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愛の礫ALIVE2

❁⃘ 31 *̩̩̩̥*

まぶしい夏の光は
どこへ行ってしまっただろう
あんなにも激しく愛しあい
あんなにも固く
結びあっていたはずなのに
降りつづいた雨の果てには
だれもいない
いまは
たったひとつ
テニスボールだけが置き去られていて


❁⃘ 32 *̩̩̩̥*

いつかきっと
そんな言葉が
口をつくけれど
それがいつのことなのか
約束できるわけなどなく
ただ
たしかなことは
遠ざかる背中が
まぶしくてしかたないこと
こんなにも痛いのは
握りしめた手のひらだろうか
それとも


❁⃘ 33 *̩̩̩̥*

陽ざかりの坂道を
ひとり降りていく背中に
思い出たちが降りしきる
遠ざかる時間を
埋めつくそうとでもいうように
たえまなく
あとからあとから降りしきる
言いよどんださようならなど
かき消されてしまうほどに


❁⃘ 34 *̩̩̩̥*

曇ったガラスに
指はサヨナラを書いているのに
唇が
ごめんなさい
のかたちをしている
午前零時のプラットホーム
快速が置き去った夜に
すべてが溶けて
なにも見えない
終わりを告げるように
遠く
踏切の鐘が聞こえる


❁⃘ 35 *̩̩̩̥*

あなたのくれた致死量の愛を
ひと息に飲みほして
あとは静かに目をつむる
あてどない潮の満ち干と
高鳴る鼓動が重なったら
きっとあなたとひとつになれる
ひかりもおともすべてが消えて
なにかはじける予感がする


❁⃘ 36 *̩̩̩̥*

まぶしい陽のなかで
すべてに影があるように
どんなよろこびにも
一粒の涙がとけている
いのちがいのちを養いとして
はじめて輝けるのならば
ぬくもりを抱きしめながら
私も誰かの光のための
ちいさなかなしみになりたい


❁⃘ 37 *̩̩̩̥*

ちいさな陽だまりをひとつ盗んで
あなたのポケットに忍ばせておくから
そっと取りだしてみるといい
ふいにたちすくみ
わけもなく涙があふれでるときに
だれにおやすみを言うこともなく
ひとりきりで眠りにつくときに


❁⃘ 38 *̩̩̩̥*

なぜ
と問いかけても
誰も答えてくれないなら
私自身が問いになるほかない
よろこびもくるしみも
せつなさもときめきも
すべてを受けとめ
すべてのなぜに向きあうとき
涙の奥に光る美しさを
見つけられるかもしれない


❁⃘ 39 *̩̩̩̥*

生まれてきたことだけで
かけがえのない奇蹟なら
出会えたことは
たとえようもなくまぶしい
祈ることしかできないけれど
あなたのまっすぐなまなざしが
世界を覆うたくさんの悲劇の
ひとつになってしまいませんように


❁⃘ 40 *̩̩̩̥*

忘れものをしたはずなのに
何だったのか思いだせない
そんなせつない夏休みの記憶が
ふいによみがえることがある
大切なものから先に
捨てられてしまっても
ただ見送ることしかできない
あまりにも美しい夕暮れに


❁⃘ 41 *̩̩̩̥*

夕暮れのあとの白い月は
さようならの結晶でできている
だからあんなにも綺麗に
あんなにも冷たく輝くのだろう
恋人に
あこがれに
絶望にさようなら
そう告げることで初めて
安らかな眠りにつけるのかもしれない


❁⃘ 42 *̩̩̩̥*

ひとはひとつの遠さではないか
激しい夕暮れ
取り返しのつかないことを
したかのように消えていく青が
空の高みにちいさな風を置き去りにする
そんなときは祈るように
手のひらを胸に置き
あなたのことを思い浮かべる


❁⃘ 43 *̩̩̩̥*

泣きながら帰ったあの日
むせるほどのキンモクセイを
はっきりと覚えている
なにがあったのか
なぜなのか
涙のわけはとうに忘れた
けれど
痛いほど打ちつけた
あつい鼓動だけは
いまも
たしかに
胸の奥に刻まれている


❁⃘ 44 *̩̩̩̥*

遠いあやまちを
だれも罰してくれないので
手首の傷といっしょに
ちいさな硝子瓶につめて
長い坂の果てにある海へ
思いきりほうり投げる
水平線の真上で
光って消えたけれど
今夜の一番星はきっと
私の罪にちがいない


❁⃘ 45 *̩̩̩̥*

朝がこれほど光に満ちていたのを
忘れていたわけではないけれど
時刻表や新聞のせいにして
見えないふりをしていたかもしれない
指をひろげて腕をかかげ
木洩れ陽をつかもうとするとき
あたたかなほほえみがよみがえる


