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そんなことわかってる【ショートショート】【#39】

いつから意識しだしていたのかはわからない。
でも結構最初のへんから好きだったんじゃないかと思う。

出会いは学生のときのバイトだった。
私が先に働くようになって、2、3カ月して彼が入ってきた。彼は1つ下の大学生。シフトが重なるようになって、少しづつ話すようになったあたりで、丁度私には彼氏が出来た。

同じバイトの先輩で、1つ上の男の子。
同じバイトの人と付き合った恥ずかしさもあったと思う。まだそれほど仲良くなっていなかったのもあっただろう。その時は、彼になんとなく彼氏が出来たことが話せなかった。

お互いシフトに沢山入っていて、重なることも多かったし年も近い。彼とは日増しに良くしゃべるようになっていった。これといった趣味のない私に、ドラマの話とか、今日来たちょっと変わったお客さんの話とかで一緒にケラケラ笑いあったり、純粋に楽しい時期だった。

そんな彼にも彼女ができたらしい。
カフェのお客さんと意味ありげな視線を交わしているから、「……彼女?」ってからかったら、恥ずかしそうに下を向いて「……はい」って。
その後、出会いから告白まで、詳細に質問攻めにした。はにかみながらも、きちんと質問に答える彼は嬉しそうだった。

「私に彼氏が出来たときには、まだあの子と付き合ってない時期だったんだな」。その夜ベットで寝転んだときに、そんな考えが頭をよぎっていた。そして少しだけ……ほんの少しだけ「寂しさ」とか「後悔」に似た思いが自分に生まれていることをに気がついて……その気持ちにフタをした。

私はその時の彼氏とは、1年くらいでお別れすることになった。でも私も彼も卒業するまでバイトは続き、その間ずっと彼とは「仲のいい友達」のままだった。

私は他に何人か男の人と付き合ったけれど、しばらくすると、うまくいかなくなってしまう。そんなときにいつも彼と飲みに行って、お互いに小ばかにし合いながらも、励ましを貰う。彼の過去の恋愛の話や、今の彼女の話を聞いては冷やかしたり。どちらが上でも下でもない、そんな関係性が居心地が良かった。年月を重ねるほどに彼の大きさみたいなモノを感じるようになって、この頃には完全に好きだった。

彼と付き合っている彼女がうらやましかった。機会を狙っていた、と言えばそうなんだろう。彼となら私だってうまくいくんじゃないか、そう思わない日はなかった。
バイト先の仲が良かったこともあって、私が働きだしてからもしばらく交流は続いたけれど、彼が就職したときに転機が訪れる。遠く地方の支店に勤務することになったらしい。


もう会えないかもしれない。

彼には今も彼女がいる。仲がいいことも知ってる。地方に行ってしまう彼に、私が入る余地なんてあるわけが無い。
送別会だって言って呼び出したら彼が断らないものわかってる。そんなときに急にへんな話をしたとしてもきっと真面目に聞いてくれる。しれっと大人な顔して無かったことにしてくれるのも知ってる。これまで散々お互いの話はしてきたから、そんなこと全部わかってる。

わかってるから。

最後に一度くらい、「私たちの恋愛」の話をさせて。



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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)