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キュリナリーズのポトフ⑨

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「ね、願い…?」

姫は困惑した。願いとは、何のことだろうか。
今自分が願うところは、命が助かることだ。
だから、立ち去ってくれるというのか?

…そんなはずはない。
そうであれば、最初から現れることなどしないだろう。
姫は「願い」について思考を巡らせていた。
いや、正確には思考を巡らす「ふり」をしていたのだ。
自らに芽生えたどす黒いものに触れないために。

だが、それにはお見通しだった。

「何をためらっている? お前が選ぶ道はひとつしかない。そうだろう?」

それは折り曲げた10の脚のうち一本を上げ、つま先を姫の左胸に当てる。
ほんの少しでも前にのめりこめば、心臓が射抜かれてしまうかの力加減であることを、姫は分かっていた。
それの声はますます邪悪に、甘く、姫の脳をとろけさせてしまうような響く声で続ける。

「私はお前のここにあるものに引き寄せられて参ったのだ。お前が私を呼んだのだ。お前が私を欲しているのだ。素直に私を求めよ。そうすれば、お前は望むものが手に入る」

「言っておくが、私はお前を脅してなどいないぞ? そうだろう?」

それはつま先に力を込めながら、意地悪く言う。
あくまで、すべては姫の意思と望むままであるという筋書きを望んでいるようだ。

凍てつく風がふたりを囲む。
姫の体温は奪われる一方だ。
彼女はこのままだと間違いなく死ぬだろう。
それの気まぐれで心臓が貫かれるか、低体温症に至るかのどちらが先か。

姫は青白く固まった唇を動かす。

「どうせ、このまま、死ぬなら…」

――つづく

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