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インビジブル

今回の寒波は日本海側に大雪をもたらしました。
こちらも気温が連日マイナスなので、解ける気配がありません。北陸、東北地方ほどではありませんけれど。

そんな寒い1日をcovid-19を避けて、連日雪かき以外は家で読書とTV視聴で過ごしています。本日読み終えたのはこちらです。

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昭和29年、大阪城付近で政治家秘書が頭を麻袋で覆われた刺殺体となって見つかる。大阪市警視庁が騒然とするなか、若手の新城は初めての殺人事件捜査に意気込むが、上層部の思惑により国警から派遣された警察官僚の守屋と組みはめに。帝大卒のエリートなのに聞き込みもできない守屋に、中卒叩き上げの新城は厄介者を押し付けられたと苛立ちを募らせるが―。はぐれ者バディVS猟奇殺人犯、戦後大阪の「闇」を圧倒的リアリティで描き切る傑作長篇。(単行本帯より)

この作品も中旬に発表される直木賞候補作品です。1990年生まれ2019年に松本清張賞受賞でデビューした若い作家の作品で、私は初めて著者の作品を読みました。

物語は太平洋戦争下に山深い寒村の三男坊が満州の開拓団に参加、軍に卸す製品の原料となる作物を作ることで、温かい食事と家庭に恵まれた男の告白から始まります。

そして一転戦後昭和29年の大阪に舞台が変わり、戦争によって変わり果てた父と、空襲で亡くなった母に負い目を感じ家族を献身的に支える姉を持つ、大阪市警察刑事新城洋が町の高架下を占拠するルンペン(浮浪者)を立ち退かすという応援任務に苦慮する場面と移ります。

そして単行本帯にあるように麻袋で覆われた刺殺体が発見され、それが国政の代議士北野正剛の秘書宮益義雄であったことから、中卒の新城は初めて担当する刑事事件ということで、東京帝大出身海軍飛行隊に所属していた国警大阪本部の過激政治犯専従警備部捜査員守屋恒成警部補とコンビを組むことになります。

その後右翼団体主宰者仁科乙治、ヤクザ者菅沼晋と連続して麻袋で覆われた刺殺体の発見され、守屋との生まれた環境も、学歴差、教養の違いも大きい新城が苛立つこともありますが、ヒロポンに溺れた父を守屋に救われた頃には、事件の捜査における聞き込みの方法や人を見る目に違いがあるからいいのだと互いを尊重し事件解決へと向かっていきます。

事件収束の鍵は、物語初めに登場した男伏屋実とルンペンたちが溺れていたヒロポンとえべっさんでした。結末は是非本作を読んでいただきたいと思います。

この物語の主題は2つあると考えます。

太平洋戦争中の満州における一部日本人の横暴や富の奪略と、戦後においても戦中からの利権を維持、一部の人間による戦争で失った生活まで脅かしたことです。

さらに小説は昭和29年ですが、時代は令和になっても政治資金規正法違反者は絶えることがないことです。この年改正警察法案が成立、戦後日本の警察が変わった時期を舞台にした点も大きな意味があったように思います。

「世の中がガラッと変わったというてもよることは同じや。法に則って秩序を保つ。それだけや。そのなかで、せやけどワシらは新しく生きていかなあかんのや」

大阪市警上司 古市の言葉が熱いです。

30代の若き松本清張小作家の警察小説は単なる犯人探し、事件解決のみならず、日本が負うべき先の戦争が残したものを熱く語られていて、私までつい感想も長文になりました。

今日から3連休の方もいらっしゃるでしょう。どうかcovid-19に気をつけて有意義な週末をお過ごしください。

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