【小説】眠りと目覚め 第三話 完結


※こちらは第三話、これで完結です。
【小説】眠りと目覚め第二話、とお読みいただけたら嬉しいです。


「大きな木ですねー。すごいなぁ。」

出雲さんは木に手をつけて、見上げている。
私の大好きな木だ。小さな頃から、ずっと遊び場にしていた。ここにいると、ほっと落ち着くのだ。昼寝をしてしまっても、何故か熊が襲ってきたことはない。さすがに父は心配するが。風に葉の揺れる音が優しい。

出雲さんがおいしそうにおにぎりを食べている。父の作るおにぎりはおいしい。でも、今日はなんとなく、食欲があまりわかないような…。

「なんか、おいしいご飯食べて、景色はいいし、…最高ですね…。」

出雲さんが空を見上げて、そう言った。その横顔が優しくて、なんだか…。

ふいに大きな蜂が飛んできて、

「あ、蜂。」

私はそっと蜂をよけるように、体を伏せた。
すると、お腹がいっぱいになったせいか、…急に眠く…なってきた…。
う、今は、寝ては、いけ…ない…。

「た、たらね、さん…?」

ハッと目を開けると、すぐ目の前に出雲さんの顔があって、目が合って、

「!!」

「どうかしましたか?」

「は、はい、なんでもないです!」

危ない!眠ってしまうところだった…。
今眠ると、出雲さんも眠ってしまって、熊でも現れると大変だから…。

「もしかしたら、…眠くなってきましたか?」

出雲さんが優しい顔で…。
しかも、さっき、たらねさんって呼んでくれた?

……とにかく、今は、眠りたくない!!!

私はパッと立ち上がって、伸びをした。

「い、いえ!はぁー、き、気持ちいいですね!今日は。お腹もいっぱい!!」

「本当ですね。こんなにゆっくりしたのは、生まれて初めてかもしれません。」

駄目だ、座っていては眠ってしまう。

「…せっかくですから、…もう少し歩きましょうか。」

山道をゆっくり歩きながら、色々な話をした。出雲さんは起きる研究のことや、少しゆっくりしたいと考えていることを話してくれた。

「でも、いびきで誰でも眠ってしまうなんて、すごい才能ですよね。…今日は、どうしたのでしょうね。…是非聴いてみたいです。」

「…す、すみません、なんでもないとは思うんですがっ!……出雲さん。ひとつ、聞いていいですか…?」

「はい、何ですか?」

「ちょっと…、気になってしまって…。
 …お兄さんがいらっしゃるって…。あのぅ、お名前は…?」

「ああ、…ふふ、気になりますか?」

「…ふふふ、…すみません、ちょっと、気になります。」

「……おっき、です。
出雲 越起(いずも おつき)です。
こえる、の…。」

出雲さんは、空に指で書いて教えてくれた。

「…!ふふふ、ははは!…、すみませんっ、
かわいくて、かっこよくて…、素敵ですっ…」

「はははは…ですかね…。ははは。」

面白くて、涙が出てきた。

そして、思った。
私、出雲さん、好き、なんだ。
どうしてか分からないけど、好きなんだ。

だから、眠りたくなかったんだ…。

私達は沢山歩いたり、話したりして、夕暮れが沈んでゆくのを見ながら、家に帰った。
いつもの風景が、どうしてだか、とても綺麗で、そこに出雲さんといれることが、…起きていれることが、それが本当に嬉しくて…。
ずっともっと一緒に起きていたくて…。

「おかえりなさーい!随分とラ ぶーらぶらしてきたのねぇ!
お疲れでしょ。さ、御飯にしましょう。」

ご飯を終え、お風呂に入り、くつろぐ頃、出雲さんが、あくびをした。

「あら、出雲さん、眠れそうですか?今夜は?」

父が聞くと、

「はい、…やはり沢山歩いたからか、疲れたんでしょうか、眠れそうな気がします…。
なんだか、寝るのが勿体ないような気もしますが…。」

「ふふ、それは、良かったわ。ツボ押しや、たらちゃんのいびきは必要なさそうですね。 
では、お休みくださいね。ごゆっくり。
…たらちゃん?あっ!寝た…。」

私も、まだまだ起きていたいのに、
既に限界で…、

眠ってしまった。

そこには、なんともいえない音のいびきとリラックスできる“気”のようなものがでていて。

「あ、これが…、たらねさんのいびき…、不思議な…、ふわぁーあ、確かに…。もっと、聴いていたいで、す…。」

「あら、出雲さん、寝てる…。出雲寝照、なんてねっ。…ふふふ、二人とも疲れたのねぇ。
でも、出雲さん眠れて、良かったわぁ。
たらちゃんも、ふふふ、眠れたみたいね。
…もう、いいわ、ここに寝かせておきましょ。どうせ、たらちゃんはあたしが起こさなくちゃ起きないし、たらちゃんが寝ている限り、出雲さんも起きないから…。
そろそろ、たらちゃんもなんとか一人で起きれないと困るわねー。
そっちの才能はないのよねぇ、あたしと違って。
どっこいしょっと。お布団掛けて…、ふふふ、おやすみなさーい。」


朝日が障子越しに部屋を照らしだして、

ぱちっ

「ん……、出雲さんは…?」

私は、生まれて初めて、自分で目を覚ましたようだ。
余程、出雲さんと起きていたかったのだろうか。

ぱちっ

「…たらねさん…?」

私達は明るい部屋で目が合った。
そこには、ぐっすり眠ったあとの目覚めと、

恋の目覚め、があった。



「!!!」




「朝、朝、そろそろ、起こさなくちゃねっと。たらちゃ…??ん?声が?
う、嘘…!まさか!嘘…。
たらちゃん、起きてる…?

あら、ま、good!多楽寝♡起照

あたしったらね、おやじすぎて…、ヤダどうしよう、ホホホ!しーっ。退散。…ミラクルな朝だわ…。」

               
                   完



創り話です。
長々とお読みいただきありがとうございました😊


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