総探の授業を共創デザインする
みなさん、こんにちは。
産総研デザインスクール事務局長・最高学習責任者の小島です。
みなさんは、小中高の総合的な学習(探究)の授業(以下、総探)をご存じですか?
今回は、高校の総探をデザインしてみたよって話しです。
総探とは
まずは、文部科学省のホームページを見てみましょう。
Googleで「総合探究 事例」で検索すると事例が色々出てきます。
各学校で工夫がされているようです。
私のWill(行動意志)
前回、Willに関しては紹介しました。
さて、私の社会課題意識は「10代の自己肯定感・自己効力感を、どのようにしたら高めることができるのか?」です。
日本財団が行った調査(第20回18歳意識調査「テーマ:社会や国に対する意識調査」)によると、「将来の夢を持っている」「自分で国や社会を変えられると思う」などの項目が圧倒的に低い結果がでています。
産総研デザインスクールで毎年デンマークを訪問する際に、出会った人に毎回聞く質問があります。
「あなたは社会を変えることができると思いますか?」
です。小学校の先生から、Danish Design Centerの方々まで、みなさんにこの質問をすると「キョトン」とした後、真顔で「Yes!」と答えます。日本でこの質問を投げかけると「何言ってるのこの人」と怪訝な顔をされます。この違いに非常に驚かされます。日々、会社組織で疲弊している大人ならまだしも、18歳で「もう無理ゲー」となってしまうのは、我々大人の責任です。
そこで、人と話す度に、デザインスクールを紹介する度に、
「高校生の自己肯定感と自己効力感を上げる授業を、ポスト・デザイン思考を使ってやりたい!」
と口にしていました。
言葉は実現する
そんな話しをしていたら、産総研柏センターの隣にある柏の葉高校からお声がかかりました。「柏市に本部を置き高校生のキャリア支援を行っているNPOキャリアベースが、柏の葉高校普通科の総探を支援するので、周辺の教育関係組織で連携できませんか?」というものでした。主体は柏の葉高校、連携事務局をNPOキャリアベース、伴走者は私とデザインスクール卒業生(産総研人間拡張研究センター所属)、UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)の八崎ディレクター、東京大学都市デザイン研究室 永野真義先生です。これら5組織による総探の共創プロジェクトがスタートしました。
伴走者の最上位目標は「行動」
我々伴走者が一番大事にしたのは、「学生自らの行動によって周囲の大人が動かされるという経験をする」です。この行動と効果(フィードバック)によって、高校生は自己肯定感と自己効力感を自身の中で咀嚼、醸成、意識化、次の行動に反映されるという考えです。なので、アイデアソン、ハッカソン、プレゼンで終わりにせず、行動まで起こすことを大事にしました。
最上位目標とは
全ての行動のよりどころになる目的。横浜創英中学・高等学校 工藤勇一氏(2024年3月に同校校長を退任)が提唱しています。
我々伴走者の最上位目標を
「総探を受けた子達が、自ら行動を起こすことで、自己肯定感と自己効力感を感じる」
に決定しました。
一方で、生徒達には以下の社会課題と最上位目標を伝えることにしました。
背景となる社会課題:アクアテラスという気持ちいい場所が有効活用されていない
生徒達の最上位目標:自分も楽しみ、参加してくれた人たちも楽しめる1Day アクアテラスFesを企画・運営する。
行動あってこそ、世界を変えられる。そして最高の学びを経験する
ここでもう一つ、産総研デザインスクールからの学びをご紹介したいと思います。産総研デザインスクールで、アイディエーションとプロトタイピングを指導して下さるマイルス・ペニントン先生(東京大学大学院情報学環教授)の言葉(動画:3分18秒から)
最上位目標に向けたプロセス
先の「行動から自己肯定感と自己効力感の向上」に向けて、数ヶ月の学びのプロセスを5組織でデザインしました。その際に、各伴走者の強みを活かし総探に貢献することを意識しました。私からは、共創人材教育での実践知として、やりたいこと発見、チーミング、人を動かすプレゼンなどを提供させてもらいました。
また、学校の先生、協力者、伴走者は忙しくなると実施すること自体が目的になりがちなので、常に伴走者の最上位目標を忘れないことを心がけてもらいました。そのために、産総研デザインスクールで使用しているモノ・コトの青写真となるテンプレート、振り返りシートを共有してもらいました(ご興味が湧いた方は是非、産総研デザインスクールのシンポジウムや説明会に参加ください。)
さらに、最上位目標の達成度を計測する指標に関しても伴走者間で意識統一を図りました。
ここからは、専門的になるので、読み飛ばして頂いてもOKです。
プロセスのデザインに関しては、デザイン思考のダブルダイヤモンド以外に、システム工学におけるV字モデルというのがあります。このV字モデルは、自動車の機能安全設計に利用されたりします(例:ISO 26262)。この設計方法をサービス層、社会層に拡張したモデルを筆者は提案しています。この拡張V字モデルにおいて、各層の目的と目標と対応する指標が決定され、検証することができます。今回の総探でもこの考えた方により、目標と指標の検証が行われました。
Kazuhiro Kojima, Tamio Tanikawa, Kotaro Ohoba, New system-design model using action research in a disaster area, 2016 IEEE Workshop on Advanced Robotics and its Social Impacts (ARSO).
伴走者の振り返りと学び
高校生達の活動は、NPOのブログで読むことができます。
柏市や自治会、企業への協力を取り付けるプレゼンなど初めての経験でした。高校生達は実行委員をはじめ、皆一生懸命取り組んでくれました。
フェス当日の様子はこちらで読むことができます。
最終的には、伴走者の目標達成度指標である自己肯定感と自己効力感の数値は目に見えて上げることはできませんでした。
一方で、自由記述欄には、一人一人の声を聞くことができました。
そう簡単に人の意識が変わることはありません。
しかし、何も行動を起こさなかったらゼロです。
むしろ今の社会状況を考えるとマイナスになる一方ではないでしょうか?
デザインスクールでは内省とメンタリングの時間を多くとります。
総探でも内省の時間をもう少し取れないか?
伴走者の工夫のしどころです。
今年(2024年)の総探の集大成「まちフェス」は、11/7に柏の葉アクアテラスで開催を予定しています。
是非、あしを運んで高校生にひと言フィードバックをお願いします。
そのフィードバックが高校生達の自己肯定感と自己効力感に影響を与えます。
気前の良いフィードバックをお願いします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?