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Q:免疫力を下げる可能性が一番高いのはどれでしょう?①フルマラソン完走 ②高強度インターバルトレーニング③1日11時間以上の座位

この問題の答えは、①です。

「免疫」に関するしくみが、本格的に研究されるようになった歴史は、意外に浅く1960年代。まだまだ課題を残している研究が多く見られます。

①フルマラソンの完走は、
多くの研究で免疫力を低下させることが明らかになっており、激しい運動や過度なトレーニングは免疫力を弱め、感染症のリスクを高めると言われています。
一方、適度な運動は免疫力を高め、感染症や生活習慣病に有効とされています。

ちなみに、
②の高強度インターバルトレーニングとは、強度の高い運動と低い運動を交互に取り入れて短時間で運動効率をあげるトレーニングですが、糖尿病患者においては、「午前」のトレーニングに限ってですが、病態を悪化させるという報告があります。また、③の1日11時間以上の座位では、死亡率が40%あがるという研究があり、長時間座ったままも体にはよくないということがわかっています。

マラソン終了後、50%以上の人が風邪をひく?!

マラソンやトライアスロンのような過酷な持久性運動では、競技終了後2週間で50~70%の選手が感冒症状(咳、鼻水、のどの痛みなどのウィルス性上気道炎:風邪症状)があらわれ、そのリスクは2~6倍にもなるという報告があります。免疫力が維持されていればかからない病気にも、過度な運動によっては、かかりやすくなるということです。

その原因としては、
過度な運動により、のどが乾燥したり冷やされたりすることで、唾液などの病原体を排除する機能(分泌型IgAなど)が低下したり、白血球などの病原体を攻撃する免疫細胞(NK細胞やT細胞など)の働きが抑制されることなどが関係すると考えられています。

一方で、
適切な栄養や休養に加え、抗酸化物質などのサプリメント使用によりリスクを軽減できる可能性が示されつつあります※。

低栄養状態は、感染症のリスクを高めます。

過度な運動を行うと、
エネルギーの不足、骨格筋をはじめ筋繊維の損傷、活性酸素の過剰な産生などがおき、人間の体はそれを修復しようと働きます。

肝臓では、体内に貯蓄された「糖質」「脂質」「たんぱく質」をエネルギーにしたり、筋線維を回復するため「たんぱく質」を合成したり、さまざまな栄養の代謝が行われます。これには必ず「ビタミンB群」をはじめとするビタミンの力が必要です。また活性酸素を除去するのに抗酸化作用のある「ビタミンA、C、E」が働いたり、強い骨を維持するために「カルシウム」「マグネシウム」「ビタミンD」「亜鉛」が動員されたりします。

他にも、
全身に酸素を運ぶ赤血球の材料である「鉄」は、マラソンや重量上げ、サッカーなど足裏に衝撃を与えるスポーツでは損失が大きくなり、大量の汗をかけば「ナトリウム」などのミネラルは体外へ出てしまうため補給が必要となります。

とにかく
過度な運動後は、体の修復のためにさまざまな栄養素が働いているため、その不足を補う必要があるため低栄養状態になると考えられます。低栄養状態で免疫力が低下していると、ウィルス感受性を高め、感染症が発症しやすくなると言われています。これは過度な運動時だけでなく低栄養状態すべての場合に共通します。

栄養学的に、ほぼパーフェクトなメニューをひとつ紹介します。

一般的に、
低栄養というと痩せ細ったイメージがありますが、昨今は、かくれ低栄養とも言える「偏った食事による栄養素の不足」が問題になっています。肥満においても起こりえるため、注意が必要です。

免疫細胞はタンパク質でできていて、その細胞を正常に働かせるためには、他にもさまざまな栄養素が必要になります。そうした点からも、各栄養素が不足しないようバランスの良い食事を摂ることが重要です。

当然といえば当然ですが「何をどれだけ食べればよいのか」となると、簡単なようで難しいかもしれません。現在、日本では「日本人の食事摂取基準2020年版」によって栄養素の基準が定められています。これに照らし合わせると、個人が実際に摂取している栄養素には、かなりバラつきがあります。

