行方昭夫 『英文の読み方』

★★★★☆

 2007年に岩波新書から出版された本書は2017年8月の時点で10刷となっているので、10年以上読み継がれているということになります。これだけでも本書が名著であることがわかると思います。
 著者の行方氏は東大名誉教授で、サムセット・モームなどを訳されています。モームだけを教材に用いた翻訳本も何冊か出されているようです。

 本書では、英文和訳から翻訳へと至る筋道を、5つのステップで、重要なポイントを挙げながら教えています。
 多少なりとも翻訳を学んだ人からすると、驚くような秘訣はありませんが(というか、そんなものはそもそも存在しないのです!)、何度くり返しても無駄にならない内容なので、翻訳に興味がある人なら読んで損はしないでしょう。

 特により高いレベルの翻訳能力を身につけようとしている方は是非読むことをお薦めします。
 英文和訳以上、プロの翻訳未満の実力の人が、もう一歩二歩先に進むために必要な〝英文を深く読み取るポイント〟がたくさん出てきます。モームやソール・ベロ—など多用な文体の英文を使って、実地に学ぶことができます。
 僕も読みながら、ううむ、と唸ってしまうことしきりでした。

 逆にいうと、ある程度の英語力(最低限の英文法の知識など)がないと読み進めるのは厳しいかもしれません。初級者向けではなく、中級、上級者向けでしょうか(レベルの分け方は正直よくわからないですけど)。

 とはいえ、例文として出てくる英語がわからなかったとしても、英語という言語の特性を学ぶことができるので(たとえば『英語は発言の根拠を説明することにこだわる言語』など)、わかるところだけ読んでも十分役立つでしょう。英語という言語の大まかなガイドラインを知っているだけでも、その後の進歩はかなり変わってきますから。

 英語に興味のある人は、誰でもどこかの時点で読むとよい本ではないでしょうか。

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