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【創作】駅で【スナップショット】

乗り換えまで時間があるかな

うん

この駅はホームの移動が大変だね
もう一つ階段を上らないと

ねえ

どうしたの?
 
もう少し手を繋いでいて
ここで

うん、わかった

話したいことがある
いい?

うん

昨日夢を見た
 
どんな夢?
 
夜の森
月が綺麗だった
川が流れてて
私たちは舟を漕いでた
2人乗りの小さな舟
ゆったりと流れて
いつの間にか
私たちは洞窟に入っていった
 
それから?

洞窟の中はひんやりしていた
私は寒くてたまらなかった
君が言った
戻ろう、魔物がくるよ、って

どんな魔物?

わからない
でも私はそれを聞いて納得した
そしたら君が急に倒れてきた

何があった?

わからない
君が倒れて
私に覆い被さってくる
死んでたの
死んだ君は重くて
私は身動きできない
二人の舟が洞窟の奥に流されていく
そこで目が覚めた
私は泣いていた

不思議な夢だ

誤解しないでね
君のことを嫌いなんじゃないよ

うん

初めて付き合えて
不安だからでもない
すごく嬉しくて
昨日も眼を閉じる時
うきうきしていた
だから不思議

僕も昨日夢を見た

どんな夢?

不思議だけど、僕も森にいた
昼間の曇った森の中
小さな泉があって
二頭の白い馬が
水を飲んでいた
そのそばの石に
黒いフードを被った
隠者みたいなお爺さんが
腰かけていた
そしたら急にお爺さんが
こっちに話しかけてきた
そなたは永遠に故郷に戻れない、って
そこで目が覚めた

不思議な夢

僕も付き合うのが初めてだから
何か不安に思っているわけじゃないよ

不思議だね、私たち

もしかしたら僕たち
同じ夢の中にいたのかもしれない
夢の中の僕が泉から歩いて
君に会いに行った後で
君が夢を見て
僕と一緒に洞窟に行ったのかも

そうしたら、私たち
二人とも死んでしまった

もしかしたら、君の夢の終わりは
僕の夢に繋がっているのかもしれない
二頭の白馬は生まれ変わった僕たちで
僕たちが洞窟に漕ぎ出すところを
見ていたのかもしれない

ふふ、ずっとループしていたのかも?

そうだよ
今の僕たちの目が覚めているなんて
誰も証明できないよ
僕たちは今でも夢を見ていて
夢の中で眠って
また夢を見るのかもしれない
何度も何度も
違う夢の中で
僕は君に会って
目覚めてその都度
記憶を失っているのかも
ごくたまに記憶が残って
夢を覚えているのかもしれないよ
どんな夢の中でも君と会うんだ

そうだったらいいな
不思議だった
夢の中なのに夢という気がしなかった
これから君と一緒なら
ずっと覚めない夢が続いていくのかな

そうかもしれない
昨日の夢を明日同じ場所で共有して
何度も繰り返し戻って
違う場所の
違う時間で
ずっと一緒にいるのかも

ずっとそれが楽しいものだったらいいな

楽しくしよう
二人で

そうだね
手を繋いでいて
夢の中でも迷わないように

うん
行こう、電車がくるよ






(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。


今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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