【エッセイ】ちょっといい眺め
舟をかたどった露天風呂には、屋根がかかっていない。露天というのだから当たり前だ。
浸かった途端に、雨が降りはじめた。ばらばらと雨粒が落ちるたびにその数だけ波紋が浮かぶ。夜空から落ちる雫が注ぐと、露天風呂からもうもうと湯気がたつ。それを風が押し流す。
すぐそばの海がごうごうと鳴っている。
頭にタオルをかぶって、しばらくそのまま浸かっていた。
波紋の影がゆらゆらと揺らぎ、湯舟の底や私の脚や腕に映る。
海に雨が降るのを見て「ちょっといい眺めだ」と言ったひとのことを思い出した。
なるほど、湯舟に振る雨もなかなか「ちょっといい眺め」だ。なんなら海に降るよりも幻想的かもしれない。私はすっかり満足して露天風呂を出た。
月も星も見えない夜。雨はまだ止まない。
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