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第三話 痕跡

なんだか情けなくて泣けてきた

50歳になったばかり。人生のやっと折り返しみたいなところにやっと辿り着いたと思ったら、突然こんな事が起きる

私の人生ってなんなんだろ?

母もまだ私が高校生だった時に亡くなった

その分父が愛情深く育ててくれたのは間違いないけど、やっぱり悲しかったし、未だに寂しい

孫を見せたかったし、抱いて欲しかった

そう、私にはこの子たちがいる

子供たちにはなんて言う?

パパが突然失踪しました。

まだ貫太は小学生だよ?理解できる?捨てられたって思うよね?

住宅ローンもまだ残ってるよ?

、、、、、

って貯金!!

いや、、待て。待て。

家を買った時に貯金はほぼ使い果たしているはず

頼りなのは旦那のご両親から頂いていた生前贈与のお金、、、

あれはいくらか纏まった額になったら、定期預金していたはず

そしてあの定期預金は私名義で組んでるから、旦那が手をつけられない領域のはず

一旦はあの定期を崩すしかないか、、、

なんかここにきて、貫太を私立に入れなくて本当に良かったとか思ってしまっている自分が情けない

旦那がいなくなった

分かっているのはこの事実だけ

もしかしたら事件に巻き込まれてる可能性だってあるのに、私は今リアルなお金の心配をしている

でもこれが現実

だって私だけじゃない。二人の子供がいるんだ。

旦那がいないなら、私しか二人を守れない

私たちも生きていかないといけない。

まずは無いものを整理してみよう

旦那は昔から几帳面な性格で、兎に角身の回りの物は全て綺麗に整理されていた

だから無くなってる物があるなら、すぐにわかる気がした

まず会社絡みのものは全部ある

社員証、携帯、PC...

定期入れ、財布、、あ、財布??財布もない

あれ、定期入れもない

あ!ない。

旦那はコレクター癖があって、カードゲーム集めにハマっていた

レアカードだけを特に丁寧に保管してたファイルもない

やっぱりお金になるものは持っていってる

生きてる。

確信した。

時間じゃない。

アイツはただ、、、逃げただけだ。

そう思うと、もうどうでもよくなった。

後は残された物を数えるだけ

まず旦那のキャッシュカードはもちろん財布に入ってただろうからない

旦那名義でも定期預金をしている

でも通帳や印鑑は置きっぱなし。おそらく定期までは手をつけてない

何事も慎重派で、失敗する事がなによりも嫌いな旦那にしては、定期預金には手をつけないのは意外だった

ってかでも会社は?

45歳にもなって、そりゃ次長という微妙な役職だけど、、

うちの会社で次長は課長から転落した人の役職だった

突然何の連絡もせずに、失踪するなんて、、

明日からなんて言えばいいの?

失踪しました。って言うの?

暫くは有休使って、可能であれば休職扱いにしてもら、う?

というか戻ってくると思ってたらこんな仕方しない気がする

もっと上手に色々出来るはず。

戻ってくる気が本当にない?

ということか、、

私がなんとかしてくれるだろうとか思ってたら、頭カチ割ってやりたい

同じ会社っていうのがなんとも言いがたい

洋服もクローゼットを見る限りは、お気に入りの服2着のみ

下着はもう何年も自分で洗ってもらってたから、枚数が減ってるのかはさすがに分からなかった

お金に洋服は持っていってる

、、、、

完全に家出やん。いや、蒸発?

こう言う時の状況を上手く日本語で説明できない私。。

昔はこんな事する人じゃなかった

職場でも信頼されてたし、途中で投げ出すようなタイプでは決してなかった

それなりのプライドもあったし、、

あ、パスポート!

あるな、、というか有効期限切れてる

という事は、国内にはいる

正直旦那のヘソクリがいくら貯まっていたのかは分からない

でもストックオプションで800万ぐらいは儲かっていたはずだから、売ってから何年経ったか分からないけど、500万は残っていそう

500万あれば、どのくらいの期間暮らしていけるのだろう?

いや、でも待って。

いま水光熱費と家賃は旦那の口座からの自動引き落とし

これはどうなっていくのだろうか?

生きてるなら口座も生きている事になる

じゃ、払ってくれるのか?

どういうつもりなんだ、、

でも、、スマホとPCを置いていっている

旦那は写真を撮ったり絵を描く事がすきだった

だからスマホやPCに保存しているデータは思い出で一杯だったはず

このデータは持っていってないの?

本当にこの20年を全部捨てるつもりなの?

ねぇ?耕ちゃん、、