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読書感想『R・E・S・P・E・C・T』|生活に主体性を取り戻す

ブレイディみかこさんの本、『R・E・S・P・C・T』を新幹線の中でKindle にダウンロードして、一気読みしてしまった。紙の本も書店で探して、家に置いておこうと思う。人に紹介しまくりたい。

本の説明
ロンドンオリンピックの2年後――
2014年にロンドンで実際に起きた占拠事件をモデルとした炸裂作!

「やれるか、やるべきか、じゃない。やるしかないときがある。」

エンパシーからリスペクトへ。他者への、そして自らへの。
東京オリンピックから2年後の「日本」に炸裂する、
ブレイディみかこ本領発揮の傑作小説、誕生。

本の説明より

小説のモデルになった出来事とは?

ロンドン・オリンピックの2年後、オリンピックパーク用地だったロンドン東部のホームレス・シェルターを追い出されたシングルマザーたち(FOCUS E15マザーズ)が、公営住宅占拠運動を起こした。彼女たちの運動はオリンピックに端を発する下町のジェントリフィケーション*への抵抗であり、反緊縮運動の象徴でもあった。さらに同運動は2014年のカーペンターズ公営住宅地の空き家占拠・解放活動へと繋がっていく――

*ジェントリフィケーション(gentrification)–都市において、低所得の人々が住んでいた地域が再開発され、お洒落で小ぎれいな町に生まれ変わること。「都市の高級化」とも呼ばれ、住宅価格や家賃の高騰を招き、もとから住んでいた貧しい人々の追い出しに繫がる。

筑摩書房HP

資本主義の巨大な流れが富の偏りを生む。広く市民のためにあるはずだった公営住宅も、裕福なミドルクラス以上の人たちのために再開発され、本当に必要な人の手には渡らない。その地に生まれ、その地で生きてきた人たちがホームを追われていく・・・。

そんな中、ホームレスのシングルマザーたちが生きる尊厳を守るために立ち上がる。そうするしかないから、声を上げ続ける。というあらましだ。


自分は恵まれてる(?)と思う人こそ読んでほしい本

この話と、私がイギリスで見てきたこと、それと、ここ数年で生じた価値観の変化がつながり、強烈に心に響いた。

本の舞台はロンドン東部のE15地区で、貧困層が多く、昔から社会運動や暴動がよく起こり、一般的にはあまり治安がよくないと言われている場所。サムネイル画像はグレイソン・ペリという現代アーティストの”We Are What We Buy”という作品で、E15地区に住むうなだれた人が描かれている。

学生のころからロンドンファンな私だが、最初その「ファン」という言葉が意味していたのはウェストミンスターやフォートナム&メイソンやロンドン塔とかの煌びやかな部分だったし、いつかCityの金融街をスーツで歩くことを夢見ていた。つまりE15地区のようなところは目に入っていなかった。

そんな私が会社員生活の中でエンドレスに成長を求められることに疲れ、キャリアを中断して「観光」ではなく一時的な「居住」を目的に再び渡英したとき、これまでとは違う目でロンドンの街を見るようになった。
Cityの金融街を東に抜けた先にある、
落書きだらけの壁。
生活環境、家賃、公共サービスの違い。
そこで生きるいろんな人たち。

そのあとはスコットランドのエディンバラに拠点を移し、家を借りた。家賃の高さについてはロンドンも大変だが、エディンバラも大概である。イングランドやスコットランドで生まれ暮らしてきた人たちと関わり、「どこも大変なのは一緒なんだ」と当たり前のことを思った。ただ、同時に、「その中で生活に向き合うこと自体、なんて尊いことなんだろう」とも思った。

イギリスで出会った人たちの話も記事にしているので、読んでもらえたら嬉しい。一つの側面として。


だけどこういうことに触れるたび、やっぱり自分、傍観者だなって思う。
キャリアブレイク中でお金や将来を心配しない日はないけれど、そもそもブレイクする選択肢があることが恵まれている。ロンドンで家を探した時も、治安が良いと言われる西側を中心に見たし、エディンバラで見つけた家も地元民には『ポッシュだねえ』と言われるエリアにあった。
できれば無事に家族に再会したかったから。

結局、私がここに書くことだって高みの見物なのか。そんな人間が言う「日々の生活の営みこそ尊い」なんて言葉、ハチドリの羽よりも軽いのかな。

本の中でも、部外者の日本人駐在員がホームレス女性たちの社会運動を熱心に讃えたとき、当事者が「生活に苦労していない人には私たちの活動がそんな風に見えているのか」と冷めた感情を抱いた場面があった。
私じゃん、と思った。実態がわかっていないか、実態の一部しか見えていない。

だけど、そんな日本人駐在員が胸の内を語った一文が心に食い込んだ。

賢く生きることで死んでしまう部分が自分の中にあって、おかしいことをおかしいって言いたい衝動とか、そういうことを押さえつけていると、ここに生きているのは自分なんだけど自分じゃないみたいな変なことになって、自分が自分の人生の当事者じゃなくなってくる。

ブレイディみかこ『R・E・S・P・E・C・T』

ああこれだ。いろんな意味での貧しさがある。
この本は決してわたしたちを無関係な傍観者とみなしてはいない。


生活に主体性を取り戻す

アナキズムは、日本語に訳すと「無政府主義」だったかな。
一見、衝動的で破壊的で、理知的じゃない思想というイメージがある。危険な匂いすらする。

だけど、実際は逆かもしれない。
この本を読んだあとに思うアナーキストとは、自分のことは自分でする人。そのために必要ならば社会に対して積極的に関わり、働きかけていく人。誰かに人生を丸投げにしない。生きるために、生活を創造する人だ。
つまり、子供の頃に憧れた「かっこいい大人」だった。

一年前、ブレイディみかこさんの別の本を切り口に、自由と自治についての記事を書いたことがある。『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』という本だ。

ここでも結局、社会と繋がりながら自立して生きて行く人たちに目が向いている。
かっこいい人たち。

10年後に自分がどうなっていたいかを考えてみる。

最近手伝いに行っている農園で、自立したコミュニティづくりの話が話題にのぼることがある。この本に出てくるイギリスの女性たちのように、日本でも、自分たちで生活のシステムを作ってやろうという人たちがいる。

私はどうだろう。
資本主義のシステムからちょっとくらいはみ出しているんだろうか。それとも、得意のクライアントワークを生かして会社員を続けているんだろうか(別に会社員を否定しているわけではない。会社というテコは、やりたいことをやる上で有利に働くこともある)。

わからない。ただ、私なりのやり方で堂々と社会に関わっていたい。今よりも「かっこよく」(この本に言わせてみれば、「ファッキン・ブリリアントに」)なっていたらいいなあと思う。

と、Fワードで締めくくる。

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