二郎

雑文を書いています

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  • アルゼンチンタンゴ

    アルゼンチンタンゴを知らない人にもわかるように書いていきます

  • 高齢者ケア・医療など

    わたしの仕事関連です

  • シクロクロス還暦ライダーの苦悩

    私が嵌った自転車競技シクロクロスに関するエピソード。特に還暦ライダーの苦悩について

  • 座骨神経痛と腰椎ヘルニア

    やぶ医者として自分が体験している座骨神経痛、その原因としての腰椎ヘルニア。さまざまな角度から書いてみます。

最近の記事

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認知症における恋の効能

悲しいでしょう。 何も差し上げられませんがぬくもりだけは差し上げられます。 私のベッドでお待ちしています 私が勤務する老人保健施設の職員が、利用者の部屋でこんな手紙を拾った。 一筆箋に美しい文字で書かれていた。女性が男性に宛てた手紙だ。 施設の中で探偵ごっこが始まった。これを書いたのは誰? 相手は? 手紙が落ちていたのは男性用の4人部屋であった。その中の一人の男性がこの手紙を受け取った男性であろうと職員が推理した。いつも静かにデイルームの片隅でテレビを見ている、ロ

    • Sin Rumboの夜

      「エロスとポルノの違いってなんだと思う?」 9センチピンヒールの葉月が聞いた。脚が隠れる流れるような白いスカートを着ていた。 「そうやって綺麗な足を隠して中を想像させるのがエロス、露骨に見せるのがポルノ」 「えーそれはないよ、だったら私はポルノになっちゃう」 Sin Rumboは四谷にあるアルゼンチンタンゴバー。 カウンターの中で聞いていたミニスカートのルリが笑いながら言った。 ヒサシも顔を乗り出した。「こういうのはどう? 欲望を掻き立てるのがエロスで、満足させるのがポル

      • ブルシット・ジョブ

        「経済学者ケインズは、さまざまな自動化によって将来は「週15時間労働」が可能になると予想したが、そうはなっていない。代わりに「ブルシット・ジョブ」を生み出している」 安芸高田に向かう車のスピーカーからはデビッド・グレーバーのBullshit Jobを聴いていました。冬はシクロクロスのシーズンで車の移動距離も増える。そうすると車中オーディオで本の朗読を聞くことも楽しみです。 年に数回大学院での講義があり、次は来週です。どういうストーリーにするか整理しては捨てるを繰り返します

        • 小澤征爾氏逝去

          私がこの人を知ったのは父からだった。父は1950年後半にフランスに留学していた。 同じ頃小澤征爾氏は単独フランスに乗り込みブザンソンコンクールで優勝した。父にとっては同じ頃にフランスに単独乗り込んだという点できっと仲間意識を持ったのだろうな。 ということで、父は主に室内楽愛好家ではあったが、小澤征爾指揮のレコードも少しはあった。チャイコフスキーやストラビンスキーだ。レコードは徐々にCDに変わっていった。 私が小澤征爾指揮の生の音楽に触れたのは多分2回しかない。 最初は私がボ

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        認知症における恋の効能

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          今日もラリってる

          風邪をひいているから朦朧としている。 以前、お酒を飲める能力について書いたことがあるんだけど、私が酒を飲めるのは人類の祖先がオランウータンの祖先と別れたあたり、つまり800万年ぐらい前に、アルコールを分解できる酵素を手に入れたから。 その時、ヒトは酔う能力も手に入れたとも考えられる。酔うということは、酔っていない自分と酔っている自分を分けること。 酔っている自分は気持ちよく、フラフラして、都合が良いことを考えて仲間といい加減なことを話し合う力であろうか。いやちょっと待て

          今日もラリってる

          近頃の診療録の書き方

          「先生、先ほど〇〇さんが呼吸停止しました」 朝5時頃私の携帯電話に看護師の悲痛な声が聞こえた。 「〇〇さんは、看取りの予定ではなかったですよね。比較的元気に歩いていた」 「ただ2週間ほど前にコロナにかかっています」 「なるだけ早くいくから、呼吸停止、心停止を見つけた時間を書いておいてください」 「家族様には連絡しますか」 「もちろんです」 私が着いた時には家族もすでに部屋にいた。妻と、娘と息子の3人だった。 相談員からは「ご家族様が、どのような死因だったかの説明を求めていま

          近頃の診療録の書き方

          獅子の時代 アナーキストになりたかった私

          「歴史大河ドラマで何が好きだった?」 「ルソン壺を買ってくる商人の話、松本幸四郎の」 「黄金の日々、だね。僕はその後ぐらいにあった獅子の時代」 「菅原文太と加藤剛だね。パリ万博のシーンと菅原文太が、日本中に汽車を走らせるんじゃ、と吠えていたのがなぜか思い出す」 「獅子の時代にね、植木枝盛という人物が出てきたと思う。板垣退助の相棒で、天は人の上に人を作らずという福沢諭吉を引用したりしながら独自の日本国憲法草案を書いた不思議な人でね。でその憲法草案には、国民の革命権が書い

          獅子の時代 アナーキストになりたかった私

          アマゾンのフロレンシア

          メキシコの作曲家ダニエル・カターンのオペラ「アマゾンのフロレンシア」。今年のメトロポリタンオペラの配信映画の一つ。 世界的オペラ歌手フロレンシアは、恋人を探すついでに公演しにマナウスへ向かう。オペラとマナウスという設定は、アギーレ・神々の怒り(ヘルツオーク)を彷彿とさせるが、これはオペラである。音楽はアマゾン川をゆっくり遡りながら、そこでいくつかの愛が語られる。 川だから音楽もゆっくりしている。ワーグナーが海を表現した「さまよえるオランダ人」と比べてはいけない。静かな海のよ

