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フィクション集

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葵の小説です。長いのも短いのもあります。
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記事一覧

【小説】文明大火 #ネムキリスペクト

 そこは世界のすべてだった。王子の証である海水晶の嵌まった金の腕輪を光らせて、彼は世界の…

葵
2か月前
17

【2000字ノンセンス小劇場】君たち文化祭でバンドやるんだよね

「そうなんすよー。クラスにめっちゃ音楽詳しい奴がいて、いろいろ教えてくれるんすよ。そいつ…

葵
2か月前
19

今日だけを歩いてきた君が #シロクマ文芸部

 青写真、とか。見たことなかったな。  どうとでもとれる感想を、君の唇が零す。  こんなに…

葵
3か月前
31

天使の去ったあと【ネムキリスペクト】

 まぶたの裏にほのかな明かりがともった。胸の上をすんなりと覆う静かな布団の匂いが鼻腔に漂…

葵
4か月前
23

戦場で、素直じゃない君と #シロクマ文芸部

「誕生日に欲しいのはあなただけ」  節をつけて言うと変顔された。 「なにその顔」 「あてて…

葵
6か月前
29

【ネムキリスペクト】絵のなかで恋をしている

 ふとこんな想像に囚われることがある。  私は写真のように精緻な絵を見ている。絵を眺める…

葵
6か月前
35

【ピリカ文庫】みんなすやすや眠る頃

 痛い。苦しい。辛い。悲しい。  真美は玄関で靴も脱がずに倒れ伏した。スーパーのレジ袋から缶ビールが数本転がり出る。自然と喉からあーと声が漏れる。冷たい床にべったり頬を押し付けたまま、指の血で和歌でも書きつけようかしら、と頭が喋る。  そのときどこかから音楽が聞こえてきた。これは何だっけ、ああほら、ドヴォルザークよ。どうしてこんな夜中に。題は何て言うんだっけ。思い出そうと顔をしかめると、頭がずきずきと痛む。  廊下をごろごろ転がったビール缶が、フローリングの中に溶けだしていっ

メランコリー・ノスタルジー・ファンタジー #シロクマ文芸部

 文化祭の後片付けで夜八時まで学校にいた。  昼の底が朱く吹き抜けた。朱の上が黒冷えした…

葵
8か月前
32

雲のいづこに #シロクマ文芸部

 ただ歩く。しっとりと重い空気を鼻先に、傘は頭上でぱちぱちと拍手する。こいつだけは暢気な…

葵
9か月前
30

自動的に消滅する、を飲むと #ネムキリスペクト

 誰にでも、消し去りたい過去はある。太宰でなくても、振り返れば恥の多い生涯を送ってきまし…

葵
11か月前
32

太陽のへその緒 #春ピリカ応募

 黄色い絵の具を塗り込めたような冷たい表面に指を押し当てると、確かな手応えと共に明るい香…

葵
1年前
91

INHALE #シロクマ文芸部

透明な手紙の香り。それは朝の匂い。やや甘くて、すううっと光っている、冷えた風の香り。 朝…

葵
1年前
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光ったね #シロクマ文芸部

手渡されたのは光る種。たくさん。 猫の眼みたいに金色で、グリンピースくらいの大きさで、掌…

葵
1年前
48

卵サンドの君 #ネムキリスペクト

 がっくん。ぐぐぐぐぐ、ぷしゅー。 「お待たせいたしました。行先番号、2番、終点です」  2番、のところだけ後から継ぎ足したようなアナウンスがあって、スーツや制服姿の人々が駅へと流れ出していく。私はシートに張り付いたまま、うへっと息を吐く。バスの中にも雨がべたべたと滴っているみたいだ。乗客が全部出て行ってから、私はのろのろと立ち上がり、びしょびしょの傘と重い鞄を持って、駅のロータリーに降り立った。  やっと確かな地面を踏んだ足は、がくがく震えていて、空っぽの胃袋はバスの余震に