❁⃘ 46 *̩̩̩̥*

どこかにいつも朝があるように
どこかにいつも夜がある
愛も憎しみも生も死も
ほんとうは
ひとつの姿なのかもしれない
あなたの微笑みに隠された
ちいさなひとつぶの涙について
それでも私は
うまく語ることができない


❁⃘ 47 *̩̩̩̥*

おびただしい金の十字架を
人知れず高くかかげ
ちいさな祈りを捧げている
金木犀の華やかな香りが
降りしきる夕暮れ
手のひらを見つめてみる
生まれてきたとき
握りしめていた約束を
果たすことができただろうかと


❁⃘ 48 *̩̩̩̥*

ふとしたはずみで
途中下車することがあるように
降りるはずの駅なのに
乗り過ごしたくなることもある
たとえどれほど道から外れても
いつでもそこはどこかの途中で
眼を閉じて耳をすませば
きっと優しい歌が聞こえる


❁⃘ 49 *̩̩̩̥*

月のしずくを盗んで帰って
ふっと一息ふきかける
みっつ数えるあいだに
炎を灯すことができたなら
ほんのつかのま
魂がよみがえるという
めざめると
暗闇のなかのちいさな光から
吐息のように
あなたの呼ぶ声がする


❁⃘ 50 *̩̩̩̥*

まばたきをしている間に
世界が終わってしまう気がして
眼を閉じることができない
抱きしめているのに
あなたが溶けてしまうようで
胸の鼓動が止まらない
明るい秋の陽ざしを浴びて
いま
あなたのまなざしが揺れている


❁⃘ 51 *̩̩̩̥*

指を伸ばした先に触れるものが
朝の光だけだったとしても
そこに生まれたちいさなぬくもりを
いとおしいと抱きしめたい
なにげない仕草に
しあわせがひそむように
優しいおはようを
目覚めたばかりのあなたに告げたい


❁⃘ 52 *̩̩̩̥*

記憶が打ち寄せる浜辺で
あなたのかけらを拾う
虹色に光る貝殻を
耳にあてると聞こえるのは
あなたの歌声
こんなに懐かしいのに
なんの歌か思いだせない
握りしめた掌のなかで
メロディだけが
いつまでも繰り返される


❁⃘ 53 *̩̩̩̥*

夢から覚める夢をみた朝は
遠くにきまって海鳴りが聞こえる
午後には嵐になるだろう
もしも許されるのなら
空から星をひとつ盗んできて
瞳の奥に沈めておきたい
どんな闇におそわれても
光を見失わなくてすむように


❁⃘ 54 *̩̩̩̥*

今日の答えが
風に吹かれながら
謎のかたちのまま
立ち去りあぐねている
夕暮れ
左手に残った
あなたのぬくもりが
ゆっくり消えていく
蝉は
とうに死んでしまったのに
脱ぎ捨てられた
抜け殻だけが
いつまでもかなしい


❁⃘ 55 *̩̩̩̥*

いろやかたちやおとやにおいに
あなたのすべてを還元し
私の細胞のひとつひとつが
あざやかに記憶している
からだのなかを
あなたの気配が駆けめぐり
いつもまなざしを感じられる
そうしてきっと
いつかひとつになれる


❁⃘ 56 *̩̩̩̥*

知らないあいだに
影を盗まれてしまったので
あかるい陽のなかを
歩くことができない
夜になれば
闇ばかり選んで
こっそり出かけられる
それよりも
いっそ影になってしまえば
つめたい月の光を
浴びることもできるのに


❁⃘ 57 *̩̩̩̥*

陽だまりをぎゅっとしぼって
手のひらに落ちた蜜柑色のしずくを
ひといきに飲みほしたら
やさしい香りを放つ
あかるい粒々に
なれる気がする
見あげると
あまりにも空がまぶしいから
ぎゅっと
もっとぎゅっとしぼって


❁⃘ 58 *̩̩̩̥*

ちいさな嘘をついたら
あなたがかなしい顔をした
おおきな嘘に
みんながそうだとうなずく
嘘に嘘をかさねたら
自分がだれなのかわからない
嘘つきにはなりたくないけれど
きっといつも
嘘が悪いばかりではないけれど


❁⃘ 59 *̩̩̩̥*

目をこらさなければ
見えないものもあるように
まぶたを閉じることで
はじめて気づけるものがある
見えているつもりで
ほんとうはなにも見ていなかったと
ひとり立ちどまり
頬にあたる風のあざやかさに
驚いている午後


❁⃘ 60 *̩̩̩̥*

声にならないことばを
からだいっぱい詰めこんで
真夜中の底に横たわり
星々を繋いで
新しい星座を作った
あのときのあの場所へ
もういちど
取りに帰ろう
言えなかったことばを
忘れられないことばを
大声で叫ぶために


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あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。光と戯れる言葉のきらめきがあふれますように。