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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:風響の守護者と見習い賢者の妹 第十二話 始まるリリアーナの冒険

前話

「ローレライお姉ちゃん。綺麗な景色ねぇ」
 リリアーナは呑気に言っている。緊急性の高い旅だが、まだ十三才の妹にはまだ実感がない。ルドルフとの戦いにも参加していない。おませな女の子として成長しつつあるが、まだまだ子供だ。時折どきっとする発言はあるものの、緊張感はない。
「いいじゃないの。レオ。旅気分でも」
「ユレーネ? 俺なにか一人言でも?」
「いいえ。リリアーナを見ている目からわかったのよ。あなたは今、王として使命を全うしようとする余り、周りに厳しいの。そんな視線で妹を見るもんじゃないわ」
「すまん。そんなつもりはなかっただが、気が急いていたか」
 ふっとうつむくレオポルトにリリアーナが声をかける。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。リリアーナに甘い甘いおにいちゃんだよ。今更、厳しくしつけられてもなんともないから」
「リリアーナ」
 唯一の肉親として気を配っていたのにいつしか忘れていた自分がつらかった。あれほど大事な妹だったのに浮かれていた。レオポルトはなんだか泣きたくなる。
「あとで泣かせてあげるから、前を向いて馬を進ませて。落馬するわよ」
「あ」
 慌てて手綱をしっかりとる。
「困ったお兄ちゃんねぇ。妹の事となると途端に弱くなるんだから」
「レオにはリリアーナ様は特別だからなぁ」
 黙ってやりとりを聞いていたニコが言う。
「お前、俺だけ呼びつけてリリアーナには様付きか?」
「八つ当たりしない」
「うっ」
 ユレーネとのやりとりにリリアーナが笑い声を上げる。健全な少女の笑い声が場を明るくする。
「レオ、でいいと言ったのはお前だが?」
「わかってるよ。お前から今更、王やら様やらつけられたら気味が悪い。俺はそんなにすごい人間ではない。ただの男だ」
「女の子の間違いじゃないの? 女々しくいじけてるんだから」
「ユレーネ! 降ろすぞ!」
「じゃ、ニコかローレライに乗せてもらうわよ。私一人でも乗れるのに馬をケチったあなたの采配が悪いのよ」
「妻をほったらかしにできるか」
 ノロケなのか痴話げんかなのかわからない会話が続き、リリアーナはけたけた笑う。
「お兄ちゃん。お姉ちゃんのお尻に敷かれてるわね」
「それのどこが悪い! 亭主元気で留守がいい、だ」
「それ、どういう意味?」
 ローレライもニコもユレーネとリリアーナもレオポルトを見る。
「亭主は妻の掌で転がされている方がいいんだ」
「自分から転がされている方がいいって言う人初めて見たわ」
「ユレーネ! 本当にローレライと乗るか?」
 機嫌を悪くしたレオポルトにユレーネはぎゅっと抱きつく。
「あなたと一緒じゃなきゃ嫌よ」
 ユレーネの言葉に気分を良くする都合の良いシャリスタンの王である。
「あーあ。私にも恋人できないかなー」
 夢見る乙女にレオポルトは宣言する。
「リリアーナは嫁に出さん!」
「まぁ。また、お兄ちゃん愛が炸裂ね。王様」
 ローレライも一緒になってからかう。
「ええい。急ぐぞ」
 手綱を取って馬を走らせるレオポルトである。慌ててローレライとニコが動く。
「不機嫌な王も困ったな。ノロケられるのも困るが」
 ニコとローレライが言葉を交わしながら追いつく。いつしかレオポルトは馬を早足にさせていた。
「南の古代遺跡に向かうまでにゼフィリス殿と合流するぞ」
「って。レオ。顔を知ってるのか?」
「いや。シルフィが反応する」
「シルフィが?」
 リリアーナが掌にシルフィを出す。
「シルフィは風の精だ。ゼフィリス殿も風の国の王。共鳴するはずだ」
 極論だが、それに賭けるしかなかった。何しろレオポルトは顔を知らないのだから。応対していたのはカールである。
 馬を走らせていると嵐に巻き込まれる。
「ユレーネ。しっかり捕まってろ。ニコ、雨宿りするぞ」
「おう!」
 一行はこの先にある洞窟を目指して馬を走らせた。


あとがき
ようやく旅に出てくれた。ほっと一安心も風の王といつ出会うの? です。読み進めればわかるんですが。なぜか今回はちんたらしてます。そして今日も足が痛い。休むべきなのか? 一日安静が良いのだろうか。悩んでいる内でも時間は過ぎていく。遅れていくのでもいいのだろうか。歩けないのが困る。平面移動はまだしも。階段が。まだ、薬は効かない。母に相談か。行けと言われそうだけど。

ここまで読んで下さってありがとうございました。
明日を待っててください。

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