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【連載小説】雨がくれた時間 11.晴れていく迷い

前回の話はこちら 第10章『意外な素顔』
始めの話はこちら 第1章『思わぬ雨』

      11 晴れていく迷い

「気は済んだか?」
 ようやく笑いがおさまり息を整えている私へ、澤村がそう問いかける。
「うん。済んだ」
 自分でも驚くほど弾んだ声はいつもよりかなり高くなっていたが、彼は気にした様子もなく「なら、いい」と静かに言った。ついさっきまで、すねた子供のように膨らませていた頬には、いつもの柔らかい笑みが戻っている。
「見ろよ」
 彼はいきなりそう言って、すっかり雨雲が去った空へと向かって指をさす。
 そこには完璧な弧を描く、大きくて鮮やかな七色のアーチがあった。
「虹なんて見たの、何年ぶりかしら」
「ああ、俺も久しぶりだ」
 ゆっくり空を見上げることすら、長い間忘れていた。
「ここは空が広いな」
 後ろで組んだ手を軽く伸ばしながら、澤村が気持ち良さそうにつぶやく。

「たしかに……同じ空なのに不思議ね」
「高い建物もないし、家も密集してるわけじゃないからそう見えるんだろうな」
 雲の切れ間からのぞく青空でさえ、私や澤村が暮らす街の空よりもずっと広くて、のびのびしているように見える。
「雨もそんなに悪くないかも。こんな綺麗な青空と虹が見られるのなら」
「びしょ濡れになった甲斐があったな」
「それは、また別の話だから」
 私たち二人のほかには誰もいないホームに、澤村の笑い声が響き渡る。
 耳に馴染んだその朗らかな声が、いつにも増して私の気分を明るくしてくれる。
 ――ああ、やっぱり好きだわ。澤村のこと。
 これまでの迷いが嘘のように、彼への気持ちをすんなりと受け入れている自分がいた。

『諦めましたよ どう諦めた 諦めきれぬと 諦めた』
 そんな切ない恋心を洒落っ気たっぷりに歌った古い詩が頭をよぎる。
 どんなに時代が移りゆくとも、人の心や悩みなんてそう変わらないということなのだろう。
 ――いろいろ思いつめすぎてたのかな、私。
 澤村への想いに今まで深く悩んできたことが、急に馬鹿らしくなってくる。
 ――なるようにしかならないんだから悩んだって仕方がないのに。これじゃ、まるで悲劇のヒロイン気取りじゃない。
 そう自嘲しつつ空を見上げると、鮮やかな虹が優しく微笑んでいるように見えた。


(続)



第12章『告白』はこちら





Twitterの診断メーカー『あなたに書いてほしい物語3』
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#書き出しと終わり  から

「雨が降っていた」ではじまり 、「私にも秘密くらいある」がどこかに入って、「あなたは幸せでしたか」で終わる物語を書いてほしいです。

というお題より。

もしかしたら「あなたは幸せでしたか」では終われないかもしれない物語です。

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