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日本の強気相場が復活 Japan’s Bull Market Is Back. Five Stocks to Play the Rebound 株価反発で注目される5銘柄

日本株が過去最高値を更新

日経平均株価の過去10年間の円建てリターンは217%で(ドル建てでは118%)、S&P500指数の237%とそれほど大差はない。とはいえ、日経平均株価は最近、資産バブルの崩壊と経済がデフレスパイラルに陥る前の1989年に付けた過去最高値を更新したため、投資家はこれから投資するには遅過ぎるのではないかと迷っている。端的に言えば、答えは「ノー」だ。

GMOのパートナーで、2000年代前半から日本株式のポートフォリオを運用してきたGMOのユーソニアン日本株式チームを率いるドリュー・エドワーズ氏は、「日本市場は、わずか10年前と比べても大きく異なっている。まったく気づかれてこなかった市場だ」と語る。

その理由の大半は、日本の企業文化を変革している一連の小さな変化にある。新たな楽観論はインフレの復活によって下支えされており、インフレは数十年ぶりの賃金上昇と企業による製品値上げを可能にしている。さらに、サプライチェーン(供給網)の分散を望み、日本の技術基盤と円安に基づく相対的に低いコストに引き寄せられた企業による海外直接投資(FDI)の波も寄与している。

日本市場の過去10年間の上昇は利益成長に追随してきた。2012年末以降、東証株価指数(TOPIX)は約4倍へ上昇した一方、1株当たり利益(EPS)は約3.5倍に増加した。自己資本利益率(ROE)が10年間で約2倍の10%へ上昇したにもかかわらず、TOPIXの2024年予想株価収益率(PER)は15.6倍で、10年前の17倍を下回っている。スパークス・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャーである武田政和氏は、「日本企業の利益の質は、非常に改善した」と語る。

多くの投資家が、デフレと株価低迷を同一視してきたため、日本は投資家の関心の圏外にあった。2014~2015年にかけて安倍晋三元首相が導入した複数の改革に関する楽観論が投資家の関心をそそったが、進展が減速するとともに関心は薄れてしまった。しかし過去10年間に、さまざまな変化が企業文化に浸透し、ROEを改善させ、将来の改善への道を開いてきた。

ベイリー・ギフォードで運用資産160億ドルの国際アルファ戦略を運用し、日本株式に約35年間投資してきたドナルド・ファークハーソン氏は、「極めて異なった水準の活力がある。企業は収益性とコーポレートガバナンスに対する理解を深めており、投資家として非常に興奮している」と言う。


SERGIO DELLE VEDOVE/ALAMY

経営者が投資家と向き合うなど企業文化に変化

変化は、リーダーシップの世代交代とともに到来した。最近就任した最高経営責任者(CEO)は50代で、エドワーズ氏によると、1980年代の日本の好景気に対するノスタルジアを持っていない。2011年の東日本大震災と原発危機が、既成の政治的リーダーシップに対する反動を形成し、安倍元首相が先導した政策に対する道を開いた。社外取締役や取締役会における投資家の代理人という概念は10年前は異質だったが、現在の日本企業では社外取締役の数が増えており、20%の企業では社外取締役が過半数を占めている。過去には、投資家が企業経営者と会うことはほぼ不可能だったが、現在では、投資家の見解が往々にして求められる。企業のプレゼンテーションは、ROEなどの投資家が注目する指標に焦点を当てている。

主要機関投資家がこれらの変化を支持している。政府は多額の年金債務を埋め合わせなければならず、日本銀行は日本株式の大量保有者の一角を占める。企業に対して、非中核事業の売却などの手段を通じて価値の開放を促すアクティビスト(物言う投資家)やプライベート・エクイティ企業にとって、環境は一層快適になっている。運用資産7億0300万ドルのマシューズ・ジャパン・ファンド<MJFOX>のマネジャーである竹内俊太郎氏は、経営陣がそのような提案を、変化を促すきっかけとみなしていると語る。

竹内氏は、大企業が増配するか自社株買いを実施すると、他の企業も追随する傾向にあると言う。日本企業は1兆5000億ドルのネットキャッシュをため込んでおり、竹内氏は今後の自社株買いの増加と増配を予想する。2023年の自社株買いは約9兆6000億円で、アップル<AAPL>単独の2023年度の自社株買いにも届いていない。竹内氏は、「株主還元は、いまだに初期段階にある」と語る。

企業文化の変化のきっかけは、三菱電機<6503>のスキャンダルだった。調査の結果、経営陣が品質検査で不正を働いたことが判明し、多くの辞任につながった。エドワーズ氏は、新任の漆間啓CEOはそのショックを受けて、取締役会の質の改善、社外からの招聘(しょうへい)、不採算事業のリストラと非中核資産の売却、相対的に強力な事業への資金再分配が可能になったと語る。三菱電機の一部事業では利益率が悪化し、ROEは8%まで低下したものの、エドワーズ氏は、ROEが2桁台に戻るのは時間の問題とみている。

