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第一話 50歳

あー腰が痛い。

ついに今日で、50歳という年齢になってしまった。

身体はもう至るところが痛いし、数年前から痩せる事は諦めてどんどん丸くなっている。

私、神田恵子(カンダケイコ)は2児の母で、大手メーカー勤務。それなりに毎日忙しい日々を送っている。

そんな自分の事よりも、今は気がかりなのは子供達のこと。

長女の美奈は、今年から高校生なんだけど、どうやらダンス部に入ったみたいで、今は勉強よりも部活が楽しくて仕方ないご様子。

高校は第一志望に推薦で入れたり、ここまでの人生さほど努力せずに進んできてしまっている事が、親としては心配だった

高校はお勉強の方も是非頑張って欲しいものだ。

そして、もう一人長男の貫太(カンタ)は、今小学校6年生

隣のママ友の影響で中学受験も考えてたけど、始めるのが流石に遅すぎて断念した

まぁうちの経済事情からして、私立は無理。

大人しく公立中学で成績キープして、美奈のように上手に進学してほしい。

でも貫太は私が40の時の子だからか、ちょっとだけいつも人よりも何をするにも時間がかかる子だった

もちろん検査とかするとIQとかに異常値がでているわけじゃないんだけど、どこか心配なところがある子だった

そのせいか、どうしても貫太ばかりに気を取られてしまう事がちょいちょいあったけど、その分娘には超絶甘い父親がいたからバランスは保たれていた

そう、二人の父親で、私の夫

神田耕一郎(コウイチロウ)、45歳。

そう、私よりも5個も年下の旦那。結婚した時は年下の旦那羨ましいがられたりもしたけど、段々自分が高齢になっていくとその有り難みを余計に感じたりする。

耕ちゃんとは、社内結婚だった

新入社員で入ってきた耕ちゃんは、色白でガリガリで例えるなら、ホワイトアスパラみたいな奴だったけど、笑った顔が可愛くて、多分最初から気になっていた気がする

家が近かった事もあって、一緒に帰る事が増えた

どちらからとも無く気づいたら、お互いの家を行き来する仲になって、同棲して、気づいたら結婚してた

結婚してからも耕ちゃんの家での同棲の延長みたいな感じで毎日楽しかった

結婚して3年後美奈が産まれて、その5年後に貫太が産まれた

この20年、毎年欠かさず結婚記念日にプレゼントをくれる旦那だった

普段はそんなにマメなことはしないけど、やる時はちゃんとやってくれる

いつだって、頼りたい時は頼りになる人だった

私たち夫婦はなんだかんだ上手くやってきたし、この先もずっとこの生活が続いて行くと思っていた

はずなのに、、、

(台所)

卵焼きを焼く

奈美「ねぇ、ママ今日お気にの靴下履きたいから洗濯しといてって言ったよねー?」

私「え?ピンクのやつでしょ?洗ったよ?」

奈美「違うよ!今はどっとのやつーーー」

私「え、なにそれ、そんなのあった?」

奈美「もーーーー。みんなでお揃で買った奴で合わせて行く約束してたのにー」

私「えーごめんー。」

卵焼きが焦げる、、

私「あーー失敗した。ってごめん、奈美パパ起こしてきてくれる?」

奈美「はー?なんで私が。」

私「だって、もう7時30だよ?遅刻しちゃうもん」

奈美「それ、私に関係なくない?」

私「おねがいーーー。ママ今奈美のお弁当頑張って作ってるんだから!」

貫太「パーパーーー」

奈美「貫太でかした!パーパぁーーー」

大爆笑する二人。あーわーうるさいい。

ってかあいつ何してんだよー。寝坊なんて滅多にしないのに。

弁当がなんとか完成する。

私「貫太はやく、ご飯食べちゃってー歯磨きする時間なくなるよー」

貫太「今日の卵焼きは苦い」

私「もう、ねぇいつまで寝てるの?具合悪いの?」

寝室のドアを開ける

そこに旦那の姿はなかった

私「え、、」

今日早く出てったのか?

え、でも社用携帯もPCも置いたままだった

どういうこと、、、

とりあえずプライベート携帯に電話してみるけど、繋がらない、、、

奈美「ママーーもう私行くよー?」

私「あ、はーい!行ってらっしゃい!」

えーー落ち着け。

どういう事だ。え?なに?どこいったの??

奈美「ママーーー‼︎」

私「もう、わかったってば!行ってらっしゃいって!」

奈美「違う!パパが!!」

私「え、、?」 

慌てて玄関に向かう

そこには見慣れた文字で

『探さないでください。耕一郎。』と書かれていた