春の轍
平安の春の女神は、牛車に乗って来たのだろうか。
御簾を揺らす風のなまめかしさに、想い人の訪れかと胸をときめかす女たちにとっては、少し意地悪だったかもしれない。
遡って平城京の都、奈良駅の西の方角に「佐保路」と呼ばれる道がある。
私の「恋仏」がいる西大寺から東大寺転害門へ向かって延びる古墳と遺跡と恋の寺の道だ。
何よりもその名がいい。
大和の春は「佐保姫」が紡ぎ、秋は「龍田姫」が織る、という話があって、私はこれがいたく気に入っている。
そうだ。
春は紡ぐのが似つかわしい。
佐保の姫が白くしなやかな指で糸車を廻している。
白磁のような肌にただ一枚纏った薄絹を、一足早く盛りを迎えた光が透かしている。
すると光の求愛に応えるように、淡くて儚げな桜の花びらが、その差すほうへひらりひらりと立ち上っていくのだ。
「凛と咲き 艶と散りたし 花一輪 誰が見るとも 誰も見ずとも」
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