株価上昇を支えるNISAなどの要因


SOICHIRO KORIYAMA/BLOOMBERG

先進国の大半がインフレと格闘している一方で、日本は数十年に及ぶデフレの後で物価上昇の兆しを歓迎している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)とサプライチェーンの混乱がきっかけとなったが、武田氏はインフレの兆候は一過性ではないとみている。日本(東京都区部)の2月のコアインフレ率は2.5%だった。

日本の人口は2008年にピークアウトしたが、女性の社会進出や企業による高齢者再雇用によって労働人口は比較的安定している。しかし武田氏は、現時点で労働力予備軍の数は減少しており、労働力不足と賃金上昇のリスクが高まっていると言う。

2023年の春闘で、大手労働組合の平均賃上げ率は3.6%となり、今年は5.3%が見込まれている。賃上げによる消費促進が見込まれる。一方で、企業はインフレの兆候を数年ぶりの値上げに利用している。消費者は、インフレの兆しによってため込んでいた現金の置き場所を再考させられている。

日本政府は、少額投資非課税制度(NISA)の制度を改革した。日本の消費者が現金で保有している貯蓄2000兆円の半分の獲得が目標とされている。これまでのところ、家計貯蓄の11%が株式で保有されている。株価の前回ピーク時の1989年には、日本の家計貯蓄の20%が株式で保有されており、貯蓄の10%が株式に移動するだけでも市場に対するカタリストになる。

日本の株式市場の構成も、さらなる株価上昇にとって明るい材料だ。日本市場のテクノロジー銘柄のウエートは米国以外で高い部類にあり、半導体メーカーを含むテクノロジー企業の需要の押し上げにつながるような、米国と同じトレンドが働いている。日本は、最新のテクノロジー機器用部品の供給国で、例えばアップルのビジョンプロでは金額ベースで42%が日本製部品となっている。世界がサプライチェーンの再構築を検討している中で、円安によって日本は地政学的なヘッジとしてだけではなく、コスト面でも魅力的になっている。

半導体やM&Aにも有望企業


台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>が九州に工場を建設し、九州は半導体製造のハブになりつつある。TSMCは、九州に第2工場の建設を発表しており、第3工場も検討している。この流れに投資する手段の一つが電力インフラ工事会社の九電工<1959>だ。予想PERは13倍で、配当性向は30%未満である。

各国がコストの比較的高い国に生産拠点を構築して、従業員の高齢化に直面する中で、自動化の需要は増加しており、それはキーエンス<6861>に対する需要増加を意味する。キーエンスは投資家に長らく愛されてきており、PERは45倍と高い。しかし、キーエンスの事業は世界の自動化の2倍のペースで成長しており、ファークハーソン氏は自動化が自動車から物流などの他の分野へ拡大するにつれてキーエンス製センサーの使用が増加するとみている。それによって、キーエンスの売上高と利益の成長率は、過去10年間の平均の約15%を維持できる見込みだ。なおファークハーソン氏は、キーエンスの収益性が極めて高いにもかかわらず、創業者が自社株買いや買収に後ろ向きなために、現金の再投資に苦慮していると付け加える。

市場では、M&A(合併・買収)の機が熟している。証券取引所が企業のリターン向上を推進し、経済産業省がさらなる統合を推進するために買収に対する指針を変更しているだけになおさらだ。日本には約380万社の中小企業があり、そのうち250万社は70歳を超える創業者が経営している。その半数は後継者が不在だ。

日本M&Aセンターホールディングス<2127>はその恩恵を受ける立場にある。生産性を向上させるための企業のマッチングに人工知能(AI)ツールを利用しており、ファークハーソン氏は売上高と利益が成長軌道に戻ると予想している。来期予想PERは26倍で、過去5年平均の47倍を下回っている。

米国の投資家にとって、為替変動は不確定要素だ。円安が株価上昇に貢献しており、為替をヘッジした投資家のパフォーマンスは比較的良好だ。欧米が恐らく今夏に利下げを開始する一方で、日本銀行はマイナス金利の領域から徐々に脱しつつある。日本銀行はイールドカーブ・コントロール(YCC)を、早ければ今月にも終了する可能性がある。日銀は徐々に利上げすると予想されているが、金融政策の変更が短期的に加速して、市場のボラティリティーを高める可能性がある。

とりあえずは、円安が観光客を増加させている。オリックス<8591>はその恩恵を受ける態勢にあり、来期予想PERはわずか10倍だ。観光客がパンデミックの休止状態から回復するにつれて、オリックスの事業(ホテル、温泉施設、関西国際空港の運営事業)は回復する態勢にある。武田氏は、金利が正常な水準まで引き続き緩やかに上昇すれば、オリックスのリース事業も回復する可能性があると述べる。

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。