の全て」  かつて私は問うていた。「私はいつから今の私だったのか?」と「私はいつまで私なのか?」の2つの疑問を私自身に。その疑問に終止符が打たれる瞬間は突然やって来た。昨日の深夜、近所のコンビニで新人の若いイケメン店員が2人の女性客から「いつからバイトしてるの?」「何時に終わるのよ?」と執拗に絡まれていたのだ。店員は嫌な顔一つせず、クールに含みを持たせてこう答え、私にそっと啓示を与えた。「ちょっと前から」「そのうちきっとね」と。         

        いつか見た風景 101

          いつか見た風景 97

          「脳内ルネサンス」  アイスクリームでも食べようか。抹茶がいいか、それともヘーゼルナッツ入りのラムレーズンにしようか。それから溜まりに溜まった未読メールをどうにかしないとな。そうだ思い出した。リビングの壁の模様替えをするはずだった。いや今日じゃないだろう。昨日じゃなかったかな。まあいいか、アイスクリームでも食べようか、そろそろクイズ番組が始まるからさ。               スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  執着を捨てようかと思ったんだよ。色々とね。それが新たな

          いつか見た風景 97

          いつか見た風景 96

          「# 失われた時を求めて」  神話の創成期の始まりからずっと、高度な象徴性を帯びた記号や図像、更に観念と言ったものに我々は支配され生きて来たと言う。そう、一方通行とか一時停止の道路標識が前方の状況を示す以上の出来事を我々の脳内に埋め込むために。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  かつては世界のどこでも夢は特別な意味を持ち、同時に大いなる敬意を持って扱われて来た。賢者たちは競って夢の図象の解釈解読に明け暮れ、神の贈物とか宇宙の神秘とか、また

          いつか見た風景 96

          いつか見た風景 95

          「深夜の訪問者」  迂闊にも私は夜について考えている。夜が私自身を測定し、定義づけている事なんか、とっくに気づいているはずなのに。おっといけない、真面目に構えてなるものか。戯けてはしゃいで、私の正体がバレないようにしないとな。何しろ夜の奴の正体だって、まだまだ何者なのか分からないんだからさ。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス 「よお、スコッチィ、久しぶりじゃないか、調子はどうだい。えっ何、そうかそうか、悪くない。現状が維持出来てるなら上出来

          いつか見た風景 95

          いつか見た風景 94

          「午後のしじまに奇想曲」  多くの真相が行方不明になっている。証拠となる記憶の断片と共に。だから昨日の午後に私はリビングのソファに寝そべってモーツァルトのレクイエムを聴きながら脳の初期化を試みた。様々な映像や音声、さらにテキスト情報が、私に意図的に並べ換えされないように。                 スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  目は閉じていた。ぼんやりとはしていたが妙に頭は冴えている。背中はソファの背もたれについていたはずだったが、感触はそれとは明らかに違っ

          いつか見た風景 94

          いつか見た風景 93

          「何でもないある夏の日の午後」  誰にでも経験があるはずだ。少しの間でいいから誰かの人生と入れ替わってみたいって。尊敬する過去の偉人たち、お気に入りの作家や芸術家、音楽家や大道芸人だっていい。或いは何者でもない普通の人たちだって。案外近くにいる自分とは全く違う年齢や性格の人物かも知れない。きっと前から気になる存在だったはずだ。彼らのどこかに惹かれている自分がいたはずだから。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  何でもない夏の日の午後には特に

          いつか見た風景 93

          いつか見た風景 92

          「もう一つの人生」  もう一度、最後にもう一度だけ、夢に賭けてみようかと私は何度も思う。どこかで無謀だと思っていても自分を信じて前へ進む勇気を、若い頃のようにもう一度持ってみたいと。その夢がどんなものかは問題じゃない。叶うかどうかも正直どうでもいい。ただ一点、無謀な勇気という奴に私はすっかり魅了されている。                 スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  一人の男がある朝コーヒーを飲みながらテーブルに置かれた世界地図を眺めていた。男はかつて気球を用い

          いつか見た風景 92

          いつか見た風景 91

          「老人のジレンマ」  あなたには黙秘権があると言われた。但し、正直に事件当夜に起こった事を証言すれば司法取引に応じてもいいと。まるですっかり犯人扱いだ。私はいい年をして泣き出しそうだった。何しろ記憶が曖昧で、その夜の私の行動などはっきりとは覚えていないのだ。                 スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  はじめに音楽があった。鳥のさえずりやオオカミの遠吠えのような。或いは猿やラクダやイルカの鳴き声のような音楽だ。人間たちも全く同じだよとチャールズ・

          いつか見た風景 91

          いつか見た風景 90

          「化石化する日常」 「月のお下がり」と呼ばれる化石があるんだ。正体は既に絶滅したビカリアと呼ばれる大昔の巻貝の化石なんだけど、なぜか江戸時代の人々はコイツの事を「月のお下がり」って、つまりさ、お月様のウンチって呼んでたんだよ。                  スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  見ようによっちゃ可愛いソフトアイスにも見えるけど、何でよりによって月のウンチだったんだろうね。江戸時代に奇石収集家の木内石亭が書いた「雲根志」には2000種を超える鉱物や化石、

          いつか見た風景 90

          いつか見た風景 89

          「嵐の夜は心ゆくまで」  嵐で無人島に不時着した。幸い軽い脳しんとうで済んだのは運がいい。耳鳴りと左の首の付け根に違和感が残っているけど大した事じゃない。夜が明ける前に何としても状況を把握してここから抜け出す方法を探っておかないと。うっかり寝落ちでもしたら大事だ。何しろ目が覚めると、私はいつもリビングのソファ辺りに転がり落ちているからさ。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス 「君はラッキーだよ」とアーサー・エヴァンスと名乗る口髭を生やした英国

          いつか見た風景 89

          いつか見た風景 88

          「歪み加減の微調整」  人間の脳は進化の過程で、例えば自分たちに都合の良い物語を作り上げる事に見事に適応していったと言う。物語は仲間を作り、集団を育み、宗教や芸術を生み出した。科学に貢献し、文化を生成し、社会を構築した。それはやっぱり一人では寂しいから、一人では無力だから、一人では退屈だからだろうか。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス   ありふれた日常を驚くほど自然に、何より他に比類がないほど魅力的に切り取って来た写真家のスティーブン・シ

          いつか見た風景 88

          いつか見た風景 87

          「忘却ホテルの思い出に」  バッカシ家の長男ジョーダンは7代続く家業を継いだ。ワニの紋章の入った古いホテルと裏庭の菜園。菜園には、かのお釈迦様の弟子の周利槃特(シュリハンドク)の墓から生えたと伝わる茗荷が今でも見事に栽培されていた。                スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  ワニは決して後ろを振り返らない。前進あるのみで前しか見ないから。だからその事に肖り、例えばイギリス王立科学研究所のどこぞの壁にはワニのでっかいレリーフが飾られてたりするんだ。

          いつか見た風景 87

          いつか見た風景 86

          「恋の冒頭の導入部」  恋多き人生だったとは到底言えない私のこれまでの人生を、何だか必死に取り戻そうとしているかのように、このところの私は新たな恋に余念がない。それも二つ同時に。分かっているよ、無謀だと言う事くらい。。それでもこうした冒険が私の脳内にもたらす計り知れない恩恵を期待しない訳にはいかないからね。                 スコッチィ・タカオ・ヒマナンデス  それは突然やって来た。ここ一年ゆっくりと互いの感情を育てて来たと言っても過言ではない私の大事な金

          いつか見た風景 86