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向田邦子の恋文

■ 感想

「向田邦子の恋文」向田和子(新潮社)P141

なんと見事な人だろうか。知れば知るほど魅力が溢れ出す向田邦子という人の途方もない格好良さに、本を閉じて暫し惚ける。

向田邦子が亡くなった昭和56年。姉の遺品整理をしていた妹である著者・和子さんが母から託された茶封筒には、姉とその愛する人であったN氏との手紙と日記が入っていた。数年後に開封したことを端緒に和子さんが謎多き姉・邦子を回顧していく。

人生の節目節目にいつも傍にいて妹さんを支え、守っていた向田さん。妹さんだけでなく家族全員をしっかりと見つめ、病気の彼や彼の母親までも支えてしまう強い優しさは圧巻。後になって考えてみないと気付かないくらいにさりげなく、でも抜かりない行き届いた細やかな愛情に打ちのめされるような衝撃を受けた。

人知れず抱えていたであろう苦しみも哀しみも人に見せず、笑顔で軽やかに生きた向田さん。親友だった黒柳徹子さんもこの本で向田さんの背後にあった哀しみの真実を知ったという程。『人間オギャーと生まれた時から苦を背負っているのよ。口に出して言うか言わぬかの違いはあっても、誰にでも苦労はある。そこをどうしていくかが知恵のつかいどころ。』そう笑顔で語る凛とした温かさに胸を掴まれた。

鹿児島市から近代文学館をつくるにあたって、鹿児島に縁のある作家のひとりとして向田さんの遺品の提供を求められた時、お母様の「鹿児島に嫁入りさせよう」との言葉で寄贈が決まった向田さんの貴重な遺品たち。父の転勤で二年間住んだ鹿児島の地を「故郷もどき」と愛を込めていった向田さん。いつの日か鹿児島に会いに行きたい。

■ 漂流図書

■向田邦子の青春|向田和子

読めば読むほどもっと知りたくなる向田邦子さんの魅力。

お姉さんとはまた違う、和子さんの柔らかでふんわりと温かい文章で、対話するように向田さんの話を聞ける幸せをもっと体験したい。

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