見出し画像

葉真中 顕 ロストケア

介護の仕事をしていると、いろいろな利用者に出会います。

その人たちのなかには、早くあの世に行きたい、と思っている方もいます。ただ、「早くあの世に行きたい」にもいろいろなニュアンスがあります。この言葉を笑って言う人もいますし、苦しそうに言うひともいます。

さらに、本当は苦しくてあの世に早く行きたいのに、それを口に出せない人もいます。


さて、ロストケア。介護保険法が出来た当初の、民間介護サービスで起きた連続殺人。ミステリー小説ではあるのですが、ここでは「介護現場における安楽死型の殺人」が様々な視点で問われていきます。本人の視点、家族の視点、介護者の視点、介護事業経営者の視点、検察官の視点などです。さらには人口学的、統計学的な視点も。


それぞれの視点の日記の中で、強者の中の弱者、弱者の中の強者たちが、互いを押しのけながら話がすすんでいく感じです。


この小説の規模ではなかったにしろ、類似の事件は実際に起きたし、これからも起きるでしょう。なぜなら、それが現実の世界だから。この小説は、その「現実の世界」のさまざまな様相に虫眼鏡をあてて読めます。2015年の日本ミステリー文学の新人賞受賞作、他の本も読んでみたくなりました。
なぜならば、私も完全に著者の罠に嵌って騙されましたから!

弱点といえば、介護保険の説明がややくどいかな。でもきっと、それは私がその世界の人だからでしょう。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?