11年前の私への手紙

あなたは、本当に育児に向いていないよ。これからするどんな仕事よりも向いていない。だって仕事はどんなにブラックでも、辞められるし、給料も出るからね。育児はそうはいかないよ。保育園あるから大丈夫とか思ってる?甘いね。ほんとうに大変なのは小学校入ってからだよ。

あなたの子どもは不登校になる。不登校の時点でまともに働けないよ。そして給食だけ行くようになる。昼それだけ空ける人が雇用されると思うか?朝も夜も働けないんだよ、つまり働けない。あなたは嫌でも家にいないといけない。しかもね、Wi-Fiがないと時間を潰せなくなる子だよ。どこにでも連れていけるわけじゃない。

あなたは、確実に今より不自由になって、不幸になる。今できていることが全てできなくなると考えてもいいかもしれないね。10年育てた私が言うよ。あなたの息子は、育てにくい子だ。発達障害があるよ。どんなに出生前診断しても見つからないよ、発達障害も自閉症もね。あなたは双極性障害と診断される。こうして二人は最高に育てにくい組み合わせになるよ。

そしてあなたはストレスで酒に溺れる。酒がないと息抜きができないんだ。飲みに行けばいいかって?子どもがいると外へ行きにくいんだよ。夫の風当たりも強いよ。あなたは、孤独になる。誰とも分かち合えないのを知る。今もわかっているよね、家族が自死したつらさを、誰とも共有できない。

育児だって同じだよ。同じ立場の人なんか肉親にいないからね。母親は私しかいないんだ。誰とも共有できない。不登校の親の会とか行けば?そうもいかないんだよ、なんせ不登校の息子が家にいるからね、よっぽどの(車検とか)の事情がないとそうはいかないんだよ。Wi-Fiあるところを探さないとどこへも行けないよ。

あなたが思うよりずっと、あなたは孤立する。義母はやさしいし、実母のようにあなたを大事にしてくれる、朗らかでいい人だ。でもね、母親はあなたしかいないんだ。あなたは逃げられないんだ。どこへ行っても、あなたは母親のまま。逃げたら、逃げた母親のレッテルを自分でつける。

あなたは子宮を取る手術をすることになるけど、その入院が待ち遠してたまらなくなるぐらい一人の時間を欲する。何度でも言うよ、あなたに子育ては向いていない。どんな仕事よりもずっとね。引き返すなら今だよ。あなたは今よりずっとずっとずっとつらい思いをすることになる。

向上心の高いあなただから苦しい思いをするよ。それでもいいの?私は後悔している。もちろん子どものかわいさはあるけど、苦痛のほうがずっとずっと多いよ。あなたは、作らないほうがいい。今作らないまま、色んな仕事をして、つらくなったら入院すればいい。どうにでもなるから。

私はもうどうにもならない。逃げられない。だからあなたに架空の手紙を書いてしまうほど、苦しい。今よりもっと死にたくなるよ。どうか今のまま、自由なままいてほしい。二人なら、いつでも逃げられる。育児は逃げられないんだ。逃げられないことを覚えていて。

私は呪いのように言い続けるよ。あなたは逃げられない、あなた自身からも、息子からも。いつ死んでもいいように葬式用CDを作るぐらいに。あなたは死を考えて現実的に実行しようとするけれど、あなたにはできない。自死された側の苦しみを嫌ほど知っているからね。

だから酒を飲みながらこうして手紙を書くぐらい、追いやられる、車検の間に主治医に「入院されてください」という文章を書き殴るぐらいにね。あなたは独りじゃないようでいて、育児に至ってはほんとうにほんとうに独り。逃げられないんだ。何度もいうよ。あなたは苦しくなる、今よりもずっとね。

だから考え直して、不妊治療に心を砕いているうちに。あきらめて。あなたは不幸になっていく。

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