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(ドレビュー読書板)“Exit West” -Mohsin Hamid 著

•あらすじ

とある国のとある都市でいつもと変わらない日常を送っていた信心深い青年、サイード。そして親元から離れ、自由を愛する女性、ナディア。

ある日、武装集団が彼らの住んでいた街を襲い内戦が勃発。2人は惹かれあっていく中、サイードの母親が殺害される。

身の危険を感じた2人は、安全な地と繋がる「扉」を通り、旅を始めるのであった。

•政治性とファンタジーを融合

読み始めると、この「とある街」がイスラム教の国のある街であることが分かる。

そこからも、この話がシリア紛争を題材にし、国を追われる人々をテーマにしていることは間違いないであろう。

武装勢力も過激派組織「イスラム国」をイメージして、であろうか。

“Exit West”がただの紛争をテーマにしている小説に収まらない点は、彼らが安全な他国に移動する際、不思議な「扉」を使用している点にある。

これは2015、16年に大きく報じられた、難民がボロボロの船に乗り、ヨーロッパを目指した壮絶な航海といった「移動」を省略する効果がある。

これはこの難民の「旅」をサイードとナディアのケースにのみ一概化せず、抽象的に留めておくことにより、読者の想像力に頼ることになる表現と言える。

最初に到着したギリシャのミュコス島。
そしてその後に「飛んだ」ロンドン。
最後はカリフォルニアで話が終わる。

- ギリシャではいっぱいになった収容施設での生活が描かれている。

- ロンドンでは難民たちが区画を占拠し、「ダーク・ロンドン」と呼ばれるゲットーを形成する。これは後に住民との摩擦を生む。

- そして最後は安住の地、カリフォルニアに到着し新たな生活が始まる。

「難民危機」において、難民たちが体験する(であろう)様々なフェーズが全て網羅されている。

この本ではまた、度々全く話に関係のない人々も話の合間合間に登場する。

彼らは、「日常の裏にある紛争」という、私たちに欠如している感覚を思い出させる。

さらにさらに(本当にたくさんカバーすることがある...)ナディアが同性愛者であることも物語の最後には分かる。

「扉」というファンタジー性がありながら、極めて政治性の高い小説であることがこれらから分かるのだ。

・「複雑」な問題をそのままに

この話のテーマ、さらに特徴付けている要素が上記のようにたくさんあることからも分かるように、読みにくい本であることは確かだ。

事前にある程度「難民危機」に関する知識がなければすぐに様々な事実、早い展開について行けなくなるであろう。

ただこれは同時に、「難民危機」と呼ばれる私たちの日常の裏側で起こっていることをそのまま特徴付けてもいる。

そう、この問題は「複雑」なのだ。
この中にはたくさんの、そして様々なアクターがいるのだ。

だから簡単に解決策を見つけることはできない。

“Exit West“は、そのことを間違いなく私たちに訴えている。

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