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退職の練習㉓私の秘密(教師の場合)

 私も、自分の秘密を生徒に発表した。

 美術室の扉は、なぜか、防音使用になっている。
 音楽室と合わせたのかもしれないが、美術室で、けっこう、大きな音量で音楽をかけたり、映像を見せても、外の廊下には、ほとんど聞こえない。
 廊下を挟んで向かいには教頭先生と教務の先生や生徒指導部の先生がいる職員室があるので、音が漏れたらまずいと思うのだが、まずは、ほとんど聞こえないのが凄いと思う。

 私の秘密とは、朝一、大音量で音楽をかけ、美術室で一曲、踊ることである。ヒゲダンの「バッド・フォー・ミー」で、半年間、踊った。

「笑っちまうほど 夢見がちなのさ
 君に会ってから 余計にひどくなったな
 とどめを刺された 群青色の涙
 指で拭ったら ひっついて離れなくなった」

 まあ、このダンスのきっかけは、歩数稼ぎなのであった。
 青森県の教職員の厚生会が主催の、年に一度ある、健康増進企画。3人一組でチームを組んで参加、一日にこれだけ歩くって、エントリーする。歩数の程度で松竹梅コースに分かれており、歩数が多いほど商品(図書券等)の額が高い。もちろん、私は5000円の図書券がもらえる松コースにした。
 同じ分掌で3人は集まらないみたいなので、他の分掌に出かけて行って、「誰か私とチーム組みませんか?」と、呼びかけてみた。
 なんと、各分掌で、あぶれた人たちが、あっという間に集まった!
 やっぱ、いるんだなあ~。やりたかったけど、メンバーからあぶれた人たちが!どっちも、私と一緒に働いたことある人々だったので、渡りに船。
 チーム名は( ^ω^)・・・
「3時のおやつは歩いた後で」にした。
 3人の名前は、それぞれが好きなおやつの名前。

 あんこ大好き。
 引き出しのチョコ。
 せんべのミミ。

 あんこ大好きは私。生クリームかあんこかと聞かれたら、迷いなくあんこと答える。
 引き出しのチョコは、いつもはスーツをピシッと着た男の先生。3時のおやつがストレス解消法で、チョコが彼のおやつ。チーム名はここから。
 せんべのミミはいつも忙しそうな英語の女の先生。いい名前をつけた。
 八戸市民以外はその価値を知らないと思われる。南部せんべいと言う素朴な塩とゴマの入ったシンプルなせんべいがあるのだが、(おどろいたことになにも入らない白せんべいというのもあるぐらいだ!)その耳だけ集めた奴が人気なのだ。耳を焼くために、せんべいを焼くというのもあるぐらいだ。耳が主役!決して、せんべのみみは、切り落とした屑ではない。
(疑問→その場合、真ん中のせんべい部分はどうなるのだろうな?)
 この小麦粉文化って、世界のあちこちにあると思う。
 インドのナンとか。 イタリアのピザとか。
 八戸のせんべいも、まさにそれに近い。
 私の出身地の津軽では津軽せんべいはピーナッツが入ったり、砂糖入りの甘い黒ゴマがかかって、お菓子の様相を呈していたが、南部である八戸ではせんべいは、せんべい汁に入っていたり、主食の様相を呈している。
 せんべいの耳は、はじかれるカスではなく、メインの名物で、日本酒のつまみとして、最高!な、素朴な美味しさの物である。

 話がそれた笑。

 この歩数を稼ぐ企画も、よく考えてみると自己申告制なので、いくら嘘をついても、誰も何の確かめようもない、優しい企画である。
 しかし、我々、教職員は、この歩数を嘘をついてしまっては、全く、面白くないものになる。本気で歩くから面白いのだ。なんと教職員にぴったりの企画であろうか。毎日、目標の歩数に到達したかが真剣勝負だ。
 
 そのうち教頭先生が、そんなエクセルシートを製作してくれた。あらそう、うちのチームは今、校内で何位なのね?自分は、18位ぐらいか!
 入力するとそれがわかる。オモシロイ!
 私も、美術室にあった板を使って、順位表を札にして、美術室の向かいの職員室前に置いた。生徒も、この札はなんだろう?と思って見ている。
 教職員も教職員同志で、なかなか先生を追い抜くことが出来ないけど一体どうやって歩いているんですか?と仕事以外の話題で盛り上がっている。
 こういう仕事以外の遊び、コロナ禍の、飲み会も無い職場で、どれだけ重要で面白いことだろう!

 私の場合、朝のウォーキングで6500歩行くから、その後の、授業とか教室と職員室の行き来で、軽く、1万4000歩ぐらいは越える。

 しかし、問題は、雨で、朝歩けなかった時だ。

 ある雨の日、まだ鍵を開ける前の美術室で、たまたまCDラジカセにあった「バッド・フォー・ミー」を大音量でかけて、ただ踊ってみた。

 うおっ!5分ぐらいの曲で、1000歩稼いだ!これは、いける!
 試しに続けてヒゲダンでもう一曲踊ってみた。なんと2000歩を越えた。

 いいねいいね💖

 この厚生会の企画は3か月続くのだが、なんだか、習慣化してしまい、この企画が終わっても、美術室で踊り続けた。

 ダンスとか踊りとかは全く得意ではない私だが、40代の時にコンテンポラリーダンスにハマって、マイケル・ジャクソンもリスペクトしている。

誰に見られることなく気持ちよく踊るカルリートスのダンス(⋈◍>◡<◍)。✧♡

 映画で、大邸宅に泥棒に入った美しい青年が、レコードをかけて、その居間で優雅に1人で踊っていた。(映画「永遠に僕のもの」より)
 これだ!私のやりたいダンスは。
 誰に見られるでもなく、自分が踊りたい楽しいダンスを踊ること。

 美術室の自画像用の大きな鏡の前で、ただただ好きに踊ってみる。
 なんだか楽しそうに踊る自分の嬉しそうな顔を見ていると、自分は、今日も、ハッピイで、ナイスな美術教師だと、確信できる。
 これは今日一日を楽しく始めるための強力なツールだと気づいた。

 今も、ダンナが寝た後、時々好きな音楽で踊る。
 しかし、いつも決まった場所で、朝一で、あの時踊っていた「バッド・フォー・ミー」のダンスが忘れられない。私の部屋に、防音設備はないけれど、自分にとってのそんな神聖な空間が欲しいのである。

 カルリートス、君のように踊りたいんだよ。

実際に犯罪者だったカルリートスは映画化されるぐらい天使のような美少年だった。

 


 

 


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