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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(全28話)

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3人の息子との足かけ13年にわたる「少年野球生活」を振り返り、親が子どもの習い事にのめり込んでいく過程と、その愚かさ、切なさを等身大に描く。少年野球(学童野球)に関わるすべての大… もっと読む
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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(1)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(1)

~プロローグ~

 私には3人の息子がいる。
 彼らを仮にイチタ(長男)、ジロウ(次男)、ミツキ(三男)と呼ぶことにする。イチタは現在大学2年生、ジロウは高校1年生、ミツキは小学6年生だ。
 3人とも小学生の頃、同じ学童野球チームで野球をやっていた。地域に根ざしたごく普通の少年野球チームだが、正確に言えばミツキはまだ所属していて、約3ヶ月後、12月初旬に行われる公式試合を最後に卒団することになる。

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【願】私が少年野球の物語を書く理由

【願】私が少年野球の物語を書く理由

~あとがき~

 【泣】少年野球に熱中した父親の末路を最後までお読みいただきありがとうございました。
 
 この物語がフィクションかノンフィクションかについては、皆さんのご想像にお任せします。「こんな父親がいるかもしれない」と思って読んでいただけたら幸いです。
 この他にもいつくか学童野球(ここでは分かりやすく少年野球と表記しています)を題材とした物語を書き上げました。今後何らかの形で発表しますの

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(2)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(2)

 先週土曜日、三男のミツキ(小6)の試合があった。
 相手チームはガラが悪いことで有名で、例えばこちらのピッチャーがフォアボールを出すと、「へいへい!ピッチャー乱れてるぞ!今のうちにどんどん点取っていこう!」と輩のような大声であおって来たりする。
 ベンチ入りしているコーチが率先してそんなことを言うのだから、子ども達もそれが当たり前だと思うようになる。こちらのミスをことさらに大喜びし不愉快極まりな

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(3)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(3)

 三男ミツキの卒団を目前に、練習中や試合中はもちろん、日常のふとした瞬間にさえも思い出がよみがえることが増えた。
 簡単に言えば感傷に浸っているのだ。

 先日、土曜日にもかかわらず練習が休みになった。うちのチームはいくつかの小学校の子ども達で構成されているが、そのうちの2校が運動会だったためだ。
 ミツキに「何かやりたいことがあるか」と聞くと「河原でキャッチボールがしたい」というので車で30分ほ

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(4)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(4)

 長男イチタが2年生の秋に入団したとき、チームの人数はイチタを合わせて16人しかいなかった。6年生は2人、5年生は3人。あとは4年生以下で、試合は大抵ボロ負けだった。
 
 イチタはいつもボールボーイだった。
 大きなヘルメットとブカブカのユニフォームに背番号21をつけて、白いタオルでボールを拭いては球審に渡しに行くのだが、いつもそのタイミングが分からず「ほら、今いくんだよ!」と、コーチに笑いなが

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(5)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(5)

 駅前再開発に伴い、何年もかけて工事が行われていた大きなマンションや住宅地が一気に完成した。そこに移ってきたファミリー層の受け皿となった小学校のひとつが、うちのチームがホームグラウンドとして使用している小学校だった。
 ミツキが5年生の春、こうしてチームの人数が突然増えた。

「前のチームでは、ピッチャーと、キャッチャーと、あと・・・ショートをやってました」

 まだあどけない雰囲気を残しながらそ

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(6)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(6)

 5年生のイチタは主にライトを守った。打順は6番が多かった。
 6年生6人、5年生5人、4年生3人で構成されたチームで、イチタはいつレギュラーを下ろされても不思議ではない実力だった。
 
 監督は穏やかで声を荒げるタイプではないが、子ども達とのコミュニケーションがあまり得意ではなくシビアな一面も持っていた。家で素振りをしていない子はすぐに見抜いて打順を下げられ、試合中にミスを2回すると懲罰交代させ

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(7)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(7)

 今週の土曜日も雨で試合は延期。台風の季節なので仕方が無い。

 雨の日はとりあえずバッティングセンターに行くが、100キロのボールを2セット打ったところで混み始めてきたので早々に引き上げて映画を観に行った。私には興味の無いアニメ映画だったが「学校の友達がみんな観ているからこれで話が合う」とミツキは嬉しそうだった。

 ふと長男イチタとの記憶がよみがえった。
 雨の日でも、いや雨の日だからこそと浮

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(8)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(8)

 少年野球の試合には時間制限がある。
 特にリーグ予選などではチーム間の実力に開きがあることが多く「7回まで」などと回だけで決めてしまうと永遠に試合が終わらない可能性があるからだ。
 この時間制限で一度うちのチームは痛い目を見た。
 ブロック予選の決勝戦で、7-6で負けていた。ピッチャーの調子が悪く、フォアボールや守備のミスでの失点が続いてイヤなムードだった。ただ打線はクリーンナップが機能してコツ

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(9)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(9)

 6年生にとって最後の大会は不運だった。
 ブロック予選をギリギリ2位で勝ち抜いて本部大会に進んだものの、その初戦でいきなり苦手チームと当たってしまったのだ。
 このブログの(1)で登場したガラの悪いあのチームだ。
すごく強い訳ではないのになぜだか相性が良くない。ここぞという時にいつも勝てない因縁のチームだ。

 そんな大人達の苦手意識が伝染してしまうのだろうか。ピッチャーの調子は決して悪くないの

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(10)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(10)

 イチタが少年野球最後の打席で見せた美しい三球三振は、結局報われなかった。試合は次の回まで行われたが、表でさらに3点追加され、うちのチームはそこから1点も返すことなく負けたのだ。
 モヤモヤとした黒い感情が私の中に残った。
 そのはけ口を探していた私に、帰宅後イチタがこう言った。

 「ねえオレ、すごいきれいな三振だったでしょ!?」

 私は爆発した。
 
「本気で言ってるのか!?あんなサインを出

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(11)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(11)

 イチタとの思い出を書いたので、次男ジロウのことも書こうと思う。

 イチタと入れ替わる形でジロウが入団したのは3年生の春だった。
 お兄ちゃんと家でキャッチボールをしていたおかげか、入団当初から「期待の新人」として扱われて私は鼻が高かった。
 実際3兄弟のなかでもジロウは一番身体能力が高く、ベースランニングでは5年生より速く走って監督達を驚かせた。
 
 ジロウは夏休みに入るとAチームに引き抜か

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(12)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(12)

 4年生になるころには、ジロウはピッチャーとして投げさせてもらえるようになっていた。
 4年生以下のジュニアチームの試合では、エースで4番が当然のようになっていた。6年生にも通用する球を投げるジロウの出番は必然的に増え、私は完全に浮かれていた。お世辞だと分かっていながら「プロを目指すんですか?」などと言われると顔が緩んで仕方がなかった。私がジロウを鍛えたことが結果に結びついたのだと、私の努力を認め

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【泣】少年野球に熱中した父親の末路(13)

【泣】少年野球に熱中した父親の末路(13)

 少し悩んだがやはり書くことにする。
 私の恥ばかり書き連ねることになるが、これから少年野球に関わろうとする親の皆さんの参考になるかもしれないからだ。 

 ジロウが野球肘で休養が必要だと報告したとき、K監督は私とジロウにこう言った。

 「なんだ、最近の子は弱いなぁ。ゲームばっかりやってんだろう」

 そこからの土日はまるで修行のようだった。
 休養が始まって最初の3ヶ月はバッティングも禁止され

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