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【創作】神社にて【スナップショット】

夜も更けたようだ
お主は怖くないのか
人の子よ
 
大丈夫
赤い灯篭が闇の中に
浮かんでいるみたい
 
あれは神々の火だ
神々が燃えて夜に溶けていく
溶けてまた新たに生まれ変わる
 
神は一つじゃない?
 
お主が一つと思えば一つになる
沢山あると思えば沢山できる
 
人間次第ということ?
 
そうだ
もしお主の神を嫌う者がいるとしたら
それは、神ではなく
お主を嫌っているということだ
 
それであなたは私の前に現れた
なぜ?
 
私が答えることはできない
私も不思議に思っている
お主は何を見た
 
分からない
私は失恋して
ショックで道をさまよっていた
そうしたら、夜の奥から
私を呼ぶ声がした
全く怖くない、懐かしいような声
その声のする方に歩いて行ったら
この神社に来ていた
鳥居の近くに
狐がいると思ったら
あなたの姿になる
あなたは私の死んだ父さんに
とても似ている
 
神は人の子の眼には見えない
お主が見ている私の姿は
お主の願望や思念の反映に過ぎない
 
だからあなたを懐かしいと思う?
 
そうかもしれない
だが、神の火を人の子が見るということは
危険な状態だ
お主の肉体も心も
直に耐えられなくなる
 
あれは死後の世界?
 
人の子にとってはそうかもしれない
あの世と言われるものだ
肉体によって味わう生とは別の世界に
神々は属している
我らにとって、お主たちの生とは
鏡の中の像に過ぎない
もっとも、お主たちにとっては
我らの世界の方が
鏡の中に思えるのだろう
 
その世界は永遠?
 
お主たちが永遠と信じれば
それらは永遠になる
 
私は永遠を信じているのかは分からない
でも、あなたの懐かしさだけは分かる
私は別の場所をずっと求めていた
それは、今私がいる場所と違う
でも懐かしいどこかだと思っていた
私は好きな絵や詩や音楽を体験する度に
そんな場所を思い浮かべていた気がする
それはあなたがいる場所なのかもしれない
やっと今わかった
 
忘れることだ
お主は今から眠りに落ちる
この大地と夜に抱かれ
この場所と会話の記憶を失う
 
あなたを忘れたくない
ここもあなたも
どこか懐かしくて暖かい
こんな感じは今まで味わったことがない
この暖かさを忘れるのが怖い
 
忘れるのが幸いだ
一度我らの世界に触れたとして
それを人の子らの言葉で
表すことはできない
お主がそれを語ったとして
お主の周りの人間には
せいぜい狂人のたわごととしか
思われないだろう
忘れることを恐れる必要はない
お主がここに来られたということは
お主の中に我らがいるということだ
 
それはどういうこと?
 
絵や詩や音楽をお主は挙げただろう
お主が愛する生きたものも含めた
お主が愛するそれらの内に
この夜の火は隠れて存在している
火を直接人の子らの手で掴めば
死に至るが
火から距離をとって
暖かさを感じることは
出来るのだ
 
神様なのに私を助けてくれる?
 
お主がそれを望んでいるのだ
 
この神社が消えてしまったら
あなたも消えてしまう?
 
あらゆる場所に神々がいるように
あらゆる時代に神々は現れるだろう
お主たち人の子が生き続ける限り
我らは何度でも姿を変えて
お主には分からない形で現れる
空を漂う雲のように
お主はそれを望んでいるのだろう
 
確かに私は望んでいる
 
それならば
今を忘れるがよい、人の子よ
この世でしか生きられないことは
幸いだ
お主が死を迎えた時
神秘もまた姿を消す
今は生の側へと戻るのだ
 
そうする
この夜の暖かさを忘れて
また思い出すために
私は生きる
 








(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。

※過去の「スナップショット」置き場



今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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