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不肖「信頼出来ない語り手」明智紫苑のおバカ書評! ついでにボヤキ! 読む読まないはあなた次第です。 当シリーズは、書評だけでなく、音楽や映画・演劇・舞台芸術などについての感想も載… もっと読む
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我が悪夢の女王たち ―中村うさぎ『狂人失格』―

我が悪夢の女王たち ―中村うさぎ『狂人失格』―

 私にとって一番の「悪夢の女王」は多分、私自身なのだろう。

 私は競走馬擬人化作品群『ウマ娘』にハマったのをきっかけにして、競馬に興味を持つようになった。その『ウマ娘』以前の「下地」として、80年代後半(代表者、オグリキャップ)から90年代前半(代表者、ナリタブライアン)までの第二次競馬ブーム並びに旧コーエー出版部の雑誌『光栄ゲームパラダイス』に掲載されていた『ウイニングポスト』シリーズの記事が

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ややこしい美意識 ―姫野カオルコ『整形美女』―

ややこしい美意識 ―姫野カオルコ『整形美女』―

 整形美女を扱うフィクションは、色々とあるが、この小説は読んでいるうちに色々と混乱する。この『整形美女』(光文社文庫)という小説は、タイトルのシンプルさとは対照的に色々とややこしいのだ。
 まずは、生まれついての絶世の美女であるヒロイン一号「甲斐子」は、高嶺の花レベルの美貌ゆえにかえって男性にモテない。地味系不美人(ただし、「かわいらしい」とは見なされる)であるヒロイン二号「阿倍子」は、高嶺の花レ

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古典化を阻止するための試み ―冲方丁『マルドゥック・フラグメンツ』―

古典化を阻止するための試み ―冲方丁『マルドゥック・フラグメンツ』―

 私は冲方丁氏の『マルドゥック・アノニマス』を読むまでの復習として、『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ヴェロシティ』、そして短編集『マルドゥック・フラグメンツ』(早川書房)を読んだ。これは『スクランブル』外伝の短編二つと『ヴェロシティ』や『アノニマス』の予告編、さらには冲方氏のインタビューと『スクランブル』の準備稿『事件屋稼業』の序章が収録されている。
 ここで気になるのが、インタビ

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血の海の上に築かれた都市 ―冲方丁『マルドゥック・ヴェロシティ』―

血の海の上に築かれた都市 ―冲方丁『マルドゥック・ヴェロシティ』―

 冲方丁氏の『マルドゥック』シリーズ第二弾『マルドゥック・ヴェロシティ』(早川書房)は、前作『マルドゥック・スクランブル』の前日談である。この小説の主人公は、前作のヒロインの最大の敵役だった男、ディムズデイル・ボイルドだ。この物語は、彼とかつてのパートナーであり親友だった「万能ネズミ」ウフコックとの決別を描いている。
 この小説のボイルドとウフコックが属するのは、人命保護を目的とした緊急法令「マル

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「姫」の話 ―私的・椎名林檎論―

「姫」の話 ―私的・椎名林檎論―

 かつて私は猛烈に椎名林檎にハマり込んだ。昔の日記を読み返してみると、かなりゾッコンだった証拠の記述が残っている。私が年下の同性に対してここまでベッタベタに惚れ込むのは珍しい。私は「林檎姫」の虜になっていた。

 小説家の酒見賢一氏は、デビュー作『後宮小説』を「勉強小説」と評されてカチンときたらしいが、私は林檎ちゃんの楽曲に対して「勉強してるなぁ」と感心していた。多分、本人は私の感想に対して酒見氏

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安物の香水ほど遠くまで匂うものよ ―テネシー・ウィリアムズ『欲望という名の電車』―

安物の香水ほど遠くまで匂うものよ ―テネシー・ウィリアムズ『欲望という名の電車』―

 私は子供の頃、「コワルスキー」なる外国の苗字を聞いて、マッチョな男性を想像した。タイムボカンシリーズ『オタスケマン』に「ドワルスキー」という名のマッチョ悪役が出てきただけあり、ますますゴツい男性像を思わせる苗字である。しかし、子供の頃の私はなぜ「コワルスキー」なる外国の苗字を知ったのだろうか?
 ズバリ、テネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』のヒロインの義弟の苗字だった。ああ、この『

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「男の業」と「精神の血」 ―冲方丁『マルドゥック・スクランブル』―

「男の業」と「精神の血」 ―冲方丁『マルドゥック・スクランブル』―

 鬼才・冲方丁氏の代表作といえば、時代小説である『天地明察』を選ぶ人も少なからずいるだろうが、私はやはり、サイバーパンクSF『マルドゥック・スクランブル』(早川書房)を選ぶ。
『マルドゥック・スクランブル』のヒロインは、大都会マルドゥック市の貧困層の娘として生まれ育った少女ルーン・バロットである。彼女は数奇な運命をたどり、野心家の男シェルの陰謀で、事故に見せかけて殺されかける。瀕死の重傷を負ったバ

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