ここで、
基準に定められた栄養素がバランス良く摂取できるほぼパーフェクトなメニュー例「ごはん、豚汁、納豆、ほうれん草のお浸し、ヨーグルト、キウイ」を紹介します。

複数の栄養素を含んでいるかつ不足しがちな栄養素を多く含んでいる食材を選ぶことで(下記グラフ参照)、約600kcalでPFCバランス(炭水化物、脂質、たんぱく質の良いバランス)を満たし、ビタミンA・B1・B2・C・E、鉄やカルシウム、飽和脂肪酸や食塩量まで効率的に簡単に摂取できる食事となります。

納豆が苦手な方は、豆腐など大豆食品に。動物性のたんぱく質に置き換えて白身魚でもよいですが、煮つけにすると塩分が増加するため注意しましょう。
ごはんは雑穀米にすると栄養価をさらに上げられます。   

※体重50~60㎏程度で活動量が低い方(1日あたり1800kcal程度)を想定。過度な運動をした場合は、その分プラスする必要があひます。
※グラフ:(株)asken ダイエットアプリ「あすけんダイエット」より

この献立では、量がかなり少ないと感じた方もいることでしょう。

もちろん体重や活動量によって必要なエネルギーは変動しますから、体重が減少すれば低栄養、増加すれば過栄養と考え、適正体重を維持できる範囲で量とカロリーの調整が必要です。

この献立に追加するなら、
ごはんの量を増やすほか、小鉢程度の副菜を1品追加。あるいは納豆を鶏のからあげや豚の生姜焼き、牛肉のオイスターソース炒めなど肉や魚料理に変更することで、エネルギーの合計を100~200kcal増やすことができます。

逆に、減らしたいという方は、
炭水化物であるごはんを少し減らしてみましょう。そうすると、ビタミンやミネラルを減らすことなくエネルギーを調整できます。栄養不足はもちろん栄養過多が気になる方にもおすすめのメニューです。

さいごに、
ストレス、睡眠不足や不規則な生活、加齢などによっても免疫力は低下します。ウィルスや細菌は、乾燥した状態を好み、温度が低下すると活発になり、感染症が発症しやすくなります。お水やお茶をこまめに摂取し適切な水分補給で喉の粘膜を湿らせておくことも大切です。

適度な運動と栄養バランスの良い食事をする生活が大切ですが、免疫力が低下するような生活パターンになった場合は、この記事でお伝えしたことを参考にできるだけ早くリカバリーすることを心掛けましょう。たとえ病原体が体の中に潜んでいても、免疫力を維持していれば、感染症などに発病するリスクをあげずに過ごせるでしょう。

【参考】
・日本補完代替医療学会誌 第1巻 第1号 2004年2月:31-40 【総説】運動と免疫 鈴木克彦
・厚生労働省 e-ヘルスネット 腸内細菌と健康/活性酸素と酸化ストレス
・大塚製薬株式会社 乳酸菌B240の効果で風邪のリスクが低下 乳酸菌B240研究所ホームページ
・女子栄養大出版部 栄養と料理 2020.6月号 COVIT-19を栄養学で克服する 香川靖雄/ビタミンDで呼吸委感染症は予防できるか? 佐々木

・女子栄養大出版部 栄養と料理 2020.7月号 新型コロナウィルスの予防医学 香川靖雄/乳酸菌で呼吸委感染症は予防できるか? 佐々木聡
・日本文芸社 理論と実践 スポーツ栄養学 鈴木志保子
・講談社インターナショナル 免疫革命 安保徹
・女子栄養台出版部 食品成分最新ガイド 栄養素の通になる第3版 上西一弘
・西東社 カラー図解 免疫学の基本がわかる事典 鈴木隆二
・(公社)日本糖尿病協会 月刊 糖尿病ライフ さかえ 2020年7月号(第60巻・第7号)
・理学療法学 第43巻第6号 508~513頁(2016年)





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