          アマゾンのフロレンシア

          Groundhog day

          今日2月2日はGroundhog day. 北米では春の訪れを占う日、ということになっている。日本では3月5日ごろに啓蟄があるが、これの北米版であろうか。 さて、このGroundhogというのはリスの仲間。もともとドイツ移民が、春の音連れをアナグマで占ったことがきっかけで、この祭りが広まったとされている。 別にこの日が特別というわけではないけれど、この日をテーマにした映画“Groundhog day”というのがある。ビル・マレー(ゴーストバスターズの)とアンディ・マクダウエル

          Groundhog day

          読んでいない本について堂々と語る方法 ピエールバイヤール

          この本は2回読んでしまった。 友人の中には本を全く読まない人もいる。テレビだけ、映画だけ、あるいはスマホに出てくる短い動画だけ。本を読むという作業は実は、集中力と時間がかかる。お酒を飲んでいるとまともに本も読めない。映画やドラマはそうでもない。だったら本よりそっちの方が優れているのかもしれないとも考えらえる。私も最近はアマゾン・オーディブルを聴くのが楽しい。本物を読むよりも好きかもしれない。 で、この本は今の所2025年に読んだ本の中で一番面白かった。まだ1月だけど。2回読む

          読んでいない本について堂々と語る方法 ピエールバイヤール

          鈴木隆美「恋愛制度 束縛の2500年史

          富田林でレースがある。家から往復してもよかったのだが、その近くのお不動さんの古刹の前にある門前屋に泊まった。玄関の自動ドアが壊れ他に客がいないが夕食は出すという。Wifiなどはない。今風呂を沸かしているから少し待ってと言われている間に鈴木隆美「恋愛制度 束縛の2500年史」を読んでいる。「緊縛の」ではなかったからSMは関係なかった。 とここまで書いたら外から念仏が聞こえてきた。部屋の外には滝修行場があり、雨も降っていてもう真っ暗だったけれどそこで女性が白い衣装を着て、滝に打

          鈴木隆美「恋愛制度 束縛の2500年史

          性の歴史I 知への意思 ミッシェル・フーコー

          ミッシェル・フーコーの性の歴史の1巻を読んでいる。読み直しているのかもしれない。この本を買ったのは大学生の頃であり、その時読んだかどうかも定かではない。そしてこの本をまだ持っていることも不思議だ。何度も処分の危機を免れたのだろう。いつかは読もうと思っていたのかな。ついにその時が来たようだ。1986年の第二刷だから買ったのは多分大学2年生の頃だ。 最初からして面白い。フーコーは、ビクトリア朝とそれ以前の社会と性を分析し、資本主義社会は性の言説を規制することで、社会をコントロー

          性の歴史I 知への意思 ミッシェル・フーコー

          「下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからもまだ続いていた」

          小説のラストの一文。これが何の小説がわかる人はえらいなあ。映画でほんのり覚えているという人もいるかしらんけど、京マチ子か佐久間良子が東海道線のトイレに駆け込むのんは見たないやろ。 私も昔読んだはずだが記憶に残っていたのは平安神宮の花見。岐阜の蛍狩、雪子の繰り返す破談と失敗した見合いの相手の一人が医者崩れの製薬会社常務だったことぐらい。 初読から30年経って「細雪」に触れた。冬は自転車のレースの季節で長距離ドライブが増えるから去年はオーディブルで谷崎の「痴人の愛」を聞いた。

          「下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからもまだ続いていた」

          鬱状態と付き合う方法を探すための日記

           11月3日は文化の日にベルリンから来た友人は帰っていった。朝はのんびり明日のレースの準備をしつつ、今日の祝日をどう過ごすかを考えてまずは大阪の巨大書店に向かった。ひょっとしたらミロンガに行きたくなるかもしれないから念のためダンスシューズも持って。  本屋ででなんとなく本を眺めていたら、山口路子 「大人の美学 245の視点」という本が目に入った。山口路子。どこかで聞いたことあるお名前。さてどこだろう。  で、その本を手にとってページを捲ってみるといろんな作家や俳優による美学み

          鬱状態と付き合う方法を探すための日記

          甲斐扶佐義 写真展

          =甲斐コロ毎日新聞取材記事20231018京都面.jpg (1200×1401) (galerie-miyawaki.com)  甲斐さんと会ったのは今から三十数年前。この写真がきっかけだ。この写真をとったのは甲斐さんで、以前彼のホームページから借りてきたものだ。中央の人物はジャズピアニストのMal Waldron氏。若い私と、その隣にいるのは亀の井別荘の中谷太郎氏である。このころは福岡に住んでおり、両親が借りていた小さな別荘が湯布院にあったため、機会があるごとに湯布院を訪

          甲斐扶佐義 写真展

          写経始めました

          「もう三時間も前のこと、島村は退屈まぎれに左手の人差指をいろいろに動かして眺めては、結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている、はっきり思い出そうとあせればあせるほど、つかみどころなくぼやけてゆく記憶の頼りなさのうちに、この指だけは女の触感で今も濡れていて、自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだと、不思議に思いながら、鼻につけて匂いを嗅いでみたりしていたが、ふとその指で窓ガラスに線を引くと、そこに女の片眼がはっきり浮き出たのだった。」  以上引用。どこから

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