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狩猟免許合宿9,10日目──堕落


9日目

受け入れ終了

今日は朝から農作業。引き続きじゃがいもの作業である。午前は仕分けで、午後は芋掘り。

ここの農場で働いているのはマダムズだけでなくて、おじさんもひとりいる(Dさんとする)。彼は訛りが特にひどく、話の8,9割が聞き取ることができない。自然とジェスチャー頼りのコミュニケーションになる。

午後のおやつ時間に受け入れ農家のNさん夫妻から、家族が新型コロナウイルスにかかってしまったと告げられる。わたしに感染したらいけないということで、Nさんの元での農作業が今日で終わりということになってしまった。Nさんやマダムズに農作業でお世話になったのは累計3日間だが、とてもよくしていただいていただけに名残惜しい。都会出身のわたしを終始気にかけてくれていたし、Nさん宅では大量の美味しい昼ごはんも用意していただいていた。ありがとうございました。

今日の作業の終わりには、鹿肉(刺身でも食べられる部位らしい)と、べこ餅(北海道のお菓子)をもらった。大事にいただきたいと思う。

一旦明日はお休みである。その次の日以降は未定。しばらく休みをとって函館に観光にでも行こうかと考えている。


新メンバー来訪

今日は4人の新メンバーが宿舎に加わった。

愛知出身の友達連れ男子学生3人と、長野出身の女子学生1人である。
男子学生3人は、同じ高校出身でそれぞれ別の地域の大学に通っており、今回の合宿で再び集まることになったらしい。ヨウセイくん、コウくん、クラッチである。女子学生は、北海道の大学に通っている。今回の参加者の中で最も厚沢部町に近いところからの参加だ。Aさんとする。

Aさんとヨウセイくんは既にこのnoteを読んでいるというから驚きだ。「狩猟免許 合宿」で検索したら、公式のホームページに次いで3件目にヒットするらしい。GoogleのSEO、やるじゃねえか。変なことは書いていないはずだ。参考になっていればいい。


10日目

鹿のローストを作る(レシピ付き)

朝みんなが起きるのにあわせて6時に起きるも二度寝する。そして蝿の羽音で目覚める。昨晩から夜の間は同室のEさん(現在宿泊者中で最年長の、大型特殊免許を免許を取りに来ている兄貴分)が蚊取り線香を焚いてくれているので、朝は蠅に邪魔されることはないのだが、さすがにその効果も昼ごろには切れてしまう。

今日はわたし以外みんなが出払っているので、昼下がりから料理に取り掛かる。

昨日Nさんにもらった鹿肉を使うことに決めた。どこの部位をもらったかはわからないといっていたが、刺身でもいけるといっていたのでヒレ肉であろう。ローストにしても美味しいらしいので、その下準備に入る。まずは解凍だ。

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(⓪解凍が終わったところで、まず、あまりに大きいので二等分にする。)
塩・胡椒とニンニクおろしをすり込んで、しばらく放置。煙草が進む。
お湯を沸かして炊飯器に入れ、「保温」ボタン。
③続いて肉に戻り、フライパンで表面をこんがり焼く(強火)。ハンターの方が捌いたこの肉は精肉店に並んでいる肉のように成型されているわけではないので、焼くのには少し手間取ったが、全面に焦げ目をつけることができた。
(ここからはオーブンの代わりに炊飯器で低温調理するレシピを教わったので、その通りにする。)
焼いた肉をアルミホイルで包み、それをジップロックに入れて空気を抜く。
炊飯器に投入して30分後に取り出せば完成
⑥自転車で10分の温泉に行って帰ってきたら、程よく粗熱が取れていたので、それを冷蔵庫に入れる。冷やした方が薄くスライスしやすい
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結果は……以下写真である。

鹿のロースト

うまくいった。みんな美味しがってくれて、準備した甲斐があったものだ。鹿よありがとう、Nさんありがとう。


食後の安吾

食後、ソファーでPCを開いていると、Aさんが来て声をかけてくれる。

「坂口安吾読むんですか?」

仰天である。衝撃である。驚愕である。

聞くと、Aさんも坂口安吾が好きだと言う。岩波文庫版の『堕落論・日本文化私観』をホールのソファーに置いておいたところ、それを見つけて声をかけてくれたそうだ。思わぬ偶然。わたしもうれしくなって、昨晩は「恋愛論」を読んでいてここの一節が面白かっただの、来て初日は「文学のふるさと」を読んでここに震えただの、早口で語ってしまう。

文豪ストレイドッグスが好きで、そこに出てきた文豪の作品を読んだところ、一番響いたのが坂口安吾だということである。文ストにはあまり詳しくない私であるが、他にも出演しているキャラクターで言えば、谷崎潤一郎や澁澤龍彦、太宰治といった今日にも「読まれやすい」「読みやすい」ひとがいるではないか、と思ってしまう。いや、違う。だからこそ坂口安吾を読んだのだろう。読んでしまったのだろう。

この北海道厚沢部町という田舎町に偶然集ったメンバーの中に坂口安吾を好むひとがいるなんて思わなかった。この偶然をなんと表現しようか。Aさん来てくれてありがとう、だろうか。いや違う。「もとより現実は常に人を裏ぎるもの」だ。

せっかくなので、今日は「恋愛論」から引用して擱筆しよう。

人生においては、詩を愛すよりも、現実を愛すことから始めなければならぬ。もとより現実は常に人を裏ぎるものである。しかし、現実の幸福を幸福とし、不幸を不幸とする、即物的な態度はともかく厳粛なものだ。詩的態度は不遜であり、空虚である。物自体が詩であるときに、初めて詩にイノチがありうる。

坂口安吾「恋愛論」

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