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【ギャグ小説】太鼓の達人の顔面が水槽に浮かんでいる

何故だ。
何故、金魚を泳がせている水槽に、太鼓の達人で叩く時に流れてくる赤い顔面が一つ浮かんでいるんだ。
帰宅してしばらくは気付かなかった。
ただ、餌をやろうと水槽を眺めた時に、その、太鼓の達人の赤い顔面は、あのニッコリ笑顔で、ぷかぷかと浮いていた。球体で。
そうか、あれは、平面じゃなくて、球体だったのか。
そんな事はどうだっていい。
俺は、とりあえず太鼓の達人の赤い顔面を拾おうと、手を水の中に入れて掴んだ。だが、電流が流れた。半分気を失いかけた。
拾えずにまだ顔は水の中だが、俺が握ったことにより、太鼓の達人のあのニッコリ顔が、少し歪んだ。
顔が崩れ、ぐにゃっとした顔になった。
なんなんだコイツは。
割り箸で掴んで外に出して踏ん付けて殺そう。ぐちゃあと割れて、中から黄身と白身が出るかもしれない。
それが、本当に、その通りだった。

箸で外に出し、太鼓の達人の赤い顔を踏んだら中から黄身が出てきた。
試しに、フライパンで焼いて、醤油をかけて食べたら、美味しかった。

しかし、その日以降、俺のお腹目掛けて、多くの人が殴り出すようになった。
電車に乗る。席に人はまばらに座っている。俺は隣に人がいない隅に座る。
すると、向かいの正面に座ってる男がやってきて、俺のお腹を急に殴り出した。
「やめろおっ!なにすんだぁっ!」
男は血眼に殴ってくる。それも、リズム良く。
連打をしたと思えば、両手で三連発殴る。しばらく殴るのを止めてから、また、連打をしてくる。
他の乗客は、みな、見てみぬふりをしている。

高円寺駅に止まり、外から女が一人入ってきた。
その女は、俺を殴る男の後ろに並んだ。
男は、最後に両手で五連発殴ったら、窓の外を眺め、悔しそうな顔をして、元の席に戻った。
そして、並んでいた女は、俺の服をめくり、ヘソにイヤフォンの先端をブッ刺し、血が出ながらも、両耳にイヤフォンを付け、顎でリズムを取りながら、俺のお腹を殴り出した。

痛い。痛すぎる。しかし、俺は気付いていた。
俺の顔は、最初の男に殴られていた時からずっと、頬を赤く染まらせ、笑顔だという事に。

もし、頬が真っ青な方の太鼓の達人の顔を踏ん付けて食べてたら、心配されて、誰かが駅員を呼んだかもしれない。いや、そういう事じゃないか。

イヤフォンの先が、俺のヘソから外れたのだろう。
俺は大声で「夏祭り」を歌っていた。
さっきは消音モードになっていたのだろう。
電車内で、俺はありったけの声で、お腹を殴られながら、夏祭りを歌った。

歌い切り、俺が「成績発表〜」と言うと、女は窓の外を見上げた。
また、悔しそうな顔をしていた。
「また遊んでドン」
俺がそう言うと、女は俺の頬にキスをしてきた。
俺は、目をギンギンに開けて、次の人が来るのを待った。
終点の東京駅に着く頃には、隣に座る真っ青な男性と手を繋ぎながら、これ以上無い至福な顔で、この世界にただプカプカと浮かぶ存在になっていた。



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