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アメリカ唯一の女性の3つ星シェフ@パリ9区 フランスの週刊フードニュース 2023.07.18

今週のひとこと

パリ・オリンピック開催はちょうど1年後。海外客の需要を見越して、パリではインフラ整備やホテル、レストラン、さまざまなショップのオープンが相次いでいます。コロナ禍後のオリンピックということもあり、レストランは新しい提供スタイルでの店づくりにも心がけていることを感じています。

レストランもホテルと同様、オンライン予約も当たり前になりました。まだまだ進んではいないのですが、レストランでは机上での注文、決済のデジタル化への移行も感じています。人手不足に加え、お客が殺到するとなれば必須でしょう。

オンライン予約においては、このコロナ禍後に急速に浸透。10年ほど前に、日本のあるオーナーシェフの方が、No-Showのお客が相次いで、経営不振になることを回避するため、ホテルと同じオンライン予約制度を導入し、クレジットカードを登録させることを決行したところ、それが理由かはわからないのですが、直後にミシュランの星を2つ失ったということがありました。この一件で、追随する店はなかったですし、この店はオンライン予約制度を諦めた。英断だったはずですが、時代がまだ追いついていなかったからの流れだったかと思います。

パリの友人のシェフたちからも、No-Show対策の相談を受けたこともありました。信頼できる客が多い地元に根付くレストランと、ミシュランの星付きレストランとでは、いろいろな乖離もあって、一括りにオンラインシステムを取り入れることはなかなか難しかった。しかしながら、このコロナ禍で、オンライン決済に抵抗があったフランス人も積極的に利用するようになったこともあり、一気に日常になりました。例えばデリバリーが2021年の調査でパンデミック以前と比較して85%増という伸び率を記録しているのも、大きな指標ではないかと思います。

ところで、9区のホテル『La Fantaisie』内に、それこそファンタジーな内装のレストラン『Golden Poppy』がオープンしました。シェフは女性シェフのドミニック・クレンさん。フランス生まれで21歳の時にアメリカ・サンフランシスコに渡り、調理師学校を経ることなく料理の世界へと飛び込みましたが、いい出会いと感性に恵まれ、インドネシアなどのシェフのポストなども経てサンフランシスコに戻り独立し、2011年「ラトリエ・クレン」をオープン。2018年には3つ星に輝いています。

2016年の「World's 50 Best restaurant award」では、世界最高の女性シェフに、アネックス店として2015年にオープンした「プティ・クレン」はベスト・ニュー・レストランにも選ばれています。フランスの初進出が待たれていましたから、この夏にオープンしたばかりの『Golden Poppy』に期待が集まっているのは言うまでもありません。

中庭もあるガーデン風の内装のレストランは、かなりの大箱で、ゆうに80席ほどはありそうな広さでした。オープンキッチンでスタッフも多いのですが、まだオープンしたてなのか、サービスの速やかな流れはこれから。ただ、みな一生懸命に応対してくれるので、ストレスはあまり感じませんでした。

料理には実はさほど期待はしていなかったのですが、それがなかなか美味しかった。フランスで挑戦する外国人シェフたちには見られない、アメリカらしいというのか、斬新な味わいのコンビネーションに、驚きも溢れて、とても面白かったです。

とくに、日本のテイストが多文化料理にさりげなく融合し、閉じ込められているのにも発見がありました。例えば、カリフォルニア風ブリオッシュのパーカーハウスロール。ポテトフラワーで作っているのがクレン風だそうですが、それに3つの薬味ソースが付いており、そのうちの1つが麹ソース。スライスにした焼き鮑を、ワカモレ風のアボカドなどとともに、タコスで巻いて食べるのは、手巻きスシを思い起こしたり。熟成させたマグロのタルタルを紫蘇の葉で巻いたもの。自家製ガラムの発酵ソースを絡めたブロッコリーは、日本の漬物のようであったり。
ちなみにデザートにはかき氷も。オレンジソースのフローラルなソースがぴったりの、非常におしゃれな夏の一皿でした。

時代も中央集権的なありかたから、シェアの時代になる中で、料理の構成もシェアの時代だと感じさせる食卓でした。フレンチの、和食の、南米の、中華の、中東の、アフリカの料理の中に、他の料理の要素が混じっているのではなく、お互いが協力して一皿を織りなしているという感覚と言ったらいいでしょうか。たとえ日本のものを見出したとしても、他の料理、香り、味わいと対等に融合している。他国の方がいただいても、同じような感覚に至るのではないかと。なんとオリンピックにふさわしいレストランでしょうか。

そんな中で、彼女も多用している「発酵」というワードも気になりました。発酵食品は料理界のモードであり、いまの料理人さんの創造力を突き動かしています。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに私も感化され、発酵によって必ず生まれるATPというエネルギーに目下注目中。なぞなぞ、のようですが、この循環して、他の生物に受け渡すという性質のあるエネルギーは、前史的かつ現代的で、未来の料理のキーワードがあるのではないかと感じています。



