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あたしは可愛くなんてない。

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「その感情が愛でも、憎しみでも、悔しさでも。あたしの、あなたへの感情は誰とも違うのだから」…… 1話5000字ほどの読み切り形式で送る、女性同士の感情シリーズ。
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#アイドル

恋じゃなくても、僕らはきっと(2)

恋じゃなくても、僕らはきっと(2)

 胸の膨らんだ自分のことなんて、絶対受け入れられないと思っていた。
 なのにどうしてだろう。
 藍里ちゃん……どうしてだろうね……?
 僕、本当はこれを望んでいたのかな……?

 聖は本当に意地悪だ。
 このインラン、と言い放ち、上に乗っかる僕をくすぐる。
 そういう彼は今、僕を抱いてくれているのだ。
「や、やめ……っ!? おっぱい触んな、それズルい!」
 僕は彼に抱かれて、いやらしくて細い声を我

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恋じゃなくても、僕らはきっと(1)

恋じゃなくても、僕らはきっと(1)

 そこそこ前の話だが、僕はかなり無理な形で診断書をもらった。
 女に戻りたい奴だとでもしないと、治療もなかなかやりづらいだろうという判断だった。
 分かっているよ、これは諦めであり裏切りだ。
 両親も友達も、僕はてっきり女性になるものだと思っている。
 大晦日のあの舞台に立った、あの美しい声をした歌い手みたいに。
 彼女は「あたる」という読みの名前をした人だったけど、僕からすれば似て非なる世界の人

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どうせ死ぬのに

どうせ死ぬのに

 飄々(ひょうひょう)としているという言い方があるらしいが、彼女はまさにそうだ。
 どうして、私とキスしようなんてことを言うんだろう。

 弓琉(ゆみる)……本名はちゃんと別にあるのだが、彼女はよく分からない。
 女子校にいる女子高生で、私の先輩で、十七歳。
 背が大きいのだが、それ以上に胸がヤバイ。
 一緒にゲームセンターに遊びに行くと、いつも『conflict』っていう曲のフルコンボを狙っては

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ライブリー・シスターズ

 あたしは不安だった。
 この物語を読むことに、みんなはどう反応するのだろう。
 自分はこの、染谷くんと佐倉さんのうちのどちらになるだろう、と。
 ううん、それよりも……
 この仕事がもしうまく行ってしまったら、愛するサナちゃんと離れ離れになるのだろうか。
 そんなことを思いながら、舞台袖で台本を握りしめていた。

 うちの事務所は、「アイドルになれば何でもできる」というのをポリシーにしていて、こ

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証をください

証をください

 私には何もない。
 若さも、人気も、おっぱいも。
 何もないアイドルなのに、どうして私が選ばれたんだろう。

 芸能界でのキャリアは何年だったっけ。
 私は心が空っぽになるような日をたくさん経験したが、こんなにも……世界がモノクロに見えることはそうそうない。
「藍里ちゃん、お久しぶりです」
「え?」
 その人があまりにも鮮やかだったから。
「あ……朝比奈夏希、さん……ですよね」
「ごきげんよう」

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