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【創作】城跡にて【スナップショット】


何を考えているのですか? 旅の人
 
わからない
ただ自分の心が身体から離れて
呆然としているかのようです
私がここに来るまで
色々と想像はしていました
幻滅するのではないかとか
今はただ大きな石のある
丘に過ぎないとか
でもここに来て
大きく心揺さぶられている
自分がいます
 
それは、なぜ?
 
なぜだろう
もしよかったら
少し聞いてくれますか
 
ええ
 
私は自分のルーツを知りたくて
ずっと調べていた
私の家の家系図や
親類への聞き取り、
図書館で調べたりした
 
そのルーツは?
 
私の先祖は昔、農民だった
中世の話です
彼は一旗あげるため
この一帯を治める武将に仕えて
いくさに参加した
武将の軍は見事にいくさに勝って
私の先祖は褒美の土地を与えられた
うつくしい肥沃な大地を耕して
そこに根付いて繁栄した
今はもう一族も
ばらばらになってしまったけど
 
それ程長く続いたのですね
 
それで、一族のルーツになった
いくさの場所を訪ねて
私はここまで来た
ここが、私の先祖が
自分の運命を賭けて戦った場所だった
ここで戦功をあげて
この敵から奪ったお城で
殿様から褒美の土地をもらった
ここが私たちの始まりだった
 
今では岩と草木しかないけれど
 
ええ、でも私はこの場所に
不思議な力を感じているのです
分かりますか、私は農民の子なんだ
父は農民ではなかったし
今の私はただの会社員で
耕す農地も持っていない
でも私には農民の血が流れている
大地とじかに触れた記憶があって
確かに私の運命が
この大地にあったことを
血が感じるのです
初めて訪れた場所なのに
とても懐かしい
こんな風に感じたことは初めてです
私は夢を見ているのだろうか
 
いいえ
あなたの感じたことはきっと
あなたの中にある本物の感覚
なぜなら大地とは
鏡だから
 
鏡?
 
水が生命の力を生み出し
火が変化を生み出すとしたら
大地は鏡のように
あなたたちの感覚を映し出す
あなたたちが踏みしめ
食物を育て
死者たちを埋める
それらは全てあなたたちの
感情に直結している
だからあなたたち人間は
大地の中に血の記憶を反映し
愛おしい土地の記憶を持ち続ける
あなたたちの生命は
水によって力を得るけど
水の中で生きることはできない
大地こそが
あなたたちのルーツなのだから
 
この場所が
私がずっと探し求めていた
ものだったのですか?
 
そう
あなたたち人間は
いつも自分が生きた感覚を
宿した大地を探している
それが故郷と呼ばれるもの
それはあなた方自身の
根源を感じられる場所
実際にそこで生きていたかは
問題ではない
だから
自分の根源を見つけるまで
あなた自身を見つけるまで
あなたは長いこと旅をしてきた
そうでしょう? 旅の人
 
ええ、そうです
すみません、あなたは
一体どなたでしょう?
なぜ私のことを分かるのですか?
とても不思議だ
 
全然おかしなことではない
あなたたち人間は
いつでも旅をしているのだから
人間の感覚を宿した土地には
その感覚の鏡となる存在が根付く
それは精霊と呼ばれるもの
人を鏡に映した似せ絵
精霊は普段は見えないけれど
あなたたちは感じることができる
精霊の居場所に来た時
磁石のように惹かれ合って
あなたたちの中に
一つの感覚が入り込む
郷愁という感覚が
 
あなたは一体どこから来たのだろう
私の後ろに人はいなかったのに
 
気にしなくていい
ほら、霧が出てきた
この一帯は一度霧が立ち込めると
濃く深く辺りに浸透する
あなたの先祖もそのことを
良く知っていた
霧の中で頼りになるものは
精霊の声だけだということも
だから彼は運命を切り開いた
そしてあなたもここから
運命を変えていく
 
あなたの声を信じていいのですね
 
ええ、信じて
あなた自身を信じるように


 







(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。

※過去の「スナップショット」置き場



今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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