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公園の池の真んなかにて

波留まり これからもずっとスワンボート漕ぎませんかと 彼は汗ばむ

なみとまり これからもずっとスワンボートこぎませんかと かれはあせばむ

亜希


スワンボートが好きだ。
ふつうのボートを私は漕げない。
以前、妹とボートに乗ったことがあるが、オールで水を切っているだけで、ちっとも前進せず、ひたすらその場をくるくると回転し、
「お姉ちゃんっ!!!」と妹にあきれられたことがあった。

盥(たらい)に乗ったことはないが、同様にして同じ匂いがする。

なので、わたしの人生の乗り物を一つ選ぶとすれば、ジェットスキーでも、豪華客船でもBANANAボートでもなく・・・
BANANAボートは、ちょっと迷うけれど、スワンボート一択でお願いしたい。

つるつるの強化繊維プラスチックボディ。
かわいいお目目。
ジャワジャワと白波を立てて進むのもカッコイイ。

かんむりをかぶったマイスワンボートの尾っぽには、旗を立てたい。

とりあえず屋根はあるから雨風はしのげる。大人+こども1人のれるらしいので、私と夫+イヌでちょうどいいのもよい。

漕げば、ダイエットにもなるし、体力がついて、健康になるだろうし、
いつだって走りだせる。なんなら、猛ダッシュで息を切らしながらだって、ヒールを履いてたって走れる。

そんな私のスワンボートにいっしょに乗ってくれる人なんていないだろうと思っていたのに、強者が現れた。

夫だ。
夫は、こぶつき、イヌ付き、年上の私と結婚したいといってくれた。
(正しくは、ダラダラ付き合うなら他をあたってとなって、結婚前提としてと言わせしめたのだった)

英語でBoat(ボート)は、「捧ぐ」という意味だそうだが、夫氏はまさに私のスワンボートに人生を捧ぐ決断をした。

「波留まる これからもずっとスワンボート漕ぎませんか と彼は汗ばむ」
を詠んで妄想する。

春の陽気のせいでも、ボートを漕いだからでもなく、緊張しながら池の中心で、プロポーズするような彼なら、この女性は安心して幸せになれると思う。

私は、絹さやのスジ取りをしつつ、
つらつらと妄想をしながら「そういえば、夫から、私へのプロポーズの言葉は、なかったような・・・?」と気づいてしまったのである。

ダイニングテーブルの目の前の夫は、
スマホで仕事のメッセージを返している。

「そういえば、夫氏は、どうして私と結婚したの?」と夫に向かって問うてみた。

夫は顔をあげると「なんかやらかしてくれそうだったから」と
どや顔交じりにニッっと笑った。

「へっ???」意味がわからない。

衝撃だった。

やらかすとは?

一拍おいて、そんなにやらかしているようには思っていないんだってばって思う。

逆に、そんなんで結婚を決めてしまうような夫氏のほうが、だいぶやらかしていると思うのだが…と。

少し考えて気づいた。

買い物で、ひとりの時に牛乳と氷とスポドリとめんつゆまでも、いっぺんに買ってヒーヒー言ってるし、英語もまとも話せないのにいきなりメキシコにも飛んだ。

それでさらに気づいた。

スワンボート、私ばっかり必死に漕いでいる。


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