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後輩書記とセンパイ会計、不退の架橋に挑む

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二度目はない
―丹沢水系夜話―

二度目はない ―丹沢水系夜話―

 川にも天狗がいる。
 大水が出ると、川天狗が出るという。

 八月の日もまだ浅い丹沢山麓に、梅雨が明けたのも忘れたか、おてんと様からどっさり雨が降った。雨は二日も続いた。
 道志川沿いの帰り道、薄闇の森にそぼ降る雨の中、泥まみれの古ぼけた車が一台ガタガタと音を立て走っていく。斜めに立てた虫取り網と空っぽの虫籠が細かく震え、ぶつかり合っている。
 高志はむっすりと渋い面を窓に載せ、小さな鼻の先に、

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後輩書記とセンパイ会計、
救済の豪弓に挑む

後輩書記とセンパイ会計、 救済の豪弓に挑む

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば天然痘で片目を失明した伊達正宗の看病に当たる人にだってなれただろう。ふみちゃんは小学生時代、古代の日本で伝染病がどう伝承されたかを緻密に調べ、「こどもの健康習慣」の小論文コンクールに提出するほどの上級者だったらしい。ふみちゃんによれば、非常に恐れられたのはウイルス性の天然痘で、強い伝染性を持ち、不治・悪魔の病いとされ、ようやく昭和

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後輩書記とセンパイ会計、
不退の架橋に挑む

後輩書記とセンパイ会計、 不退の架橋に挑む

 開架中学二年、生徒会所属、頭がいい会計の数井先輩は、いつか絶対に割れない眼鏡を開発する技術者になっていると思います。数井先輩は小学生時代、国内の眼鏡生産量日本一が富山県の鯖江市であることを知っているほどの上級者だったそうです。図書館の書物によれば、鯖江の眼鏡産業は、明治の終わり頃に増永五左衛門という人が農閑期の副業として、少ない初期投資で収入が得られる眼鏡の枠作りに着目し、東京や大阪から職人を招

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後輩書記とセンパイ会計、
墨絵の雨情に挑む

後輩書記とセンパイ会計、 墨絵の雨情に挑む

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば日本の水墨画の祖である高僧、如拙の説法に顔を連ねる人にだってなれただろう。ふみちゃんは小学生時代、校内写生大会で、愛用の毛筆一本で見事な水墨画を描き、県のコンクールに学校代表で出品され、有名な水彩画家の審査員から特別賞をもらうほどの上級者だったらしい。
 ふみちゃんの話によれば、水墨画は鎌倉時代に禅とともに日本に伝わったものと言わ

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後輩書記とセンパイ会計、
長老失格に挑む

後輩書記とセンパイ会計、 長老失格に挑む



 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば文豪・太宰治が惚れ込むような喫茶店の女給にだってなれ――いや、それはダメだ。ダメだったらダメだ。人間失格で川に心中なんて僕が絶対に許さない。
 気を取り直して。
 純心なる書記のふみちゃんは小学生時代、電気を大切にしようという作文コンクールでエネルギー庁長官賞をもらうほどの上級者だったらしい。ただのエコがテーマでどんな作文を書

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後輩書記とセンパイ会計、異郷の槍術に挑む

後輩書記とセンパイ会計、異郷の槍術に挑む

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば日本三名橋の一つに数えられる山口県岩国市の『錦帯橋(きんたいきょう)』の木造部設計者、児玉九郎右衛門の片腕にだってなれただろう。ふみちゃんは小学生時代、割り箸の寄せ木細工で法隆寺を大中小
「数井、違うぞ。橋の設計は理系の領域だ」
「えっ?」
 水を差したのは生徒会長の屋城世界さんだった。
 そんな数学が得意な理屈屋の僕は、生徒会所

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