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教養とは他者への想像力だと思う

バングラデシュの大学で、人を待っていた今日の午後。

左右にかたかたする赤いプラスチックの椅子に座りながら、目の前の風景をぼーっと眺めていたら、3歳くらいの年齢の男の子が近づいてきた。
彼はベンガル語を話していたため詳細はよくわからなかったが、多分「お金をください」と声をかけていたのだと思う。私の周りにいた現地の大学生にも声をかけていたが、みんな同じように無視していた。

こういう時、私はどうしたらよいのか、未だによくわからずにいる。

心に残った後ろめたい気持ち


物乞いをする子供に始めて会ったのは、5年前だった。
留学していたフィリピンの首都マニラにあるレストランに真っ黒な素足で入ってきた彼らは、客ひとりひとりに「貧しくてご飯が食べられません。お金をください」と話し始めた。こういう子供たちの裏には悪い大人のグループがいる場合も多いと聞いていたため、とても迷ったが、私はその時お金をあげなかった。

でも本当にまったくお金がなくて、飢え死にしてしまったらどうしよう。
とてもひどいことをしたのではないか。

自分のあまりの無力さに呆れてしまい、その日は帰ってからも後ろめたい気分だった。その気持ちは時間が経つほど重さを増して、ずしんと心に残っている。

「自分だったら」と想像する時間をもつ

物乞いの子供に会った時の薄暗い感情を、リアルに思い出させてくれたアート作品が香川県の直島にあった。

ベネッセハウスミュージアムの1階、壁一面に貼られていたとても大きな世界の国旗の作品だ。1つ1つの国旗は色のついた砂でできており、上からアクリル板でカバーがしてある。

遠くからみて気になったのは、ひどく傷ついていたり、全く傷ついていない国旗がランダムに並んでいたこと。近くで見ると、国旗すべてが細い管でつながっており、蟻が砂の中を自由に通れるようになっていた。蟻がたくさん通った場所ほど、国旗がずたずたになっていたのだ。蟻の行動をあらかじめ予測はできないから、どの国旗がきれいに残るか、ぼろぼろになるか、全く予想がつかない。

これを見た時、そこからしばらく動けないほどの感情が押し寄せてきた。

世界にはこれだけの数の国があって、それぞれの国旗はとてもカラフルで、国ごとに文化があって、言葉があって、そこで生きるたくましい人々がいて、美しい風景やおいしい食べ物がある。しかし生まれた場所によって、時期によって、性別によって、人間が生きる環境は驚くほど異なる。自分で生まれる場所は選択できないから、いわば「たまたま」その場に生きている。

そのどうしようもない運命のような偶然性を、この作品は蟻を用いてとてもリアルに表現していた。

私は日本にたまたま生まれてきて、何の不自由がなくとても幸せな家庭で育ててもらい、美しい景色をたくさん見させてもらって、教育もたくさん受けさせてもらった。

でも私だって、お金や食べるものが十分になく、教育の機会もない家庭に生まれてくることだってありえたはず。蟻がきまぐれな行動で日本の国旗をずたずたにするように、この先(絶対にあってはほしくないけど)紛争や戦争で日本がずたずたになる可能性だってゼロではない(ゼロであってほしい)。

私がもし、今日出会ったバングラデシュの子供のような境遇だったら。
私がもし、5年前に出会ったフィリピンの子供のような境遇だったら。

彼らを自分とは全く関係がないと思うか、もしかしたら自分もそういう環境で生活することがあったかもしれないと想像力を働かせるか。人それぞれで捉え方や考えが異なるのはもちろんだと思う。私のようにいくら想像力を働かせたって、何か具体的に世界が良くなったわけではないという意見も、もちろんあると思う。

しかし自分が思っているよりも世界は色々なところでつながっていて、だからこそ面白いし、だからこそ自分の行動が知らないうちに他者を傷つけているかもしれないという恐怖も忘れてはいけない。

人の話しを聞いてみること。友達や家族と議論すること。本を読むこと。ラジオを聞くこと。ニュースをみること。旅に出て知らない文化を覗かせてもらうこと。知らない世界を少しでも知ろうとすること。

そうやって積み重ねられた知識や教養こそ、他者の気持ちや考えを想像する力になる。その教養や想像力が、少しでも良い方向に変えていける行動につながるのだと信じたい。



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misa

1993年生まれ。記事執筆や編集、WEBマーケティングが主な仕事です。東京や石巻、バングラデシュを拠点に活動中。アジアの躍動感に惹かれ大学でフィリピン語を専攻。新聞社の経済部記者などを経て、2019年5月からフリーに。
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