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視点7_ビジネスモデルは「発明から編集」へ

<2023年7月アップデート>
こちらのnoteは、2018年末に室井淳司が宣伝会議より出版した「全ての企業はサービス業になる」の最終章で、書籍の内容を10の視点にまとめた内容を要約した記事になります。

2023年現在からすると5年前の記事ですが、当時から現在までに起きた変化を追うと、社会や消費の流れがどの方向に向かっているのか解りやすいと思いますので是非ご一読ください。


以下書籍本文の要約


新たな発明で、真似出来ない商品やサービスを展開し、利益を独占する事は企業にとってなんとも理想的な話しかもしれません。しかし、それは誰もが簡単に出来る事ではありません。

一方、既に世の中にある商品やサービスを新たな視点で編集する事で、独自の商品やサービスを生み出す事も出来ます。特に、近年生まれた様々なデジタルサービスには、その傾向が現れています。

書籍より

例えば、個々人の受給を繋ぐP2Pシェアリング・プラットフォーム自体は発明です。しかし、P2Pシェアリング・プラットフォームの発明以降に生まれた殆どのサービスは、発明ではなく編集で生まれていると言っても良いかもしれません。

P2Pシェアリング・プラットフォームとは、個人(P)の供給と個人(P)の需要を結ぶ(to:2)プラットフォームです。モノのシェア、場所のシェア、スキルのシェア、空間のシェア等があり、個人が所有している遊休資産を一時的に利用したい個人へ貸し出すプラットフォームです。

例えば、P2Pシェアリング・プラットフォームに「宿泊」というテーマを乗せてみます。すると、宿泊したい個人と、部屋を利用して欲しい個人とを結ぶサービス、つまり「Airbnb」が生まれます。

発明の様に感じる「Airbnb」ですが、実はP2Pサービスプラットフォームの上にテーマを乗せて生まれたサービスである事が解ります。

同様に、P2Pシェアリング・プラットフォームに「移動」というテーマを乗せると「Uber」が生まれます。これも「編集」で生まれたサービスです。

乗せるテーマが「スキル」であれば、スキルのシェアリング・プラットフォーム「ココナラ」等になり、乗せるテーマが「お金」であればクラウド・ファンディングになります。

これらは、発明によって生まれた全く新しいサービスに感じますが、実はプラットフォームの上に「テーマ」を乗せる事で自動的に生成されたサービスと言えます。

こうして見ると発明ではなくとも、編集によって顧客にとって価値のあるサービスを提供出来ることが解ります。

テーマは同じでも、独自のコンセプトを基点に全てのサービスを一貫したコンテクスト(文脈)で編集することで、オリジナリティの高いブランドを生む事も出来ます。

例えば、前回ご紹介したアリババが展開するフーマーを例にしましょう。

フーマーは、オンライン(EC)と、オフライン(リアル店舗)を融合した小売業態です。小売業態では、オンラインとオフラインの統合は既にあたり前ですが、殆どの企業がそれらを整備するまでに留まっています。この状態では、店舗とECを都合に合わせて使い分けられる利便性以上の価値はありません。

一方フーマーは、独自のコンセプトを基点に、サービスや在り方を一貫したコンテクストで編集してブランドの価値を高めています。

フーマーのブランドコンセプトは「新鮮を届ける」です。

一般的にECの利用者にとって、商品の保管場所が何処かはあまり関心の無い事かもしれません。しかし、普段買い物に行く店頭の商品が自宅に配送される事は、中国における信頼性の低いECの透明性を高める、つまり生鮮食品の鮮度を保証する事に繋がります。

つまり、フーマーにとって店舗と倉庫を統合する事は、保管コストの効率化だけではなく、「新鮮を届ける」為のコンテクストに従って「編集」された結果である事が解ります。

また、店内では海鮮食材を生簀で保管し、そこで購入した食材をその場で調理してもらい食べる事が出来ます。これも、店頭で新鮮な商品を扱っているブランドという信頼に繋がります。

さらに、新鮮な食材を3キロ圏内30分で届けるために、店内でスタッフがピックした商品を直接バックヤードの配送スタッフに送り、直ぐに配送に向かえるシステムも「新鮮を届ける」に繋がっています。

これらの店内施策は、奇抜なアイデアで注目を集める為に行われている訳ではなく、ブランド価値を顧客に伝える為に必要なコンテクストを編集した結果生み出されたことが解ります。

フーマーの構造は、リテールの新しい形の「発明」ではなく、顧客に提供する価値を明解にし、そのコンセプトを基点に全てのサービスや行動を徹底して「編集」する事で作られています。

もう一つ面白い例を上げてみたいと思います。

コンテクストは、提供する価値に一貫性があれば、より高め、拡張して編集することが可能です。

P2P宿泊プラットフォームの代名詞であるAirbnbですが、テーマを「宿泊」から「体験」に高める事で、従来以上にサービスの範囲を広げています。

Airbnbのサイトはこちら。 https://www.airbnb.jp/

そもそも滞在先で現地の人の家に泊まるという体験は、グローバルで仕様が似通っているホテルでは手に入れる事が出来ない異文化体験を伴います。Airbnbでは、この異文化体験こそAirbnbが顧客に提供する価値であるとしてテーマを「宿泊」から「体験」に引き上げました。

現在では、個人が提供する様々な異文化体験プログラムをサービスの中に組み込み、宿泊も包括した体験のシェアリング・プラットフォームとしてブランドをアップデートしています。

このように、同じテーマに複数のサービスが乱立していたとしても、高い視点で編集を加えることで独自の価値を保有出来る事が分かります。

発明か、編集か。

勿論誰にも真似できない発明は偉大ですが、顧客価値に基づいて編集されたサービスは、顧客にとってより身近で発明以上に市場価値のあるものなのかもしれません。


書籍要約ここまで


2023年からみて

「SaaS」に代表される編集による新たなサービス開発は、ここ数年で随分と乱立した様に思います。しかし編集だけが価値となるサービスは新たなサービス文脈の登場ですぐに色褪せたり、マーケット側の理解や成長が付いて来なければマネタイズに失敗します。これからはビジネスアイデアや新たな編集文脈もAIが考える時代が来る様に思います。安易な編集によるそれっぽいだけのサービスは、スタート出来ても生き残ることは一段と難しくなってくる様に思います。

この書籍は全ての視点が視点10に繋がる構成になっています。視点10も是非ご一読ください。


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室井淳司