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「貪り、食う。」短編小説

情報が脳内を駆け巡り、頭をギュッツと締め付けてグルグルグルグルめまいがするかのように渦巻いている。数百万個の情報が目が回るように大量に押し寄せて脳の機能が停止する。「もう、何も考えられない。」「寝よう、、、。」睡眠薬を飲んで布団に潜り込む。電気の光が目をチカチカさせる。腕を目元において眩しさを紛らわし眠気が来るのを待った。そして、頭の志向が徐々に低下していくのを感じながら電気を消して暗闇の中そっと目を閉じて眠りに入った。


頭の中がすっきりとして、真っ白になっていた。「ああ、また今日が来た。」昨日のことをもう何も覚えていない。目まぐるしかった昨日のことが寝てる間に片付けられた。私は毎日同じことを繰り返している。情報量が増えて脳の機能が低下したら眠りに落ちて、朝になったら昨日のことは忘れている。今日のことは忘れてしまわないように手帳に事細かに書き込んでいる。どこに出かけたか。何を購入したか。何をしたか。書いておかないと全部記憶から消されてしまうのだ。私の記憶を貪り、食う。悪魔。それは、持続性気分障害という精神障害の呪いだ。

障害者手帳3級、障害者年金2級。仕事はできなくなり、生活保護。毎日をボーっとアニメを見て、漫画を読み、本を好んで暮らしている。ニュースは動画を見ているが好きなのしか見ていない。ご飯には興味がなく冷凍のピラフとチャーハンをお皿に移し電子レンジでチンしている。それをスプーンで無心に食べる。腹4分目くらい。最低限のエネルギーが得られればそれでいい。お腹がすいたらそれを食べる。そしてたまに卵かけご飯を食べる。そんなくだらない毎日を過ごしている。

月に入るお金は12万7千円。それで少しばかりの貯金をして暮らせるくらいで生活している。私が病気なことと生活保護のことは誰にも言わないようにしていて、仕事をしているとはぐらかしている。そう、私は健常者のふりをして生きているのだ。人間関係は最低限。病院の先生と以前働いていたお店の仲間のみ。最小限の暮らしが私の生き方だ。

体調が良くなったり不安感が増したりする日もあれば、半日をボーっとして過ごすこともあったが特に何があるでもない日々の暮らし。ただ、ただ漠然と生きている。そこに感情はあるのだろうかと感じる日もある。

楽しい、幸せ、嬉しいなどの感情が乏しく、不安、怖い、辛い、生きているのに疲れた。そんな思いが夕方から夜にかけて強まる。そう、生きる意味が分からない。なぜ、生きていなくてはいけないのか。そればかりが頭をよぎってしまう。だってもう、さんざん努力して人の罵声に耐えて、へらへら笑ってポジティブなふりして生きてきた。もちろん、自分のやりたいこともしてきた。限りあるお金で、なるべく安い方法で旅行に行ったり、高級レストランで食事をしてみたり、パーティーに行ったり、ライブに行ったこともあったっけ。芸能人を間近で拝見したことも結構ある。ファッションショーにもよく行ったな。行きたいこと、やりたいこと、非現実的な世界に足を踏み入れること。いろんな経験をしてきた。

だから、もうやりたいことはない。今、まさにこの瞬間に地震が起きて死んでも後悔することはないだろう。

昔のトラウマの記憶ばかりが残って、夢で攻撃されてはうるさい!と叫んで壁を蹴っては目が覚める。うなされる事が度々あるのに、最近の記憶は全然思い出せない。なぜだろう。そう思っていた。

ある日、自分が統合失調症のグレーゾーンだと知る機会があり、その症状の一つに記憶が無くなることやおぼろげにあることがあることが分かった。ああ、高校生の時にストーカー被害にあいひそひそ、クスクス笑い声や話し声が聞こえるようになり実際に私のことを言っている、つまりは後を付けているときがあったのだが、そうでないときにも幻聴が聞こえてきて毎日ストーカーに怯えるようになったっけ。いないか分からないから多分幻聴だろうと思ったときに、友達と待ち合わせしたとき「誰か付けて来てる」と言われたときは、幻聴じゃなかったと分かり恐怖におびえたが、友達の家に泊まる日だったので次の朝にはいなかった、、、と思う。

親は病院代を払ってくれるどころか、病院に連れて行こうともしないので高校生のお金では通院はできず、2回通っただけで行くのを止めていた。

親はいつも私を見て見ぬふりをした。救急車で運ばれそうになったら「神経質なだけだから連れて行かなくていい」というような親で、会社で傷病手当金が必要なら診断書が必要と言われれば、私に向かって「こんなこと言われたわよ!どうするのよ!」とヒステリックに言うだけで病院を探すことすらしないどころか精神衰弱している私に罵声を浴びせてくる。

あー、実家は疲れる。うるさい。一人暮らしの家に帰ろう。

弱っているときすらも助けもしない親に反吐が出て、嫌味を言われる前にこっそりと実家を出て家に帰った。その日の18時にメールが来た。「どこにいる?」と。は?やっと気づいたのかよ。今更遅いんだよ。ぬぐえない怒りが押し寄せてくる。こんな奴ら親じゃない。あれらはゴミだ。消えてしまえ。

家に帰って、近くの精神科に行って会社のパワハラで病気になったと診断書に書いてもらった。そう、そんなこともあったけ。

その時はうつ病と診断された。でも、数年経っても治らず近所からの嫌がらせもあり引っ越しをして新しい病院で持続性気分障害と診断された。それが今の私だ。

それが最近、統合失調症のグレーゾーンだと言われて納得ができた。私の記憶を貪り、食うなら昔の忌々しい記憶を消してくれ。なんで残酷な記憶は消えないんだ!

あー、生きてるの疲れた。

死にたいわけじゃない。

でも、人間てなんでこんなに寿命が長いんだろう。

中学生の時は、20才になるまでに死ぬと思ってた。

でも、なんだかんだで生きてしまった。

次は、40才になるまでには死ぬだろうなんて思ってた。

でも、もう疲れた。

ネットで検索する。『記憶を消す 薬』

それっぽいのが出てくるが、医学的にはまだ実在しないようだ。

ああ、私の全ての記憶を消してくれ!

そして、夜になって薬を飲んで今日の出来事が記憶から消された。

私はまだ、生きている。

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