今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載しています。食の現場から政治まで、フランスの食に関わる人々の動向から、近未来を眺めることができると、常に感じています。食を通した次の時代を考える方々へ、フランスの食事情に触れることのできるトピックスを選んで掲載しています。どうぞご参考にされてください。【A】名魚卸業者の環境問題への取り組み。【B】ストラスブールの人気スシショップの新展開。【C】2024年オリンピックにて100%循環型に向けて取り組むコカ・コーラ社。【D】USA農務省の販売許可を得たクリーンミート、3つ星シェフも発注。

今週のトピックス

【A】名魚卸業者の環境問題への取り組み。
アルプスの只中にありながら、ヨーロッパ中の魚の卸業者として信頼の高いDisserkoi-Abriconet社。創業20年になりますが、クールシュヴェルやレ・ザルク、シャモニーなどの冬のリゾート地との結びつきが強く、アルプス近辺ではなくてはならない卸業者として知られています。

そのDisserkoi-Abriconet社は、以前から短いサプライチェーンと持続可能な漁を行う漁師との関わりを誇りとしてきましたが、包材に重きを置いた「Emballe Ecoleau(エコなパッケージ)」ラベルの開始を発表しました。

その目的は、Disserkoi-Abriconet社内だけではなく、このラベルを他業者と共有することで、同業種間での認識を高めていくことです。

内容としては、まず、3年間で、すべての汚染性が高くリサイクル不可能なポリスチレン製枠の箱を段階的に廃止することを約束する。リサイクル可能で折り畳みも自在な段ボールに移行する。

また、安全衛生当局による取り決めで、異種の魚を同じ箱に詰めることが可能となったため、包装を最適化し、箱数を減らすことも検討しているとのことです。

同業者間での取り決め、および、行政の協力を上手に取り入れ、環境問題に積極的に取り組んでいます。
https://www.disserkoi-abriconet.fr/


【B】ストラスブールの人気スシショップの新展開。
フランス東部アルザス地方ストラスブールに13年前にオープンしたスシショップ「SushiDo」。当時は、スシを扱う先駆者として順風満帆でしたが、近年は競合が増え、スーパーマーケットでもスシが売られ、オンラインでの注文者もうなぎ登りというマーケットの飽和状況において、岐路に立たされたというオーナーのShide Liuさん。
そこでフュージョン料理を展開する Okiiというレストランに改装。メニューも一新して、斬新な料理を展開することに。例えば柚子とうなぎのソース風味のスズキのムース。マキのフランベ、フォアグラのマキ、鴨のスシなど。

この店の斬新な点は料理だけでなく、サービスの革新にもあります。例えば、注文にはiPadを使用。100ほどもある料理から各人が注文できるのは5皿まで。次の注文までには15〜20分を置かなくてはならないという決まり。
トロやヒラメなどの高級素材は1回しか注文できない。残り物を出さないため、お持ち帰りは許可しない。お持ち帰りができると安心して、たくさん頼んでしまう心を引き締めるためだそうです。80席もある店内は、これらの規則で円滑に回っており、おおよそ1人の客につき3〜4回の注文をするとのこと。

オープン以来、常に満席。集中して注文が入るため、料理人の数も増やしたとのこと。大箱の場合、料理だけでなく、サービスの賢さもレストランの成功には大切だと感じました。

【C】2024年オリンピックにて100%循環型に向けて取り組むコカ・コーラ社。
コカ・コーラ社は、1928年以来、オリンピック・パラリンピック各大会とパートナーシップを結んでおり、ノンアルコール飲料を供給しています。

パリ2024年大会では、2012年ロンドン開催のオリンピック・パラリンピック大会と比較して、使い捨てプラスチックの使用量を半減させることを目標にしていると仏コカ・コーラ社。

そのため、各会場のニーズと技術的な可能性に応じて、さまざまなソリューションを提案すると発表しました。

例えば、ドリンクファウンテンの設置。700台近くを用意し、選手やボランティアを受け入れるオリンピック・パラリンピック村のレストランはもちろん、一般消費者向けの販売店に設置するということ。このファウンテンで提供するのは、コカ・コーラ(シュガーレスのコカ・コーラも)はもちろん、水、コーヒー、Fuze Tea、またスポーツドリンクで、リターナブルカップやガラス瓶を用意。運営上、ファウンテンの設置が難しい場合は、再生ペットボトルで対応。

100%循環型に向けて取り組むと約束しています。
https://www.coca-cola-france.fr

【D】USA農務省の販売許可を得たクリーンミート、3つ星シェフも発注。

アメリカ合衆国農務省(USDA)は、Upside Foods社とGood Meat社に対して、Lab-grown Meat(培養肉)による鶏肉販売を許可したと発表しました。

Lab-grown Meatとは”、農場ではなく研究所(ラボ)で、バイオテクノロジーを駆使して培養された肉のこと。実際の肉の細胞を組織培養するというプロセスから生まれ、クリーンミートとも呼ばれています。

アメリカの保健福祉省配下にある政府機関、食品医薬品局FDAは、それ以前に許可を出していて、3つ星シェフのDominique CrennとJosé Andrèsはすでに発注をしたと伝わっています。

Lab-grown Meatは大豆などを原料とする植物性の代用肉とは異なるため、環境への負担も少ないため、今回の決定や有名シェフの受け入れで、世界への普及が加速するのではないかと予測します。






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