映画 「人間失格〜太宰治と3人の女たち〜」
なぜだろうか、
日本橋アートアクアリウムの狭い水槽の中を、懸命に生きる金魚の姿が、脳裏に蘇る。
「人間は、恋と革命のために生まれてきた。」
そんな、太宰の愛人、静子の情熱的なセリフが似合う、官能的で艶やかな作品。
太宰の波乱万丈な恋愛模様に、監督である蜷川実花さんの艶やかな世界観が重なった「人間失格」は、映画の垣根を超え、もはや完成されたアート作品と呼ぶに相応しい。
お見合いで結婚し、3人の子供を宿してもなお、太宰の心を射止められなかった妻の悲しみ。
太宰と築いた家庭が、彼の創作活動の邪魔になっていると察知すると、自ら別れを切り出し身を引く妻の深すぎる愛。
弟子の身分から、一生報われないことを承知で太宰の愛人となることを自ら申し出る静子。
太宰の子を宿したいと嘆願し、上流の暮らしからあえて堕ち、恋に身を捧げることを選んだ静子の強い決心。
病的に惚れ込んでしまった太宰の一番になるため、文字通り全てを太宰に捧げる富栄。
静子への嫉妬で狂いそうになりながらも、病魔と必死で戦う太宰を側で支え、最後には太宰と心中を選ぶ富栄の、盲目的な愛。
女とは、男とは。
そんなことを冒頭から始終考えさせられる作品であるが、同時に、人間の弱さを描いている作品でもある。
弱いから。
求められれば、いけないと分かってはいても、そちらへ歩を進めてしまうし、
弱いから。
窮地に立たされると、保身を第一に考え、迷わず逃げる道を選ぶ。
そういう生き物だ。
太宰の遊び振りをまざまざと目にしていると、その刹那的かつ官能的な、ある意味美しい世界に完全に魅せられてしまい、他人事にさえ感じられてしまうのだが、何が起こるか分からないのが人生というもの。
一線を超えてしまうのが悪いのか、
惚れてしまうのが悪いのか。
何が正なのか、何が偽なのか、濃密な色彩と豪華キャストによる迫力の演技に圧倒され、分からなくなってくる。
恋とは、
愛とは、
生きるとは。
人肌が恋しくなる作品であることは、間違いない。
大切な人がいること、そして今日も生きていることを、改めて感謝したい。
さて、「斜陽」と「人間失格」を、読まなくては。
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