作文風エッセイ | 『橋』のつく先輩 | 青ブラ文学部
名前に「橋」のつく先輩がいました。美容サロンで働いていた時の先輩です。
その先輩はとてもとても几帳面で、毎日綺麗にアイロンのかかったシャツに、短めの髪。緻密な計算の元に形作られた、『無精髭に見えるオシャレ髭』を生やしていました。
先輩は、テキトーな人間が嫌いでした。
職場の上司で、合わない人がありました。
その上司と険悪な雰囲気のまま、先輩は辞めることになったのです。
しかし、辞めると決まってからも1ヶ月半程は、お客様の引き継ぎや、元々入っている指名の仕事があるため、働かなくてはなりません。
そのため、先輩の最後の1ヶ月は店の全員がピリつく状態で過ごしました。
もちろん、本人は一番イラついていて、誰よりもストレスを感じていたと思います。
そんな先輩の最後の出社日の、本当に最後の時間、可愛い女の子が会いに来てくれました。まだ5つくらいの子です。
その子が来てくれたことに気を良くした先輩は、床に膝をついて、女の子に目線を合わせて最後のお喋りを(一方的に)楽しんでいました。
女の子はぼーっとした顔で先輩の顔を見ていましたが、先輩の話が途切れたタイミング
で「息、くさい」と言いました。
多分、ストレスで先輩の胃は相当に荒れていたのでしょう。毎晩深酒もしていたかもしれません。
私はフロアの鏡を拭いている最中でした。
鏡越しに先輩の固まった顔が見えました。
見てしまったその顔の記憶をかき消すように、私はひたすらに鏡を磨きました。
臭いはつらい
臭いはひどい
でも
臭いは臭い……。
その後、先輩は、地元京都に美容室をオープンさせました。私は京都旅行の途中で、一度だけ先輩に会いに行きました。
大して仲良くもなかった私たち。なぜ会いに行ったのかわからないのですが、ちょうど先輩のお母様がパーマをかけにいらしているところで、一緒に行った友人と4人で和やかな時間を過ごしました。
先輩の息は臭くありませんでした。
先輩は幸せそうでした。
山根さんの企画を見て、名前に『橋』のつく先輩のことを思い出しました。
企画で募集されているのはこういうこと(内容)ではないとは思いましたが、書かずにいられませんでした。
記事を書くきっかけをいただきました。
ありがとうございます°・*:.。.☆
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