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【エッセイ】 深海の人魚の麻酔薬


ビル・エヴァンスに蛇口の水の音

プラスにもマイナスにも動かない心と頭は
ビル・エヴァンスの語りをより体の中に深く響かせてくる


全ては消えて行く

イエスもノーも、無駄なほどに

ビルの音は今はレコードの中に
その音を取り出して、胸に仕舞い込だ私の胸の中の煌めきもいつか私ごと消えて行く

でも、ビルの音はきっとレコードの中に



誰かの胸に仕舞い込まれて行くであろうものは

誰かの胸に仕舞い込まれる事など考えもしない物から出来て行く

ビルは知らない
私が、ビルが亡くなった現代でビルの音を胸に仕舞い込だことを

例え、たくさんの喝采を浴びたとしても
それは、何かを作る理由にはならなかったであろう美しさが私に音を拾わせて行く
 

感性を鈍らせるものは選べるほどにたくさんある

何かを作ると言う事は、そんな物の一つでしか無く
しばしの間、麻痺をさせてくれる

痛みから逃げようとするなんて格好悪いでしょ?

それでも、音楽や絵は感情を流すにはよい道具になる

クレッシェンド
フォルテシモにピアニシモ、流れの速さに激しさに寂しさを滲ませて

赤、青、緑ときどき黒
悲しさに、痛みでくすませて

誰かの作った麻酔薬には、深い感情が含まれている気がして
その麻酔の先の痛みを見ずにはいられない

だから、何かを作る人の背景の人生を知りたくなる

深い深い心の底を少し覗けた気がするから



誰も知らない、誰も見たことがない
深海のひとりぼっちの人魚の様に
ひっそりと痛んでいる傷を

『そっか、あなたも痛かったんだね
おんなじだ』

と同じ惑星で生きている人たちの見えない姿を目にする様に


深海の人魚を歌の中から

絵の中から私はこっそり見つけ出している



akaiki×shiroimi

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