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短歌|第1回笹井宏之賞“落選”作「あるいは一条の日日」

こんばんは、アクツです。今日は表題通り、第1回笹井宏之賞に応募して落選した連作「あるいは一条の日日」を公開します。

noteを始めて間もないこともあり、どこへ向けてどこから書けば……?とも思いつつ、とりあえず。短歌は57577、31音を基本とする定型詩で、笹井宏之さんはこういった方で、笹井宏之賞とはこのような賞で、募集要項はこんな感じでした。それで、「あるいは〜」は、わたしが初めて作った全50首の連作です(最長10首でした)。では、ご覧ください。

あるいは一条の日日

彼方には彼方の風の在ることを未来と呼んでみる地平線
手袋を捨てた裏返しのままで無数のあなた包んだままで
さびしさに寒さ塗せば凍土に告げられている銀貨の在処
冬茜 不意に延焼するように洗いざらしの靴ほど泣けば
きしきしと肌張りつめる雪の浜 裸木にしてくれ わたしを
墨色の叙景切りとり降り積もる雪は余白のようにあかるい
つみ重ねる黒き外套償いも生きる理由になり得るらしい
草臥れた隠喩のようなブラジャーに真白きガーゼ靡く春風
あに走りおとうと転びふくらはぎ濡らす雪解け水のきらきら
しゃぼん玉色褪せぬまま消えゆけばあの頃という虹の面影
泥濘みのふたり跳ねたり滑ったり汚れても血が出てもきらきら
鈍角の午睡の目覚め 風上を曲がる他人のようなサイレン
わけもなく張り裂けそうな胸として苺をつぶしミルクをかけよ
晴れ渡りベビーカー交う公園のアネモネ深い穴を咲かせて
白木蓮こぼれ始めて上向きに十五センチのうわばきを干す
点描の霧雨の朝 悪夢から覚める夢から覚める夢みる
歌集句集詩集静もる部屋隔て連絡帳を書きペンを置く
丁寧に暮らしたいねと話しつつタバスコぐんぐん振るナポリタン
さみだれを浴びて黄色いランドセルカバーきみには光だけ降れ
何もかも伝える前に虹消えてビニル傘から滴る真珠
ツユアケの意味を覚えたきみと見るすべての屋根に梅雨明けの空
進化ともいうか弱さを抱くきみのいつくしき手を引く夏木立
青天は千光年を漉く水面 石切りとして乳歯を投ず
きみなりのレジスタンスか空色のタオルケットのみのむしになる
きみたちは太陽だ 蝋のつばさも勇気もいのちもあげるだいすき
あざやかに人人写すゴーグルの一つ流水プールを進む
変節を恐れるなかれぽっかりとプールサイドのすいかの浮き輪
幼稚園バスに手を振る夏の果て 空爆のある星に暮らして
誰に何をさし出せば護れるだろう四時の木漏れ陽万華鏡めく
溶きたまご時計回りに掻くきみの解けない問いは祈りにも似て
蒼闇に立つ向日葵の種の重み病める日も健やかなる日も母
残る蟬いのちのかたち折り畳み無数の生にただ一つの死
砂利道を踏む自転車の鍵の鈴遠退いてゆく秋の黄昏
静止した画廊跡地に吹き寄せる金木犀の旋律がある
きみの眼に林檎の皮の螺旋なす細くも長く途絶えないこと
歓びを見つめ続けていればこそうつくしき深秋の喪失
教室の画鋲すべてに西陽差し痛みはいつも一握りの火
千窓のガラス千窓の夕映えただ一篇の詩になれるなら
消えた美と残り火ならぶ本棚に立ち尽くす背の影の傾き
突き上げる針葉樹林の爪先に満ちゆく月を妬みたくない
生涯が一冊の本なら月の光の箔を押して燃やして
日没は夜明けでもありまんまるいパンケーキをよっと裏返す
一束の白紙の上に在る檸檬 あれはわたしたちだ そうでしょう
街中にあるいは個個の水晶に鎮もる汽水域のみづいろ
巡りゆき巡りくる季節を乗せて各駅停車の吊り革円か
花見に来た駅通るたびいつかまたお花見しようねと笑いあう
ほころびたきみのライナスの毛布の空色いまはわたしを包む
草臥れた乳房にやわい頬埋めママあったかいと笑むきみ遥か
さようなら幾何学的なかなしみよ吐息もやがて海風となる
この風を投函しよう今ここの千年後のあなたの耳に

落ちたのはよいとして、では次にどこをどうしたらよいものかと考えました。結社などにも所属していないし……

そこで思い出したのが、「いくらたん」(Twitterで子育てしつつ短歌を作っている会)でご一緒している柴田葵さんが以前配信されていた、「ネットプリント歌壇賞落選作『生活をする』と四人の評」です。応募作に評を書いてもらい、全て公開するという企画でした。葵さんはなんと、今回の笹井賞の受賞者です。

省きますがそれからまたいろいろありまして、歌人の龍翔さんと2人で応募作と評のネプリを作ることになりました(半ば強引にお誘いしました)。わたしの連作の評は西巻真さんと内山佑樹さん、龍翔さん(相互評)にお願いできました。それが完成しまして、今、配信しています。

とにかく寄せていただいた評がすごく勉強になりましたので、わたしの連作以上に読んでほしい!と思っています。いやっまあ、わたしの連作も読んでいただきたいですし、あわよくばご感想などもうかがいたいというのが本音ですが……。

ということで、ネットプリントの詳細を載せておきますね。2019年2月22日〜3月1日まで配信しています。PDFはこちらからダウンロードしてください。

あわよくば、ご感想などもうかがいたいというのが本音です。どうぞよろしくお願いします。

それでは、また次回。

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